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シュレーディンガーの子猫 ~余波:セクション8~

扉を開けて飛び込んで止めさせようと思っても、扉を握る手が接着剤で引っ付いているかのように離れない。
恐れている。
それにまた消えるかもしれないと思っている。
これは俺の悪い夢で、俺の記憶から再生されている映像だ。
また消える。消えてくれ。
「馬鹿は死んでも治らないって言うからな。お前がここから飛び降りて死んでも馬鹿は馬鹿なままだって、生きてる価値ないね。給料払うの止めたほうがいいってことだ。そうだ。来月の給料は差し押さえるから、お前に一円も払うなんて勿体無い」
女上司のヒールに力が入り、俺の頭が床に押し付けられる。
頭からじんわりと血が流れ始める。
床に押し付けられている俺の頭からではなく、扉に手を付けて中を覗いている俺の頭からだ。
何故か重力に逆らうように顔の横に血が流れてくる。
それは目の前で見ている床に踏みつけられている俺と同じ血の流れ方だった。
この後、どうしたんだっけ?
俺、この後どうしたんだ?
俺はとっさに、目の前にいるドッペルゲンガーな俺を助けようと、扉を開けて踏み込もうとした。
女上司の足で踏みつけにされている俺が女上司を跳ね除けると、勢いよく窓際まで走り出し窓を開けると、その開けた窓から飛び出した。
ここは10階。窓から飛び出せば真っ逆さまに地面に叩きつけられる。
確実に死だ。
女上司は目の前から消えた。
窓から飛び降りようとする自分を追いかけている時に、女上司の体をすり抜けたのはわかった。
飛び降りる寸前に自分の腕に掴みかかろうとして、腕を掴めずにすり抜けたこともわかった。
これは悪い夢だ。現実じゃない。
現実なら俺は生きていない。
俺は死んでしまったのか……
開け放たれた窓の外を恐る恐る覗き込んでも、そこには誰もいなかった。
しかし、地面には濃い血の黒ずんだ後が残っていた。
馬鹿な。さっきはあんな血の跡無かったはずだ。
俺は急いで駆けていき、エレベーターに飛び乗って一階まで降りた。
飛び降りた後にできたであろう血の跡を見に戻る。
子猫に導かれて開けた扉を再び開けると、そこには血の跡がくっきりと浮かび上がっていた。
嘘だ。これは悪い夢だ。
俺が飛び降りて死んだのなら、今ここにいる俺は何者だって言うんだ。

ザザザザッ タ・タスケテ ザザザザッ
ノイズが頭の中に響いた。

またコレだ。この後に幻覚みたいなものを見せられるんだ。
でも、特に何も起きなかった。
俺は頭を抱えながら職場の席へと戻る。
耳鳴りを振り払おうと、チャットの画面を開いた。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

次回予告:

俺はもう一度、同じ言葉を発していた。
「俺は自分の会社に不満があって、ひどいブラック企業だったから、飛び降り自殺しっちゃったんだけど、このメッセージは何処に繋がってるの?」
打ち込んだチャットの画面に目を向けると答えが帰ってきた。

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