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濃姫に思いを馳せていたら、甘栗を食べずにはいられなくなった。

「既に信長は具足を着け終わって、采を片手に突っ立ち、濃姫が、勝栗と酒の祝膳を夫の前からさげるところだった。」

流星 お市の方 上

いま私が読んでいる、「流星 お市の方 上」(永井路子)の一節である。話の流れとしては、信長が斎藤道三の助太刀のために出陣しようとしている場面だ。そのとき斎藤道三は、息子の義竜の軍勢に攻め立てられていた。2つの勢力は美濃での2大勢力だったので、戦もそれなりの規模である。そしてどうやら斎藤道三の方が劣勢らしい。
このときはまだ、信長は尾張の田舎大名だった。よって信長が参戦したところで大した加勢にはならない。しかし信長は、斎藤道三に引き立てられて織田家で成り上がっていけたので、彼の窮地には馳せ参じなければならない。更に信長の正室の濃姫は、斎藤道三の愛娘であった。

これがこのシーンの背景である。この時の信長の心境はわからないが、濃姫の心境はわかる。父親がもう脱せない窮地にいるという不安。普段は飄々としている濃姫が、いつになく陰鬱な雰囲気になっており、父親を心配する娘の心情がうかがえる良いシーンだ。

しかし、私は全く別のことが気になってしまった。良いシーンで早く読み進めたいが、それがわからないことには進めない。読書家の方ならこんな経験あるだろう。

私が気になったそれとは、「勝栗」。なんやそれ。初めて聞いた。出陣前に栗なんか食うのか。そして調べてみるとそれは「かちぐり」と呼ぶらしい。どうやら昔からの縁起物だそうだ。正月にもよく食べられていたらしい。ああそうか、確かに。おせちには栗きんとんは必ず入っている。

よくよく調べてみると「勝軍利(かちぐり)」と呼ばせることで縁起物としていたそう。また金色と景気の良い色なので、賑やかしにもなると。出陣前にもよく食べられていたそうだ。

なるほど。だから出陣前の勝栗だったのか。とても納得した。しかし、濃姫の心境を思うと複雑である。負け戦と分かっている合戦に旦那を見送り、且つその敗戦の将は自分の父親である。彼女はその柔く光る甘い栗を見て、何を思ったのだろう。

小説だと読み進めたくて、わからない単語なども飛ばしがちになるよね。でもこういった感じで、わからない単語をしっかり調べてみると更に物語を追想できて面白い。この現象に名前を着けたいぐらいだ。


話は変わって、昔の勝栗の作り方を調べてみた。まず秋に収穫した栗を10,20日ぐらい天日干しにする。そしてそれを2昼夜火にかける。それで出来たものを臼で挽いて皮を取り、実だけを残す。この実は長期保存が可能らしい。そして食べる際はその実を煮て、甘く味付けするらしい・・・

やはり昔の加工は手間がかかる。しかしそれだけ高級品だったということだろう。そりゃ死ぬかもしれない戦の前の食事くらい華やかな方がいいよね。


そう思うと転職の際の面接も合戦ではなかろうか。私という人間を、売り込むという名の攻め入り。そして上手く攻め入れれば、仲間にしてもらえる。なるほど、就職面接とは現代の合戦かもしれない。しかし、そんな簡単に勝栗が手に入るか・・・

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「甘栗むいちゃいました」じゃねえか!!!



というわけで来週ある面接3つは、甘栗むいちゃいましたを食べてから出陣することにする。是非勝栗を食って勝馬に乗っちゃいたい。




※勝栗を調べた際に観たサイト

https://gurusuguri.com/special/season/osechi/spcu-osechi_kuri/?__ngt__=TT131e2985d002ac1e4ae428kISGP-r5a2669U4Haic5C9


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