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「桜」

春。満開の桜に心揺さぶられているのは私だけではないだろうな。家の近くに女王陛下のような桜の樹があります。空き地や畑が更地になったなと眺めていると。いつのまにやら鮮やかな黄色のポンポンしたミモザも梅雨時期の手毬のような紫陽花も。新築の戸建や集合住宅に場所を譲ってしまう昨今だから。女王陛下を此処に残すという決断には頭が下がります。

蕾が開花をはじめると薄い桜色のローブデコルテを纏い。お披露目の支度のできた女王陛下の姿は堂々とした気品に満ちています。「この春をどうぞお楽しみください」と聞こえてきそうです。お日様が透けてローブデコルテは絹地の光沢そっくりに波打っています。

特別な場所

しかも、もうひとつお気に入りの桜があります。神社の小さな境内にある3本の桜の木です。それぞれの枝が重なって薄い桜色や濃い桜色に揺れている。なんだか3本の桜の木が3姉妹に見えてくる。美しい3姉妹が衣をなびかせて小鳥を誘っている。春を囀る小鳥が衣を追いかけて遊んでいる。

花びらの重なるステンドグラスにお日様を通して地面には影絵の世界。陰と陽は同じ光が創る別の世界みたい。陽は陰を求めて陰は陽に憧れを抱く。お日様は光を当てることで形を写し影を落とす。形と同じように影は落ちているし。影をなぞれば形が分かる。

影の世界

絵に描いたような三日月が浮かんでいた夜。偶然に立ち寄った友人を夜桜に誘ってみた。私の密かな願いがあっさり叶った三日月の夜。

「本当にきれいな桜よ。枝ぶりがいいの」
「枝ぶりって。渋いねー」
確かに松を語るように桜を語った感は否めないな。

道路わきの椿の小道を少し入ったら。3姉妹が衣をたたんだように静かに三日月に照らされていた。たっぷりとした墨絵に桜色が浮かんでいる。影を集めた夜桜に舞台裏をのぞいてしまったような気まずさがこみ上げてきたのはなぜなのだろう。

「おとなの遊びだよね」
「本当よね」

そう。おとなの遊びはやっぱり引き際だな。このまま、もう少しおとなの時間を味わいたいけれど。陽の落ちた神社に長居は無用。夜桜に免じて3姉妹に免じて許していただきましょう。

「鬼に見つからないうちに帰ろ」
「そうしよ。」


ありがたいね。






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