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初めてのヨントンの思い出③ 2023/01/15

〜2021年に解散した韓国のアイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜

5分間のヨントン(映像通話)は、あっという間に半分近くが過ぎた。

まるでSHOWBOXに戻ったかのような会話に、私は満ち足りていた。

ハルさん、今まで何してた

推しがそう質問した。
「え?今まで??」そう訊き返すと、推しは「うん、今まで何をして過ごしましたか?」と言い直した。

最後に会ってから今までどうしてたか、という質問のようだ。

「推しくんのこと、ずっと待ってた」

そう答えると、推しはグフフと笑った。

ハルさん、ライブ見たいでしょ

少し改まって、推しはそう言った。

「うん!ライブ早く見たい。あさってのオンラインライブ、すごく楽しみ!」と、私は答えた。

ヨントンの2日後、別のイベント会社が主催する日本向けのオンラインライブが予定されていた。
韓国のファンたちは、日本ばかりズルいと不満を漏らしていたが、韓国でイベントをしても稼げないのは誰の目にも明らかだ。
(韓国のファンは10代から20代前半、日本のファンは20代から50代、出せるお金が全く違う)

本当はオンラインじゃなくて生でライブが見たいけど、この状況ではどうしようもない。
日本のファンはATM、と思われようが構わない。とにかく私は、彼らのステージが見たかった。


ようやく韓国の事務所が、日本向けのイベントにやる気を出したことが、素直に嬉しかった。
少し遅すぎたけれど…

「あさってのオンラインライブは、ハルさんが聴きたい曲もあるし〜、新しい曲も歌うかも!」

推しは、嬉しそうにライブの話をしてくれた。

ハルさん、何が聴きたい?

突然質問されて、私は少し焦ってしまった。
制限時間は残りどのくらいだろう、だいぶ時間が経ったから、あと1分あるかないか…

残り時間のことを考えると、焦ってなかなか曲名が出てこなかった。

「え、、っと、聴きたい曲たくさんあるから…」
そう言って誤魔化そうとしたが、推しは「何が聴きたいか言って言って!」と、答えを聞くまでは引き下がらない雰囲気だった。

早く答えなきゃ制限時間が来てしまう…
焦れば焦るほどタイトルが思い出せなかった。

「僕がソロで歌ったことがある曲でもいいしー、歌ってほしい曲でもいいよ」

そう言って答えを促す推し。

「道!あの、、、、、オンヌンギル、、?」
そう言うと推しはすぐに「ああ、"僕に来る道"? うん、わかった。今ちょっとだけ歌ってあげます」と言って、歌詞を思い出すように目線を上に向けて、サビの部分をうたってくれた。

大好きなソン・シギョンさんの歌だ。
優しい推しの歌声によく合う。

歌い終わると推しは「他には?他にはありますか?」とまたリクエストを訊いてくれた。

時間は大丈夫なのだろうか、と私はまた焦る。

「너의 모든 순간(君の全ての瞬間)が聴きたい」
そうリクエストすると、推しはまた歌詞を思い出しながらサビを歌ってくれた。

歌い終わると推しは「今日は、ここまでです」と言いながら照れ笑いを浮かべた。

本当に、SHOWBOXに戻ったみたいだ。
あの頃、推しはよく「何が聴きたい?」とリクエストを訊いてくれた。

『今日はここまで』という言葉に、これからも歌ってあげる、という意味が含まれているようで嬉しかった。

あ、そうだ、ハルさん…

推しが何かを言いかけた時、『お時間になりました。終了します。ありがとうございました。』とスタッフの音声が聞こえた。

推しは「うわぁぁぁ」と慌てた様子で、「ごめんねハルさ〜んT^T またね」と申し訳なさそうに謝りながら、バイバイと手を振った。

私も「うん、バイバーイまたね〜!」とカメラに向かって手を振った。

画面が切り替わる間際、推しは「ウヒっ」とコミカルなポーズをして退出した。

可愛くて、私は吹き出してしまった。
そしてパソコンは、zoomの黒い画面に切り替わった。

そういう子供みたいなことをするところは、変わってないな〜と、しばらく私はパソコンの前で1人で笑っていた。

ふと我に帰ると、しーんと静まり返った部屋の中で、何となく気まずい感じになる。

さて…と独り言を言いながら、パソコンを閉じた。

ヨントンはとても楽しかった。
始まる前は、5分も何を話したらいいだろう、気まずくなったらどうしよう、と考えていたけれど、終わってみたら5分はあっという間に終わってしまった。

緊張、高揚、そして終わった後の脱力感。

ヨントンは楽しいけれど、同時に寂しさも感じる。
ヲタ友とこの気持ちを分かち合えたら、どんなに楽しいだろう。
だけど外出自粛や、県を跨いだ移動の自粛が呼びかけられている中、なかなかヲタ友と会うことは出来なかった。

LINEでヲタ友にどんな話をしたのか報告をして、ひとしきり盛り上がった。

ヲタ友は、「このパンデミックが収束したら、推しとヨントンしたことがすごく貴重な体験になってるかもしれないね」と彼女らしい前向きなことを言っていた。

そうだ。考えてみたら推しとビデオ通話で話すなんて、今まで考えられなかったことなのだ。
会えないことを悲しむより、今出来ることを最大限に楽しもう。

それまでヨントンに及び腰だった私だが、これからは出来る範囲でたくさんヨントンに参加しようと、前向きな気持ちに変われた。

私の初めてのヨントンは、幸せな記憶となった。


後日談へ続く。


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