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染みわたる、秋。 【秋刀魚の炊き込みご飯】

旅の朝はなぜかやたらとお腹が空く。
さっき起きてまだ東京駅に着いただけ、なのにお腹はもうペコペコで、夜が明けきらないうちに家を出ないと間に合わないような新幹線も、旅の一食目となる駅弁を思えばなんのことはない。
旅先に着けば着いたで食べたいものがあるし、そうは言っても駅弁を食べない旅は寂しいからまず朝食と称して駅弁を差し込める早朝の出発は、朝がめっぽう強い私には好都合。

駅弁と普段目にする市販のお弁当との一番の違いは、買うときには中身が見えないことだと思う。そしてそこがとてもいい。
見せることで手に取ってもらいたい商品は彩りやお得感のあるサイズなどが優先になってくるけど、旅の友には持ち歩きに耐えるぎっちり詰まったコンパクトさと常温で心配のない味付けが大事。巻紙をはがし蓋を開けて初めて目に入ってくる茶色の面積の広さに胸が踊る。

茶色の大半を占めるのは、ごはんの上にびっしり敷き詰められた具か、もしくは炊き込みご飯か。何れにしても主体はごはん、昔も今も変わらないその潔さがとてもいい。
駅弁に炊き込みご飯が多いのは、白飯に比べて味付けの調味料によってごはんが乾燥しにくくなるというのが一つあるようだけど、要するに時間が経ってもおいしく食べられる工夫
白飯ならそれを誘う味のおかずが欲しくなるけど炊き込みご飯はおかずいらずで、具が多ければそれもおいしいく、醤油味が行き渡った具なしの茶飯でも十分おいしい

ごはんを炊くのには一定の水分と熱と時間が必要で、そこに具を一緒に入れて同時に調理し、その素材から出る旨味を全部吸いこんでくれる炊き込みご飯は調理法として大変合理的で、何よりおいしい。
炊ける間の湯気の匂いと炊きあがりの蓋を開ける瞬間の歓喜を味わえるのは自作の特権。秋もなんだかやたらとお腹が空く。

◾️秋刀魚の炊き込みご飯の作り方◾️

【使った材料】
●秋刀魚…2尾
●米…225g(1.5合)、洗ってからザルで水気を切っておく
●出汁…300g
●酒…15g
●醤油…18g(薄口醤油10g+濃口醤油8gで合わせて使用)
●しょうが…20g
●万能ネギ…5〜7本
●お好みですだち
●塩
※土鍋で炊いた時の目安の分量です

秋刀魚をワタごと丸ごと炊き込む、おとなっぽい味わいの炊き込みご飯。今年も秋刀魚は不漁だそうで、丸々太って脂ののった大サイズは高値で中々手が出にくいけれど、小さめでも手頃なものが手に入れば敢えて塩焼きだけじゃない秋刀魚料理のおいしさも楽しみたい。

①秋刀魚を焼きます
秋刀魚は鍋に入れやすいように頭と尾を落としてから、中骨に沿って真ん中あたりにまっすぐ切り込みを入れ長さを半分に。
後でごはんと一緒に炊いてから骨を除くので、こうして太い骨に沿って切り込みを入れておけば後で取りやすい。
両面に軽く塩を振り、こんがりと焼いていきます。

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昔は秋刀魚のワタが苦手で、塩焼きもまずワタを取ってから焼いていた。
それがある時、まな板も汚れることだし「ワタの味はちょっと身に移るけど、そのまま焼いて食べるときに避ければいいか」となって、そのうち「まあ、食べればいいか」となって、今では平気になった。除くも食べるもワタの扱いはお好みでどうぞ。

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魚を焼くのは魚焼きのグリルか、フライパンでもクッキングシートを敷いて焼くと焼き魚らしい焼き色もつけられる。
近頃スーパーのお惣菜コーナーやコンビニでも焼いてある秋刀魚が売られているから、そういうのを便利に利用するのも手。
焼き魚として食べるならワタまでしっかり火が通っているか気にしないといけないけど、この後更に火は入るので、表面がいい色になれば今日の場合はあまり気にしなくて大丈夫です。

②鍋にお米を準備します
秋刀魚を焼いている間に、洗ってザルで水切りしたお米、分量の出汁と、酒、醤油を鍋に入れておく。
醤油は色・味共にすっきりの薄口醤油をベースに、濃口醤油のコクを加えるイメージで合わせて使用しました。もちろんどちらか1種類でも大丈夫。

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私は炊飯器を持っていないのでごはんはいつも鍋で炊いていて、そうすると当然内釜の目盛りというのがないから、あらかじめ計った水分を入れる必要がある。洗ったお米の水気をザルで切るのはその水加減のため。
空気が乾燥する季節は、ザルにあげた上の方のお米だけが乾きずぎないように一度くらい混ぜ返したり、日によってはちょっと蓋かラップかをかぶせておいたり少し気遣います

炊き込みご飯は味の決め方が少々難しく感じるところだけど、一回決まりさえすれば具材が変わっても基本は毎回同じで、そうなると急に簡単な料理に思えてくる。
炊飯器の場合なら、調味料を全部入れて、出汁の量で普通のごはんの目盛りに水加減すればいいと思います。

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秋刀魚には焼くときに振った塩でほんのり下味がついているから、ごはんの方もごはんだけで食べておいしい味加減を目指して、それが炊きあがりで合わさって丁度良くなるイメージ。
ただし濃くし過ぎれば炊いた後に引くことはできないので、やや薄めから探って行くことをおすすめします。

一緒に炊き込むしょうがは皮をむいてみじん切りにしておく。
ワタも一緒に炊き込む今日のごはんには、青魚の臭み消しとして定番のしょうがの香りをガツンと効かせると、風味が重なることでよりおいしさが増す。

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③秋刀魚が焼けたら、炊きます
秋刀魚にいい焼き色がついたら、鍋にしょうがのみじん切りを加えその上に焼いた秋刀魚ものせて、蓋をして中火にかけます。

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[私の普段のお米の炊き方]
蓋に穴のない鍋で、お米1合(180cc)に対して、同量より少し多め(1〜2割増し位)の水加減で炊いています。
⒈蓋をして中火にかけ(10分後位目安)、蓋の隙間から少し湯気が出てきたタイミングを見てごくごく弱火に火加減する
⒉そこから9分そのまま弱火で炊く
⒊時間が経ったら蓋を開けてのぞき、表面に水気が見えないでお米に吸い込まれていれば火を止める
⒋蓋をしたまま10分位蒸らしたら出来上がりです

※お鍋で炊くときは、時間を忘れないようにタイマーを鳴らすと安心。

ごはんを炊いている間に、薬味の万能ネギもたっぷり目に刻んでおきます。

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④炊けたら、秋刀魚の骨を取り除きます
蓋を開けてのぞいて見て、水分が吸い込まれてごはんが炊けていたら火を止め、秋刀魚の骨を取り除きます。
秋刀魚だけを別皿に取り出せばやりやすい。その間は蓋をしてごはんを蒸らしておけば仕上がりも丁度良く。

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入れておいた切り込みから身を開いて、まず一番太い中骨をするっと取る。
厄介なのがワタを包んでいる腹骨で、細かくてちょっと取りにくいけれど、お箸をうまく使いながら丁寧に根気よく。ここで頑張っておけば後でおいしいごはんが食べられます
多少残っても「骨あるかも」と自分が気をつけながら食べればいいし。硬そうなヒレなんかもあれば一緒に除いてください。

⑤で、完成です
骨を除いた秋刀魚を戻して、刻んだ万能ネギと一緒に秋刀魚の身をほぐすようにしながら混ぜ込みます。

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彩りにさらに刻みネギをあしらって、焼き魚にあると嬉しいすだちがこのごはんにも嬉しい。香り立つしょうがとネギの香味にすだちの爽やかさと酸味、ワタの風味を和らげながら引き立ててもくれる。

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炊いて食べてみて、もしも味が濃ければこうして柑橘を絞ったり混ぜ込む薬味を増やしたり、薄ければ漬物か何か添えたり、ある程度なんとかなる。今おいしく食べることと次に繋げること、同じくらい大事。

お米も秋刀魚の産地に合わせて北海道の「ゆめぴりか」に。ほどよい粘りと甘みやわらかさが特徴と聞く通り、混ぜている時に手に伝わってくる優しい感触にすでにおいしそうな予感がする。
米の食味ランキング「特A」を8年連続で獲得しているという北海道米の実力派は、さすがのバランスの良さで食べてもふっくら優しくおいしかった。

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この日の友は、山形/加藤嘉八郎酒造[大山 特別純米酒ひやおろし]の、渋さが目を引く数量限定・秋刀魚ラベル。
一夏を酒蔵で過ごして出荷される秋の酒ひやおろし。落ち着いた味わいに山形の酒らしい華やかさも溶け込んで、もうそんな季節かとしみじみするのにうってつけの旨さ。

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しみじみついでに、是非行ってみてほしいのが〆出汁茶漬け
塩、薄口醤油少々で薄く味を付けた出汁を熱々に沸かして、わさびをたっぷり添えたごはんにかける。あればごま、刻み海苔などもたっぷり。
炊きたてとはまったく趣の違うおいしさにびっくりして、〆といいつつここにきて思わずお茶漬けをお代わりしてしまう。
胃も温まって秋が染みわたる。

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一年の実りが一気に満ちる秋。今年は秋刀魚がどうだとか、新米が出たとか、ひやおろしの味とか。移ろいゆく季節のその儚さまで全部楽しみたい。
秋ってなんだかおとなっぽい。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

[さんまの炊き込みご飯]の動画をYouTubeに投稿しています。合わせて見てもらえたら嬉しいです。


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