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国士舘大学 新潟演技発表会 2024

外では冷たい雨が降る中、鳥屋野体育館の中は若いエネルギーと観客の歓声であふれていた。毎年、山田小太郎監督が「この演技会に初めて来たという方いますか?」と観客に尋ねるのだが、初めての人とリピーターが半々くらい。つまり、試合会場と違って「男子新体操ってなに?」という感じの方も相当数おられると推察する。にもかかわらず、演技会終了後は皆さん、ニコニコしながら「よかったね〜」「最高でした!」「すごかった」と帰って行かれるのである。新体操部の部員たちも、本当に楽しそうに演じている。そして、鳥屋野体育館の職員の方々のサポートがまた素晴らしいのだ。新潟の食べ物も大変美味しい。(へぎそば、のっぺ、南蛮えび…)
そんな今年の新潟演技発表会を、取り急ぎ文章でご紹介してみたい。(動画も後ほどYouTubeにアップ予定)

マット運動

今年のマット運動は、国士舘大学の体操着を着用して「授業風景」を見せてくれるという趣向。全員が体操服でマット上にずらりと整列。まずは前転から。おお、綺麗!後転。そしてバク転!ここでお客さんから「おお〜!」とどよめきが。あれだけの人数で一斉にバク転すると、すごい迫力。次にバク宙。さらに「おお〜!」のトーンが上がる。先生役の近藤日向(こんどうひゅうが)選手がマイクを持ってナレーターをするのだが、これがうまい!こんなに喋れる人、荒川栄先生と山田先生以外にもいたのね、と思うほど。

右端のグレーのスエット姿が先生役の近藤選手

選手は次々に体育の授業をはるかに超えた技を繰り出して、もうビュンビュン跳んでいる。例えば体操競技で一人の選手が演技する様子なら、オリンピックの映像などで誰もが見たことがあるだろう。しかし、こんな大人数で全方向から跳びまくる光景は、なかなかお目にかかれるものではない。お客さんはもう大喜びである。団体選手の田中皐士朗選手は高速バク転の連続を披露し、やんやの喝采。さらには個人選手が次々と手具を投げ上げ始め、キャッチが見事に決まる。主将の浪田倭(なみたやまと)選手が「気をつけ!休め!前へならえ!」と号令をかけると、そのたびに後ろで小競り合いが勃発するという小芝居も大いにウケていた。

最後まで小競り合いする二人

個人演技(砂田侑哉、野村壮吾、太皷真啓)

砂田侑哉選手は広島の三次高校の出身であるが、入部して来た時、「僕は新体操をあまり知らないので教えてください」と山田監督に言ったことがあるという。どんな初心者かと思いきや、とんでもない。伸びやかで表現力があり、日本人にありがちな肩が内側に向いてしまう癖がなく、背中のラインが綺麗!今シーズンのブレイクを期待したい選手だ。
野村壮吾選手は高校時代から実績のある「国士舘のタンブリング王子」。山田監督に「おそらくウチで一番タンブリングが強い選手」と紹介されていた。ロープの演技は、目まぐるしく技が詰め込まれた難しい演技だが、私の素人目ではほぼノーミスだったように思う。休むところのない、ずっと走っているか跳んでいるかという印象を与える疾走感ある演技。「ゴム毬のような」という形容詞がこれほど似合う選手もいない。ラストに背面からの投げ技が決まると、仲間から「オッケーイ!」の声が上がった。
鹿児島実業高校出身の太皷真啓(たいこまひろ)選手は、クラブの演技を。衣装はおそらく、向山蒼斗さんが着用していたもの。演技中にクラブの投げ→シェネ→キャッチであやうく落下しそうになったが、マットのギリギリの場所でキャッチ。本人は演技後のコメントで「おとこキャッチ」と呼んでいた(根性で落下を防ぐ感じか?)。ラストの落ちてくるクラブをクラブで押さえる技も見事に決まる。息が上がってゼーゼーしている中、山田監督にマイクを向けられ、「皆様、本日はお足元の悪い中…」と礼儀正しい挨拶。鹿実時代から鍛えられたトーク力も炸裂。

団体A, B

なんと今回、中田真太郎選手がA団体、B団体の両方で演技を。B団体のメンバーが直前にコロナになってしまったという。今年から団体は6名から5名編成にルール変更となった。世界大会がある女子や国体に合わせるため、という説明がなされていたが、自分の印象としては、5人になってもさほど違和感はなかった。ただ、実施する選手の方は6人と5人では大違いのようで、相当キツいとのことであった。
B団体は、2022年の演技を。もともと6名編成で構成が作られているものを、5人用にリメイクしての演技。演技の中で選手が頭の上で手を叩く場面があり、選手応援席も一緒になって手を叩くという斬新な演出がなされた演技だ。叩く場所はわかっているのに、リズム感も瞬発力もない私は、どうしても一緒に叩くことができない。ぬうぅ…。そしてなんとこのB団体には、高校3年生で4月から国士舘大学1年生になる村山涼選手が参加していた。あの愛くるしかった国士舘ジュニアの村山涼君がもう大学生…(気が遠くなりそう)
A団体は、今シーズンを闘う新作の演技。多くは語らないでおく。ぜひ試合会場で、力強くもエレガントな国士舘団体を目撃してほしい。

個人演技(吉留大夢、星野太希、赤羽拓海、大塚幸市朗)

昨年はジャパンにも出場し、トップ選手の仲間入りをした吉留大夢選手。ロープの新作を披露してくれた。この曲は、吉留選手が踊ると迫力が増してとてもいいと思う(新作なのであまり語らないでおくが、足でロープを投げ上げる珍しい技が入るのでご注目を)。昨年の新潟では、ダイエットに成功した話をして客席をわかせてくれたのだけれども、今年もリバウンドはしていない模様。
名取高校出身の星野太希選手はクラブの新作。「この曲で踊るのか!」という驚きがあったが、演技が進むにつれて星野選手の世界観が見えてくるようだった。考えてみると名取高校の先輩である佐藤三兄弟も、選曲の斬新さを持っていたように思う。「どんな曲でも自分のものにして踊る」能力が、名取の選手にはあるのかもしれない。山田監督に「練習ではポロポロ落としていたけれども」と言われていたが、落下なしで演技をまとめ切った。
赤羽拓海選手は、今回の新潟で私が個人的に一番「技術力が向上した」と感じた選手だ。冒頭の3回前転キャッチは、伸ばした手の中にスティックがスッと収まり、体を回転させながらの背面からの投げ〜キャッチも見事に気持ちよく決まる。「おお凄くないか?」と驚きつつ見ていたら、ラストの投げでとても惜しいキャッチミスあり。山田先生に「ここはもう一回やっとかないとね」と言われて、再度「投げ〜3回シェネ〜前転〜キャッチ〜すぐ投げ〜キャッチ」の技をやり直し、成功させていた。
大塚幸市朗選手のリング、長い長い転がしが入るのだが、その転がしの仕方がすごい。説明するのが難しいが、2本のリングを持ったまま体は回転しつつ、1本のリングだけが離れてマット上をグルーっと回っていくという…。文字では伝わらないと思うので、ぜひ東インカレへ。ラスト、片足を高くあげてリングをキャッチする決め技で会場がおお〜っとどよめいていた。

個人演技(織田一明、村山颯)

国士舘大学大学院生、新体操部コーチ、NHKテレビ体操アシスタントの三足の草鞋を履く織田一明さんは、スティックと徒手の創作演技を。曲は鬼塚ちひろさん。彼が高校時代にOKBの発表会で創作演技をした時、私は「振り付けの才能」を感じたのだが、今回の演技もまさにその振り付けが光る名演だった。現役選手たちの超絶技巧が手具操作やタンブリング によって表現されるとしたら、彼の場合は「体」が語るというか、その全身の筋肉の動きそのものが技巧という感じがするのだ。彼が持つ表現力を「華」とか「色気」とかこれまで語ってきたけれども、「織田一明」という種類の表現力が存在するのかもしれない。なぜなら、彼の体で、彼の振り付けによってしか表現され得ない何かがそこにあるのだから。

会場の皆さんと一緒に頭の体操をしているところ

中学3年生の村山颯選手。さあ来ましたよ!2、3歳の頃から国士舘の体育館にいたという生粋の国士舘育ち(お兄さんは村山涼選手)。う、上手い。上手すぎる。これが中学生の演技か。山田監督も「大学生に引けを取らない」と紹介していたが、まさにその一言。国士舘ジュニアは、今や全国にその精鋭が散らばり全国大会でしのぎを削るという状態になっているが、どの選手も基礎がしっかりしていて、動きと姿勢が綺麗なのが素人目にもわかる。大学生たちと同じ体育館で練習しているということも強さの秘訣かと思われる。彼の演技する姿に、「ここはちょっと川東君っぽい」とか「向山君みたいな」とか思ってしまうのは私の幻想だろうか。あの体育館には国士舘DNAの断片が散らばっていて、それがマイクロバイオームのように代々受け継がれていっているのかもしれない。

個人演技(岡本瑠斗、森谷祐夢)

岡本瑠斗選手は、同期の森谷選手と切磋琢磨して全国優勝を狙う、国士舘個人のツートップだ。ミスしそうな気配がないというか、ゆとりさえ感じられる安定感たっぷりの演技。斜前屈の後にグワーッと腰を反らせるところ、「今日は控えめ?」と思ったら、腰を痛めていると山田監督の解説が入る。このリングの作品は豪快な投げと、体の高低差を利用して動きを作り出す部分が面白い対比を生み出していると思う。新潟恒例のインタビューには少々手こずっていたところがちょっとかわいらしい(森谷選手も)。山田監督には「この二人は演技に全振りしているので、トークは苦手」と言われていた。でも、OGFではしっかり喋れていたのを知っています!笑

森谷祐夢選手はロープの演技を。言わずと知れた昨年の全日本インカレ個人総合チャンピオンの登場である。国士舘ジュニア会員番号1番の彼がついに大学4年生のシーズンを迎える。山田監督にとっても思い入れのある教え子の一人であろうと思う。長縄を見ていると、彼のロープに対する尋常でない感覚がわかる。足元が軽い、というか、ロープが足の下を通過する瞬間と位置を、視野外で感じ取れる感覚が体の中に内蔵されているようだ。さら、さら、さら。そんな擬音を付けたくなるような跳び方である。それは、ジュニアの頃からロープを操ってきた者が持ちうる能力なのかもしれないし、ひょっとしたら森谷選手だけが生得的に持っている能力なのかもしれない。「森谷選手だけが生得的に持つ能力」といえば、ロープを跳ぶ技術だけではなくて、彼の演技に通底している「清らかさ」もそうだ。なぜかはわからないが、彼の演技を見ると心が清められるような気がするのだ。それは私だけではなくて、複数のファンが異口同音に言うことなのだ。こんな不思議な思いを観客に抱かせる選手がほかにいるだろうか。
ロープの演技のラストには、新しい技が使われていた。ぜひ東インカレで見ていただきたい。

集団演技「紡(つむぎ)」

毎年新作を作ってこの新潟でお披露目してくれるのだが、今年の演技は「糸」の曲を後半に持ってきていた。歌詞と振り付けもシンクロしていて、「国士舘と言えば糸だよなぁ…」としみじみ昔を思い出してしまう。国士舘で個人選手として活躍された弓田速未さんが「糸」を演じたこともあったし、それを引き継いで田中啓介さんが演じたこともあった。そして団体で「糸」を赤い衣装で演じた年もあった。我々Ouen MRGは今回、4名のスタッフで取材を行ったのだが、その4名は男子新体操というスポーツがなければ出会うこともなかっただろう。いつも会場でお会いするファンの皆さん、保護者の皆さんとも出会うことはなかっただろう。今日、国士舘の青年たちが紡いでくれた糸が織りなす布は、今度は誰の心をあたためるだろうか。

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