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映像の問題を、そろそろ真剣に考えよう

男子新体操は打ち出の小槌か

本題に入る前に、私たちがどのように活動費を捻出しているかについては、こちらの記事を参照していただきたい。↓

理想としては、交通費などの取材費を減らして出す動画の本数を増やせば、より収益を上げることができる。

実は、その理想を簡単に実現する方法がある。
公式の販売映像を買って、違法にYouTubeにアップロードすればいいのだ。コストは映像の購入代金のみ。映像撮影の手間はゼロだ。中には私達が掲載している英文をそのまま盗用しているものさえある。もはや打ち出の小槌状態。下手なマルチ商法よりもよほど楽に稼げる。

動画の黎明期

男子新体操の映像をYouTubeにアップする人にもいろいろいて、大会主催者が公式に販売した映像をそのまま盗む人もいれば、今ほど撮影規制が厳しくなかった時代に自分で撮影した映像をアップする人もいる。男子新体操がもっと無名だった頃には、こうした行為によってデメリットを遥かに凌ぐ大きなメリットが生まれた。「カジツ」というブランドが生まれたこともそうだし、シルク・ドゥ・ソレイユからスカウトが来たことも、井原高校の動画が世界的にバズったこともそうだ。

その動画を見てファンになった人々も多いだろう。かくいう自分もその一人である。YouTubeに男子新体操の動画がなければ、このスポーツに興味を持つことは一生なかったと思う。(↓こちらは私たちが出した鹿実の映像)

かつて、動画を上げる人々の側にも「男子新体操をなんとかしてメジャーにしたい」という、それはそれは切実な思いがあったことと思う。また、当時は会場での撮影規制が今ほど厳しくなかったため、客席で撮影したものをYouTubeにアップするという行為そのものが今ほど問題視されておらず、いわばグレーゾーンにあった。

こうした初期の「有志」の活動の結果生まれた鹿実ブランドは、私たちにとって大きな収入源となっている。たいていの取材は経費をカバーできるほど収益が上がらないので、鹿実をはじめとする数本のヒット動画によって、その他の動画の取材費が賄われている。つまり、私たちのビジネスそのものが、鹿実ブランドを作り出した名もなき有志の努力に依存した形なのだ。
(↓多い時には、1分間に100回以上の視聴回数になることも。)

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失われたチャンス

販売動画をそのまま違法にアップした井原高校2019の試合動画は、現在500万回以上視聴されている。本来、大会主催者のものである映像の権利侵害とともに、男子新体操が生み出す利益が匿名の個人に流れるという、深刻な問題がある。

男子新体操という動画コンテンツの価値を高めたのはそもそも、前述のように「匿名の有志」ではあるのだが、演技の進化という本質的な部分を見過ごしてはならない。つまり、監督や選手、チームに関わる人々の努力である。彼らの努力があってこそ、井原高校の動画は価値を持つコンテンツとなった。それを匿名の人間が好きに利用し、金儲けできるとしたら、どんなデメリットが生じるだろうか。

(↓私たちのアカウントから出した井原2019の動画)

私たちが岡山県まで足を運び、選手たちが真夏の練習場で何度も何度も演技を繰り返してくれたこの映像は、公開当初、すごい勢いで視聴されていた。Facebookでは1万件以上シェアされ、世界中の人々がこの演技の虜になった。だがその後、匿名アカウントによるインターハイの試合映像が公開されると、私たちの動画はあまり見られなくなった。

臨場感ある試合での動画の方が、遥かに人々の興味を引くのは当然だ。私たちの労働は、そしてあの時選手が流した汗は、無駄になってしまった。

こうした倫理的なデメリットは当然だが、最近私が感じたのは、「日本の男子新体操の窓口」が不明確になる、というデメリットだ。ここ最近、立て続けに海外からの問い合わせがあった。詳しく話を聞いてみると、どうもあの井原2019の違法動画が拡散されたおかげらしい。

だが、ちょっと待てよ?と思う。応援!男子新体操はあの動画とは無関係なのに、なぜこちらに問い合わせが来るのか。おそらく海外の視聴者は、コンタクトの窓口を探しただろうが見つからず、やむなく私たちに連絡してきたのではないか。違法動画をアップする人は、自分につながるようなコンタクト先を掲示しない。YouTubeは、完全な匿名で動画を上げられる仕組みなのだ。

根気よく連絡先を探し続けてくれた人だけが、私たちのところにたどり着く。逆に考えてみれば、違法動画が拡散されたおかげで、潰れたチャンスがたくさんあるんじゃないか

そのことに思い当たった時、「動画は次の段階に進まねばならない」と強く思った。

動画の革命期

昨年、コロナ禍で唯一ポジティブな面があったとすれば、オンラインの価値が発見されたことだと思う。「動画」という媒体が持つ力、ワールドワイドウェブという人類最大のシステムの凄さを、私達はやっと実感することができたのではないだろうか。

「IT革命」の "I"は、"Information" である。男子新体操を人々に伝えるための「情報」をいかに発信するか。それはすでに、システムとしてはとっくの昔に可能になっていた。皮肉なことに、現実世界で「パンデミックにより大会の開催が不可能になる」という状態が起こってはじめて、人類に共通に与えられたWWWというシステムの価値を、男子新体操界だけではなく、おそらく多くの国民が認識した。

今後、大会が開催されないという事態が再び起こらないようにと切に望むが、万が一、そのような事態が起こったとしたら、その時はより良い形で情報共有がなされるのではないかと想像する。インターハイではパンデミック以前から可能になっていた動画の即時配信が、今後ほかの大会にも広がっていくことを望みたいし、全日本選手権で採用されたSEIKOによる得点表示は本当に素晴らしかったので、できれば主要な大会の標準装備にしていただければ、こんな嬉しいことはない。

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動画のこれから

何十年も経ってから振り返った時、2020年が「動画元年」と呼ばれる年になるような気がする。その時「応援!男子新体操」の役割は消滅し、私たちは観客席にゆったりと腰かけて、カメラを通さずに選手たちの演技を楽しんでいるかもしれない。あるいは、今は想像もつかないような新しい媒体が現れて、今と同じようにアタフタと仕事しているかもしれない。

いずれにせよ、「男子新体操が発展する」ことを喜んでいるのは、今と変わらない。

まだ見ぬ未来の男子新体操。どんなに素敵になっているだろうか。
選手も指導者も、関係者も観客もファンも、そしてそれをめぐるビジネスも。

未来の男子新体操のために、同じ方向を向いていられたら素晴らしい。

トップ画像:2020年12月に行われた国士舘カップにて、結成10周年を迎える国士舘ジュニア1期生の選手たちが、初めて全日本ジュニアに出場した時の演技を再演した。当時、小柄でクルクル回される役割だった森谷選手は高校チャンピオンに。(追記: 森谷選手は2023年に大学生チャンピオンとなった)

10年後。
まだ見ぬ未来への明るい期待が高まる。

2019年のインターハイの映像をどうしても見たい!という方へ。
こちらが「インハイTV」から出た公式映像ですので、安心してご覧ください。
会場全体が、息を詰めて見ている様子がわかります。

男子新体操界の財産です。


大会や取材の交通費、その他経費に充てさせていただきます。皆様のお力添えのおかげで少しずつ成長できております。感謝です🙏