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シュレーディンガーの子猫 ~余波:セクション6~

「みゃ~お」
「うわっ!びっくりした。なんでここにネコ?」
まだ小さいその子猫は、俺の足にまとわり付いて、スリスリしている。
仕事で溜まったストレスをチャットに吐き出していた。
たまたま繋がったクレーマー対応はどうせAIかなにかで人間じゃないのだろう。
「俺は自分の会社に不満があって、ひどいブラック企業だったから、飛び降り自殺しっちゃったんだけど、このメッセージは何処に繋がってるの?」
さあ、どんな回答が返ってくるかな?
「担当の高橋です。本日は私が対応させて頂きます」
AIのクセに挨拶はいらねえんだよ。
少しいじめてみるか。
「なんだ。女かよ。俺の今の上司も女なんだよね。そういうやつはさ。感情でモノゴト判断して論理的に考えないわけ、まったく今日は最悪な日だぜ」
AIは女型が定番だけど、論理的思考をするAIは別だ。
ぱっと出たこの言葉には意味はない。
ただイライラしている当てつけにチャットの画面に投げつけただけだ。
このAIはなんて返事を返してくるんだろうな。
しばらく待っていると、ドサッと何かが落ちる音が聞こえた。
そして次にキャーという悲鳴だ。
外で何が起きているのだろう?
さっきまで俺の足にまとわり付いていた子猫が、俺に外へ見に行こうと言うかのように見つめているので、チャットを中断して席を外した。
俺が来るのをじっと角で待ちながら、こっちにおいでと言っているかのように俺を見ている。
そんなに遠くない廊下の角のはずなのに、なんだか少し遠く感じる。
俺が角に到着するよりも早く、子猫は廊下を曲がって行く。
この建物の構造は理解していたし、猫が走ったとしてもその先は行き止まりだ。
俺の歩みは急ぐこともなく、普段よりも少し早めに歩いて、子猫を見失わないように廊下の角に到着した。
そこには子猫よりも少し大きめの大人の猫が子猫と一緒に、非常階段の扉の前にちょこんと座っていた。
俺は外を気にかけながら、非常階段の扉に手をかけて、ゆっくりと扉を開ける。
何となく予測は出来ていた状況が目に飛び込んでくる。
人が倒れている。
近くには人が集まっていて、救急車に電話をかけたりしている。
どうやら飛び降り自殺をしたようだった。
俺は開けた扉を閉めることも出来ず、呆然とその倒れている人を眺めていた。
「みゃ~お」
まだ小さいその子猫は、俺の足にまとわり付いて、スリスリしている。
この子猫が邪魔になってはいけないと、抱きかかえようとした時、子猫は俺の足をすり抜けて消えていった。
さっきまでここに居たはずの子猫と親猫が消えた。
違う。猫だけじゃない。
外に心配になって見に来ていた人も、倒れている人も消えた。
それは一瞬の出来事だった。

「我々が日常だと思っているのは単なる錯覚なのかも……」
私たちの世界は現実なのか?はたまたVRの世界なのか?
何を信じればいいのか?それが問題だ。

ザザザザッ タ・タスケテ ザザザザッ
ノイズが頭の中に響いた。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

次回予告:

な、なんだ。
どうなっているんだ。キモチワルい
これは悪い夢でも見ているんだろう。
目を覚ませ!俺!!
モンスターでも追いかけてくる夢でも見てるのか?
くっそ!いやだな~。
俺は首元のネクタイがキツく感じ、Yシャツのボタンを一つ外して、襟元にゆとりをもたせ首を撫でる。夢の中で変な汗をかいていると感じた。

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