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ノイズがぼくを(2024.01.12)

・眠剤を切らしてしまった。病院の予約は次の月曜にしか取れなかったので、あと3日はろくに眠ることができないだろう。年明けの心療内科はめちゃくちゃ混むので、同じ状況の人がたくさんいると思う。一緒に夜を乗り切りましょう。


・しかたなくあんまり体質に合わない方の眠剤を飲み、案の定副作用で苦しむことになった。デエビゴね。語感がいいから、いくら苦しめられようとも責める気になれない。こいつは体を強制的にシャットダウンさせられるような効き方をする。しかし脳は中途半端に覚醒しているため、金縛り、悪夢、そして幻聴が同時に襲ってくるようなことになる。僕の場合、特に幻聴がひどい。


・昨日は鼓膜が破れるのではないかと思うほどの金属音が聞こえ、何とか頭だけを動かし、右耳をぎゅっと枕に押し付けるとそちら側から聞こえる音は小さくなった。脳が作り出した音なのに、耳をふさぐと緩和されるのが本当に面白いと思う。エラーを吐く脳が整合性を取ろうとしているのがおかしい。なぜか耳鳴りが残っているし。そんなわけないのに。


・怪音で悶える中、この体験を今すぐブログに書かないといけないという使命感に駆られ、起き上がりパソコンを開く。何やらジーッというホワイトノイズのような音がする。それはどんどん大きくなり、ヴゥーンという低い音に変わる。おかしいと思って確認すると、今のMacBookにはついていないはずのイヤホンジャックがスパークし、明滅を繰り返している。やばいやばいと思っていたら今度はキーの隙間からどろどろとした液体が湧き上がり、瞬く間にキーボード全体を覆う。どうやら2年間かけて蓄積した僕の手汗が漏電を起こし、一気に噴出したらしかった。


・目を覚ますとベッドの上にいて、夢だったということがわかる。しかし低いノイズは鳴り止んでおらず、また片耳だけ枕に押し付ける。昨日の夜はデエビゴの効果が薄れるまでずっとそんなことを繰り返していた。


・そういうわけなので、今日はかなり体がだるい。頭も重くてうまく働かない(いつならうまく働いてくれるんだ)。今晩も安眠できないという確定された未来を思うと気分が落ち込む。そんな中、オザケンの新曲の配信が始まったことを知る。じっくり曲を聴けるコンディションではなかったし、正直言って聴く気も起きなかったがとりあえず再生し、刹那に僕の頭はスパークした。しおしおになった枯れかけのシナプスが強制的に起こされ、猛烈に信号を伝達し始めた。


・サブスクでの配信が始まっている上、↓のリンクでも聴けます。サイトに飛んで1回タップすると音が流れるので注意してください。



・タイトルは「Noize」で、歌唱はGEZANのマヒトだ。なんで???と思ったけれど、聴いたら最高あっぱれ納得。


この感覚なら 子どもの頃からある
動物のように 身を澄ましていく
レモンパンのように メロンパンのように 淡く

Noizeがぼくを変えていく
快感が今 はじまる
無邪気なイディオムを胸に
新しい語彙へ 走るよ
最高さでしかない
空から放たれた火花の中

柔らかさは 優しさはつづく
本当の傷をつける

ぼくの心の震え 君のいるところまで
伝わるかな 伝わるかな?

ノイズが君を変えてゆく
身体を顔を声を眼を
そのすばらしさを言う!
空からもたらされた歌の中
柔らかさは 優しさはつづく
本当の傷をつける

駒場東大前 改札出て左
図書館の分類の0から9は
天球 ぼくの心を満たす
NOIZE WHO A
エジプト ヨーロッパ バビロニア インカ
待った!
約束に間に合うかな?
青山スタジオまで自転車でゆく
さりげなくホリに立つ
でもすぐ暴風雨みたいに
アナーキックな気持ちになる

秋の坂道 宵闇の森に薫る
植物のように 身を澄ましていく
カルダモンのように シナモンのように 自由

ノイズが人を変えてゆく
わかること わからないこと
その複雑さを生む たまらなく切実なものが
ある決意をくれる 空から放たれた火花の中

今 変わってゆく
棲む場所も着る服も愛も
そのせつなさを言える
新しい語彙を願うよ
ため息をつく!
それはゆっくりした瞬間
ゆっくりした涙
ゆっくりした共感で

Noizeがぼくを変えてゆく
身体を顔を声を眼を
そのすばらしさを言う
空から放たれた火花の中
柔らかさは優しさはつづく
本当の傷をつける

小沢健二「Noize」


・特設ページで読めるし、部分的に引用して詞の素晴らしさを伝えるつもりだったが、いつの間にか全部を書き写していた。


・言葉は世界を論理的に表すためにあり、語り得ないものについては語るべきではないって、哲学を2回終わらせた男という強すぎる肩書きを持つあの人が言ってた。


・「Noizeが僕を」と「ノイズが君を」「ノイズが人を」が対応していてどれも「変えてゆく」で結ばれる。心や社会の中の言葉にならないものが「Noize」や「ノイズ」であって、それは個々人の中でニュアンスが違うものなので、違う単語で表される。オザケンにとっても他者のノイズは未知なので、スペルはわからない。だから「君」と「人」のノイズはカタカナで統一していると思われる。ひとりひとりのノイズが新しい「イディオム ≒ 語彙」を生み、たしかに個人を、世界を変えてゆく。本当にすばらしい詞だ。


・「Noize」のスペルが間違っているのは、「KENJIOZAWA」のアナグラムだからだ。オザケンの中にある言葉にならない領域を、彼だけのノイズ「NOIZE」と表している。


・冒頭のレモンパン〜の歌詞もアナグラムだ。「Melon」と「Lemon」。言葉遊びが巧みなのに「巧い」という感想にとどまらず、全体を通して勇気が湧いてくるすばらしい詞だ。


・曲はというと、ロジカルに組み立てられた幾何学的な冷たさを持っているのに、変なメロディーやアレンジのせいで、わけのわからない祝祭に満ちた楽曲になっている。歌詞の内容も含め、ここ数年のオザケンの集大成と言っていいような曲だと思う。最高。


・僕個人の話になるけれど、ここ数日は特に「言葉」や「語彙」について悩んでいた。それはぶり返した風邪みたいな悩みであり、どんな言葉を覚えても何かを正しく伝えることは絶対にできないという、そんな青くさい絶望の上で何年もくるくると旋回している。それをオザケンが「無邪気なイディオムを胸に 新しい語彙へ 走るよ」という一節で貫いてくれたように思えて頭がスパークしたのだった。


・僕の幻聴も、僕の心から生まれたノイズであり、それを正しく言葉で理解し、新しい語彙で伝えられるかもしれないという希望に打ちひしがれた今日だった。眠れない毎日もどんとこいだ。


・また明日〜。






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