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感情論は論理ではない件(1)日韓両政府の面子(めんつ)問題

▼よく「それは感情論だよ」とか言うが、厳密にいうと、「感情論」は「論理」ではない。「感情論」はただの「感情」である。

2019年8月14日付の各紙に載った、共同通信の記事。

〈日韓輸出規制/報復合戦で消耗戦に/企業不安視、打開策なく〉

〈輸出規制を巡り、日韓両国が報復合戦の様相となってきた。韓国で輸出管理上の優遇国から外されることに日本側は平静を装うが、出口の見えない消耗戦を企業は不安視。さらなる関係悪化を避けたい意向をにじませる韓国側に打開策はない。〉

▼この記事と一緒に配信された「日韓の主な政治日程など」をみてみよう。

8月15日 韓国「光復節」

8月21日にも 日中韓外相会談

8月24日 日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)更新の判断期限

8月28日 日本が韓国をホワイト国(優遇対象国)から除外する政令改正が施行

9月 韓国が輸出管理で優遇措置を取る国のグループから日本の除外見通し

9月24、25日 日韓経済人会議

12月 日中韓首脳会談?

2020年4月 韓国総選挙

▼筆者は、一連の日韓両政府の動きを、泡(あぶく)のようなものと感じる。ただし、「軍事衝突」が起きなければ、の話だ。

両方の政府の当事者にとっては、気がつけば、国家の「面子(めんつ)」を賭けたチキンレースになっていた、そんなつもりはなかったのに、相手が悪いのだ、という感じだろう。

圧倒的多数の両国国民にとっては、迷惑な話だ。ただし、「国家という名の神」を信じて、国家と自分の実存とを同化している人にとっては、日々のニュースで自分の感情を刺激され、二度と戻ってこない人生の時間を浪費させられ、脊椎反射的な書き込みをSNSに公開して、瞬間的に気持ちよくなり、次の瞬間にはさびしいと感じる日々を送っているのだろう。

▼2019年8月15日付の日本経済新聞に、元駐韓大使の小倉和夫氏のインタビューが載っていた。テーマは

「日韓対立 解消の処方箋」

リード文は、〈日韓関係が悪化している。韓国は元徴用工や慰安婦問題で日韓合意をほごにした。日本は韓国向けの半導体材料3品目の輸出管理を厳格化し、優遇措置を受けられる「ホワイト国」からも除外する。政冷経熱とされた経済協力の行方も不透明さを増す。日韓が袋小路を脱し、関係改善に向かう方策はあるのか。〉

▼小倉氏の見出しは

「真の転機は日朝正常化」

とくに後半の「日韓の力関係」の変化についての指摘が重要だ。

〈文政権は日韓の慰安婦合意を守らず、元徴用工の問題で1965年の請求権協定を無視した。日韓関係が悪くなるきっかけとなったし、日本からみれば確かに、韓国のやっていることはおかしい。

 だが、ただ反論すればよいというものではない。日本の態度も若干、居丈高になっているところがある。日本の対韓感情が悪化しているのに、韓国政府が何の手も打たなかったのはなぜか。韓国にも相応の事情があるはずなのに、日本側には理解しようという気持ちが全くなかった。

 例えば韓国の歴代政権は19世紀の東学党の乱(李氏朝鮮の甲午農民戦争)まで取り上げ、歴史を見なおしている。彼らにとって元徴用工や慰安婦問題は氷山の一角で、歴史の見直しをせざるを得ない過去を背負った国なのだ。

 日韓の力関係も変わった。かつて経済力や政治的な影響力は日本が圧倒したが、韓国も相当な経済競争力をつけてきた。文政権の対応は問題だが、日本の対韓感情が多少悪くなっても構わないと座視した一つの理由だろう。

▼韓国の歴史観と、日韓の力関係を指摘したうえで、以下が見出しの部分。

日韓関係に本格的にメスを入れ、根本的に立て直そうとするなら、そのきっかけは、日本の北朝鮮の国交正常化しかない。その際には、元徴用工を含めた過去のすべての問題を朝鮮半島全体でもう一度取り上げ、再清算しなければならなくなるからだ。

 北朝鮮への対応の差は、日韓関係が歴史的にこじれる一因にもなっている。北朝鮮の脅威を巡る日韓の意見が異なると、韓国ではすぐ反日に結びつく。日朝の国交正常化は長い目でみて、韓国の反日運動も沈静化させるだろう。〉(聞き手は編集委員 池田元博)

▼小倉氏は80歳だが、若い思考力を備えた知識人だ。その思考力は古い知識に支えられており、古い知識が、じつは古いわけではないことを、その著作を読むと、知ることができる。

逆にいえば、新しい情報は、役に立たなくなるのも早い、ということを知ることができる。

▼小倉氏にかぎらず、「アジアの中の日本」を憂う人の多くが、「戦争」の芽を摘むためには、「文化」の交流こそ重要である、と主張する。

「感情論」という名の単なる「感情」に振り回されている人々もまた、決して「文化」と無縁ではない。しかし、「国家という名の神」を信じる人は、今よりさらに激しい感情ポルノの激流のなかで「文化」と「戦争」とを天秤にかける局面に立った時、おそらく「文化」をとらないだろう。

近代世界に「国家」が生まれて以来、延々と続く難題だ。

(2019年8月15日)

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