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あの、夏の日7

絵を描いている合間に、私は、圭子さんのところに出かけました。
古橋さんから、住所を聞いたので、
電車に乗って、家を探しながら行きました。

丁度、奈良と京都の中間あたりの、静かな駅でした。
電車を降りて、歩いて行きましたが、あまり店もない静かな通りです。
少し、路地を入ったところに、岡さんと圭子さんの家はありました。
岡さんらしい、古い落ち着いた日本家屋の一軒家でした。
玄関のベルを鳴らすと、声がして、奥から人が出てきました。

「こんにちは〜。」
「はーい。」

「こんにちは、圭子さん。」
「あら、あーちゃん。」

「古橋さんに聞いてきた。」
「上がって、」

「岡さんは、。」
「扇子の仕事の事で、京都まで出てるわ。」
「そう。」

部屋に入って見ると、布団が敷いてありました。
「寝てたの?」
「ふーん。つわりが酷くて、」

「そう、ごめんね。すぐ帰るから、これ、おみあげ、和菓子だよ。」
「ありがと。大丈夫、もう、起きて夕食の支度もあるからね。」
お部屋は、エヤコンがなくても、
それでも、風が通る様で、ひんやりしていました。

「扇風機かけるね。」
「いいよ。気を使わなくても。」
「うちわ、うちわ、。これ、うちわね。」
「有難う。」
私たちは、縁側に座って、夕涼みしながら、話しました。
もう、夏も終わり秋の風が吹いていました。
トンボが、縁側の隅にとまっています。

「家を出て、大丈夫。」
「なんとかね。時々帰ってるからね。」

「いつ生まれるの?」
「3月か、4月かな?」

「楽しみだね。」
「うん。」

わたし達は、たわいもない話をして静かに過ごしました。
岡さんと一緒で、彼女も無口なのでした。
長居をすると、”よくないなぁと思い”
「岡さんが帰ってくるまでいたら」
と言われましたが、おいとましました。

「じぁ、帰るわ。」
「ありがとね。又、きてよ。」
「うん。」
駅の道を歩きながら、彼女はいい旦那を捕まえたなぁと、
微笑ましく思ったのでした。

しばらくは、本気で絵に向き合わないとなぁ、展覧会もあるしと、
考えながら歩きました。


秋が深まっていった頃、
私は初めて出した展覧会で、
小さ賞を頂いたので、展覧会のカタログを買って、
おじさんの所を尋ねました。
おじさんに、お礼を言う為です。

住所を尋ねて行くと、奈良の街中にある、
静かな佇まいの日本家屋でした。

「こんにちはー。こんにちはー。」

何回か声をかけると、おじさんは奥から出てきました。
「はい、どなた?」
「私です。絵のモデルになって頂いてた。」

「ああ、どうしたんだい?わざわざ、きてくれて、。上がってくれよ。」
「はい、お邪魔します。奥さんは?」

「うーん。まあ、上がり。」
「はい。」
私は、静かな和室に入って、周りを眺めまた。
クラッシックギターが、立てかけてありました。
おじさんが、お茶を入れてきてくれました。

「西さん、先日モデルをして頂いたおかげで、
展覧会で賞を取ることができ、カタログをもらって頂こうと思って、、。
ありがとうございました。」

「へー、私の顔が載ってるの?へー。」と、
それでも嬉しそうに不思議そうに、
カタログを手に取り見てくれました。

「へー、ありがとう。こんなこと初めてだよ。
私の顔が、絵になったなんて。ありがとう。
しかも、前の方に載っていて、カラーだね。」
カタログを、見ながらにっこりしています。

「いいえ、こちらこそ。ありがとうございました。」
「ちょと待ってて、あげるものがあるからさ。貰ってよ。」

おじさんは、奥から小さな手彫りの木箱を持って、出てきました。

「これは、どこだったかな?インドネシアだったか。
旅行したときに、買った小物入れだから、
宝石箱とか、アクセサリー入れだね。貰ってよ。」

「ええ!、いいの?じぁ、頂こうかな。」

手彫りが、箱の周りをぐるりと、取り囲んでいて、
暖かな温もりがある雰囲気です。
気の利いたプレゼントは、若い男の子はしてくれないので、
流石にシニアは、女心を掴むのがうまいなぁと、
思ったことを覚えています。

「今。少し大変でね。絵も、描きに行けないよ。」
「え、なぜどうしたの?」

「嫁さんが、ガンになって入院したんだよ。
バイト、探さないと行けなくなったよ。
今まで、食わせてもらってたから、大変さ。
住民票が、ここにないからね。
どうして、仕事探すか?
家出してきたまんまなんだよね。
もう、何十年もなるから、。」

「ふーん。仕事探しか、。ちょと、どうしたらいいか聞いてみるね。」
「え、誰かにきいてくれるの?」
「うん。」
私は、生活相談の係りの人に、相談をかけて、
おじさんに紹介しました。
その方は、個人的な話なのでこれ以上は、
本人と話すからと、相談に乗ってくれました。

西さんは、仕事を探すことができました。

「長い間仕事をしていないので、仕事探しが大変だよ。」
「そうなの?何か見つかった?」

「うん、ラブホテルのシーツ洗いの仕事が、見つかったよ。」
「仕事が、見つかって、とりあえず、良かったね。」

西さんは、奥さんが病気になって、
介護と仕事に終われることになりました。
以前の、のんびりした生活は出来なくなったのです。
それでも、元来の呑気な性格があるのか、
ラブホの面白い話をしてくれました。

デッサン会は、無くなっていたし、
おじさんのモデルの仕事でも合わなくなったので、
それでも、仲良しになったわたし達は、
電話をしたり、お互いの家を行き来していたのです。

あの夏の日7わ終わり
最後までお読み頂きありがとうございました。








最後まで、読んで下さってありがとうございます! 心の琴線に触れるような歌詞が描けたらなぁと考える日々。 あなたの心に届いたのなら、本当に嬉しい。 なんの束縛もないので、自由に書いています。 サポートは友達の健康回復の為に使わせていただいてます(お茶会など)