薬物依存__1_

そんなになるまで頑張ったの...?? ブロンOD・薬物依存。ツラすぎる現実を救う3つのステップ。


朝からオーバードーズに晒される。

今朝、めざましテレビを見ていると”市販薬を過剰摂取する若者”の特集がやっててビックリ。薬剤師界隈では、こういった市販薬(OTC)の乱用という話題は頻繁に出てくるのですが、まさかこれほど大々的に報道される時代になっているとは...

事の発端は、吉祥寺駅の男性用トイレに大量の咳止め薬の空き箱が放置されていたこと。全部で2100錠との報告も上がってきています。

・一度に服用した
・ゴミを自分の家で捨てるのが怖かったので移し替えただけ
・転売目的

使用状況は一体どういったものかはわかりませんが、咳止めとして使っていないこと誰が見てもは明らか。

以前から、この咳止め=ブロンの乱用は問題視されていました。今回はネットからみるブロン乱用の実態と、薬剤師が考えるブロンの薬理作用について紹介していこうと思います。


ブロン1つで市販薬乱用の50%を占める。

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一般用医薬品ってだいたい14,500種類はあると言われているのですが、ブロンはたった1種類で薬物乱用の50%を占める、乱用キングといっても過言ではない薬になっています。


ネットでODは検索上位に。

ブロンをgoogleで検索してみるとこの通り。

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ODというのは、オーバードーズ(Over Dose)の事です。つまり、ブロンを過量投与することで麻薬のような使い方をしている人がたくさんいるという事。

Twitterでも#ブロンOD 界隈は結構大変なことに。リスカ+メンヘラ+ブロンODは、こんなに当たり前の組み合わせなの・・・?

Instagramもこんな感じ。これはひどい。

さらに検索してみると、ブログ記事の中でODの飲み方が出てきたりするんですよ。中には推奨してないと言いつつこんなことを書いている人も。

それでも、今いる現実から一瞬でも逃れたい、という絶望的な願いを持つ誰かへの手引きになれば。底なし沼に踏み込むことで少しでも救済たり得るのなら。

とか偽善者っぽいこと書いてありますけど、嘘です。ダウト!ひどすぎる!

ODなんて、ゼッタイ救済になりません。


本当につらくて、どうしようもないヒトに対して、甘い言葉で人の幸せを邪魔するのは本当に最悪。酷い言葉に騙されないでください。


100%幸せになれない方法

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”底なし沼に踏み込むことで少しでも救済されたい!”みたいな自己破滅的な精神状態って、1人じゃ解決するの不可能なメンタルステータスなんですよ。ブロンのODで友達や家族との人間関係ボコボコにしたら、気分や不安は更に悪化します。

知ってます?最初は心配してもらえるんですけど、いよいよコイツヤバいな・・・と思ったら、誰も構ってくれなくなるんです。

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https://timorihills.hatenablog.com/entry/2018/10/21/201546より引用)

こんな状態の人、かまいたくないでしょ?現に何のレスポンスもないし。

仕事や学校、人間関係でストレスにされされ続ける現代人が悩み抜いた結果、これに頼らざるを得ない状況になってるんだ!という気持ちはすごくよくわかります。私たち全員が生きやすい社会ではないですし、仲の良い誰かが助けてくれるとは限りません。でも、薬物乱用だけは辞めてほしいんです。だって100%幸せになれない方法なんです。人間関係失って、仕事もできる状態じゃなくなって、お金も無くなって、現実と妄想の区別がつかなくなって、クスリも最終的に効かなくなって。絶対に幸せじゃないですよ。


フィジカル的にも悪影響でしかない。

さらに、当たり前ですけどODは体に悪いんですよ。肝機能障害、腎機能障害、社会適合不安の増強、依存・耐性形成による鎮痛剤の耐性化、呼吸抑制、重度の便秘・消化器機能不全など、考えられるだけでもこれだけ。

フィジカルにも悪いのに、ブロンのODでメンタルも壊してボコボコにして。危険や不安の解消もできなくて、後はヒトに迷惑かけまくってどうなる事やら。


そもそも、なぜブロンにハマるのか。

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ブロンには、錠剤とシロップ剤がありますが、そのどちらも中身は似たようなもので、麻薬性鎮咳薬のジヒドロコデインと、中枢を興奮させる無水カフェインの2つが含まれています。

ジヒドロコデインは麻薬成分ですから、脳の報酬系と呼ばれる快楽回路を直接刺激して幸福感を感じさせます。同時に眠気が出てくるので、カフェインで無理やり興奮させて覚醒状態を維持しています。

これらの作用により大量の幸福感を感じるというのが、ブロンのODの仕組みです。

ちなみに、カフェインも大量に服用することになるので、胃の不快感や過剰興奮による冷や汗などで、めっちゃ気持ち悪くなって、だいたい最終的には吐きます。

コーヒー飲みすぎて気持ち悪くなったことありません?アレのレベルを何倍にもした感じです。

危険ドラッグの取り締まりが厳しくなり、手に入りにくいことから、こういった合法の医薬品を大量に使うことでトリップするのが流行ってきてしまっているというのが現状です。


1時間に2000回のレバーを押すラット

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スイッチを押すと、脳の快楽回路を直接電気で刺激できるスイッチを入れた箱に、ラットを入れて観察する実験が1954年に行われました。

その実験では、ラットは寝ることも食べること忘れて1時間に2000回もスイッチを押し続け、死にました。

人間には電極を頭にさすのはちょっと難しいので、薬を使って刺激しちゃおーというのが、ブロンODに代表される薬物乱用の正体です。ブロンODをやってる人の脳はこのラットと変わらない状況になってしまっています。

なーんだ、痩せれるじゃんと思った人はアホです。

衰弱して痩せるかもしれませんが、筋肉から落ちていくので、最終的には痩せにくいリバウンドボディのできあがり。八方ふさがりです。

ちなみに何度も言いますが、この方法ではストレスの”原因”が一切解消されないので幸せにはなれません。


恐怖の適合者

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ブロンの主成分、ジヒドロコデインは身体の中で代謝されジヒドロモルヒネという成分に変化します。この成分は麻薬としての効果も高く、以前はアメリカでも使用されていたのですが、危険性(死亡リスク)が高すぎて2005年に販売が終了しました。

日本人の10%は、ジヒドロコデイン→ジヒドロモルヒネの変換を他の人の何倍ものスピードで行える人がいます。

要するに、この人たちがブロンを使うと効きすぎてしまいます。ODしていると最悪の場合、呼吸困難で死ぬという事になります。


計算したら、普通にコスパ悪い。

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ブロンは1箱だいたい1000円程度します。

1回で飲んでしまう依存者もいるようですが、割と一般的なOD界隈の人でも4回程度で飲み切ってしまうようです。販売制限があるため、1つのお店では一つしか買えない為、あちこちのドラッグストアにいって買い集めていく必要があります。

週に3回ODするとして、1か月で12,000円。これは少なく見積もっています。月に4万円使っている依存症の人もいます。それ以上の人だって多いハズ。現に、トイレに25本捨ててる人もいるわけですから。

一方、

抗不安薬:エチゾラムは1錠たったの6.3円。30日分でも189円です。
抗うつ薬:ミルタザピンは1錠 51.5円。30日分で1545円です。

それに加えて診察費用なども掛かりますが、全て医療保険の対象になるので、自己負担はその3割。全部ひっくるめても1か月分で¥3000~5000でしょう。

初診は少し高いかもしれませんが、通うようになればさらに安くなります。

しかも、医師や薬剤師に薬の使い方や、安全性についてしっかり聴けます。良い医療機関であれば日ごろの悩みも聴いてもらえますし、メンタルケアを専門とするセラピストを紹介してもらえる可能性もあります。


セラピストや精神科医との連携の必要性について

ODをやってしまう方は、『コストが~といった一歩引いた視点でみる余裕がなくなってしまうことがほとんどだ。』とのご意見をいただきました。

確かにその通り。市販薬が安い、ブロンODが高い。そんな話で片づけてしまうことはあまりに早計でした。私の至らぬところを指摘され反省したので、追記させていただきます。(2019.11.18)

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ODをやめたり、その原因となっている不安、うつ、依存をはじめとする精神状態を改善するために、最も効果が期待される方法は、どうしても医療やセラピストとの連携が必要になります。

今のところ、薬物療法以外に高い効果が証明されている方法には、”認知行動療法”というものがあります。

”認知行動療法”というととても難しい言葉に聞こえますが、なにも難しいことをやらなければならないわけではありません。漫画で簡単に認知行動療法について説明しているページがあるので、そちらのリンクを張っておきます。

もっともっと詳しく知りたいヒトには、もう少し詳しく、優しい説明がなされている漫画もあるので、こちらを購入するのも一つの手段かと思います。

認知行動療法は、基本的にセラピストと対話形式で感情を整理していくというのがコンセプトです。認知行動療法を行うことによって、物事をいろいろな方向から見ることができるようになります。

なんだか疑わしいですし、問題解決をするわけではないので効果がないように思えますが、そんなことはありません。

2018年にDepression and Anxiety誌に掲載された、過去の質が高い41本の研究成果をまとめ上げた論文によっても、その強い効果が証明されています。

心理学の研究は再現しない。そう言われて久しいですが、統計学のチカラを使えば、複数の研究をまとめ上げることで、研究成果が偶然や偏ったものではないことを証明することができます。

認知行動療法はそういった確かな手段と経験によって導かれた、高い効果が期待できる療法です。

そのためには、ぜひ認知行動療法を知って、精神科医やセラピストの支援を受けて、良い方向に進んでいけることが理想です。

彼らと、信頼関係を築くことができれば、それが何よりアナタの強みになることでしょう。

認知行動療法を行える医療機関は決して多くはないので、
”認知行動療法 〇〇県”と検索して、お近くの医療機関を探してみましょう。


セラピストや精神科医とちゃんと連携するために

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医師は、どうしても患者を信頼しなければ薬を含むあらゆる治療の計画を立てることはできません。
一方、OD癖のある患者はODを手放すのが難しく、それをばれないように医師から隠そうとする心理が働きます。

しかし、このような歯車がかみ合っていない状態では治療が進んでいるとはいえず、回復もできず現状のまま停滞してしまうのです。

ODという手段を断つのは、本当に大変なことと思います。私なんかが想像できないくらい本当に大変なことだと。

それでも、治療を支える医師と、ODをやってしまうアナタの連携なしで、治療が進むことはありません。

どうしても、お互いの歩み寄りが必要なのです。ですから、これは私の勝手な個人的意見にすぎませんが、「ODのことは、医師やセラピストにしっかりと相談してみてください」とだけ書かせてください。


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以下、
・診療に行けないヒト
・ODをまだしていないものの、ツラい不安やうつ状態にある人
向けの記事になっております。

頻繁にODをしてしまう方や、
通常診療に行っている人に関しては、
既に↑にて紹介した、精神科医、セラピストとの連携や、
”認知行動療法”による治療が必要になります。

以下に記す項目については、
あくまで、その前段階にいるヒトに関する対応法です。

大事なコトなので再度書きますが、
『ODをもうすでに行っているヒトにとっては、
 重要な解決法とはならない可能性が高いです。
 精神科医、セラピストとの連携や、
 ”認知行動療法”による治療を優先してください。

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辛いストレスを自分ができる範囲で何とかする方法

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1番のおすすめは、先ほどの認知行動療法ができる医療機関への相談をして、連携し、信頼関係を築くことですが、まずはスタートを切るための元気を出す方法が必要になると思うので、書き残しておきます。

①何もできない状況を薬で何とかする。

 まずは、行動できるくらいまでメンタルを回復させなければいけません。もちろん、ODはダメですよ。ODは幻想の幸せを作りますが、ストレスを減らしませんし、回復に必要な身体の健康まで奪います。

 病院でもらった薬は何もできない状況を回避する為には良い方法になる可能性が高いです。一度試してみましょう。薬以外に、一時的な元気を回復する方法を持っている人は、それをやっても構いません。ただし、1か月などある程度長い期間精神を安定させられる方法が望ましいです。

そして、

②メンタルを変えるために行動する。

 メンタルが一時的にでも回復することが前提ですが、それができると、状況を少しだけでも変化させることが出来るようになってきます。例えば、こんな本を読み始めるのも自分を変える一歩かもしれません。実際にうつに10年苦しんだ筆者が、うつを何とかする為にどう行動していったか?たくさんの成功体験が綴ってあります。

 この本にはうつ病に限らず、自分を否定しすぎず、幸せに生きるためのTipsがたくさん詰まっています。この中から、自分に合った方法から試していく。それは人生を救う小さな一歩かもしれません。

 でも、運動や趣味などもっと違うことがしたい人は、本なんてまどろっこしい方法は摂らなくても構いません。なんでも良いんです。

最後に、

③薬を絶つ。

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 ②が上手くいっていれば、薬はやめることが出来ます。いきなり辞めて苦しむ人がいるので、正しい辞め方を医師・薬剤師と相談して作っていきましょう。

 私が担当した患者さんの中にも、長く続けている精神薬を少しやめてみましょうか?と話し合い、実際に辞めることに成功した患者さんがいます。そのヒトの印象的だった言葉は”薬をやめられてよかった。頭がすっきりして気分も凄くいいんです”とのことでした。 実際、顔つきや顔色も素晴らしい状態になっていました。その頃にはとても笑顔がステキな女性になっていました。

 薬が全てダメというわけではないんです。家庭の事情や社会のストレスのせいで、薬が始まった時は、とても薬なしで生きていけるような状態には見えませんでした。しかし、まずは病院に行き、少しの元気を作り出し、自分で行動を続け、やめるという決心が出来るくらいまで回復できたからこそ、最終的にとても良い状態で心身共に健康を掴むことが出来たのです。

 だから、ODのような100%幸せになれない方法ではなく、医療機関や家族、友人の手を借りれるうちに、前へ進んでほしいと思っています。

みんな失敗をしています。そのおかげで前に進めるんです。


----- おしまい -----



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引用
市販薬(OTC薬)乱用・依存の現状と防止に向けた課題(https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000542417.pdf)
立石智則. "CYP2D6 の遺伝的多型と循環器治療薬." 心電図= Electrocardiology 26.3 (2007): 201-210.
2019年以降 コデイン類含有製剤、12歳未満は禁忌に(http://www.okiyaku.or.jp/gakuyaku/H290629gaku.pdf)
濫用等のおそれのある医薬品の成分・品目及び数量について(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000037186.pdf)
Carpenter, Joseph K., et al. "Cognitive behavioral therapy for anxiety and related disorders: A meta‐analysis of randomized placebo‐controlled trials." Depression and anxiety 35.6 (2018): 502-514.

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