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シュレーディンガーの子猫 ~乱舞:セクション9~

俺はもう一度、同じ言葉を発していた。
「俺は自分の会社に不満があって、ひどいブラック企業だったから、飛び降り自殺しっちゃったんだけど、このメッセージは何処に繋がってるの?」
打ち込んだチャットの画面に目を向けると答えが帰ってきた。
「担当の高橋です。本日は私が対応させて頂きます」
さっきと同じだ。
オウム返しのようにAIがこの言葉を選んで発しているのだろう。
「なんだ。女かよ。俺の今の上司も女なんだよね。そういうやつはさ。感情でモノゴト判断して論理的に考えないわけ、まったく今日は最悪な日だぜ」

ザザザザッ タ・タスケテ ザザザザッ

ゾクッとした寒気を感じた。

「申し訳ございません。ただ今混み合っております。私でよろしければお話をお聞かせください。内容を正しく関係者へとお知らせいたします」

俺はこの後、何かを衝動的に打ち込んでいたが、打ち込んでいる最中に目の前が暗くなっていく。

ザザザザッザーーーーーーーー
チャットをしていた画面が突然砂嵐状態になりブラックアウトした。

「た、助けて!」
妙にリアルなその叫び声はどこから聞こえて来たのだろう。

ゴツン!

低く鈍い音と額に響く痛みで俺は目を覚ました。
「痛ってぇ」
額を手のひらでさすりながらゆっくりと目を開ける。
蛍光灯の明りで眩しい。

目を開けた時、クレームチャットの途中で打ち込んで止まっている画面がチカチカしている。
そこに最後に俺が書いた言葉が残っている。
「お前が俺の代わりに死ねばいい」
馬鹿なことを書いている。
AIのクレーム対応がこんな事で死のうとする想像をしている自分が愚かしかった。
機械は通り一遍等な回答しか出さないだろう。
「分かりました。あなたの代わりに私が死にます」
AIのクレーム対応の返信にバカバカしさを感じた。
共感した回答を返さなければならないマニュアル化されたAIだからなのだろう。
よくもまあ、こんなバカバカしいクレーム対応が通用するものだ。

「た、助けて!」
先程から続いている耳鳴りとは違う。
妙にリアルな叫び声が耳に響いた。
そう言えば、周りにいたはずの他の職員たちも今は席に居なくなっている。
これはさっき見た幻想なのだろうか?
俺は恐る恐るあの扉へと続く廊下に足を運んだ。
まさか、あの猫が出てきたりしねえだろうな。
あの扉の向こうが騒がしい。
開けたくはない。
確かめるべきではない。
俺の廊下を歩むスピードは徐々に落ちていく。
扉に手が届くか届かないかの場所から身動きできず、立ち尽くしてしまった。
この位置からは必死に手を伸ばしても扉には手が届かない。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

次回予告:

あの猫が出てくることを拒絶しているのではなく、むしろ猫が出てくることを期待した。
これ以上先に進んで現実を直視するぐらいなら、猫に夢を見させてもらったほうがいい。
俺は強くそう願い目を閉じた。

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