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「お役所言葉」を読む練習 「人生再設計第一世代」(その1)

▼いわゆる「お役所言葉」のなかには評判の悪いものが多い。「後期高齢者」もそうだったが、「国家」からの視点は、「人間」を見にくくしがちだ。

▼2019年5月25日付「毎日新聞」で、宮本太郎氏が「人生再設計第一世代」というお役所言葉を分析していた。

これは政府の「経済財政諮問会議」による造語。日本政府は、〈現在30代半ばから40代半ばの就職氷河期世代〉を、「人生再設計第一世代」と呼びたいそうだ。

宮本氏いわく、〈言葉というのは恐ろしいもので、このネーミングから、当該世代の側に責任を帰する発想が透けて見えてしまった。ネットなどで強い反発が広がっている。〉

▼反発そのものは、ネットで検索すれば山ほど出てくる。興味のある人はご参考に。

▼さて、「人生再設計第一世代」の出典は、以下のサイトから。

これは竹森俊平氏(慶應大学経済学部教授)、中西宏明氏(日立会長、経団連会長)、新浪剛史氏(サントリー社長)、柳川範之氏(東京大学大学院経済学研究科教授)の4人の名前で提出された、「就職氷河期世代の人生再設計に向けて」という文書。

この文書の日付は2019年4月10日。いっぽう、経団連会長の中西氏が「経済界は終身雇用なんてもう守れない」と発言したのは2019年4月19日。この二つはリンクしているだろう。

▼では「就職氷河期世代の人生再設計に向けて」の当該箇所をみておこう。

〈新卒時にバブル崩壊や不良債権問題が生じていた、いわゆる就職氷河期世代は、学卒未就職が多く出現した世代(人口規模で約 1700 万人)である。本来であれば、この世代も、景気回復後には、適切な就職機会が得られてしかるべきである。しかし、当時の労働市場環境の下ではそれは難しく、その後も、無業状況や短時間労働など不安定就労状態を続けている人々が多く存在し、現在、30 代半ばから 40 代半ばに至っている。

こうした世代の人々が必要なスキルを得てキャリアアップし、より安定的に就労でき、正規化する仕組みを構築することは、いくつになっても充実した働き方ができる社会をつくる上で重要な第一歩となる。人生 100 年時代においては、このように、いつでも、いくつになっても人生を再設計できる仕組みが欠かせない。それは、結果として、人材不足に直面する企業にとってもプラスとなる。

そこで、そのような仕組みづくりの具体的アクションとして、同世代を「人生再設計第一世代」と位置付け、今後3年程度で集中的に再チャレンジを支援する仕組みをつくる。その実行プログラムを今夏には打ち出すべきである。そして、他の年齢層、未来世代も含めた他の世代にも役立つ仕組みとなるよう、取組を展開していくべきである。

▼細かいことだが、引用した後半部分、「30 代半ばから 40 代半ば」の世代に対応する仕組みは、「他の年齢層、未来世代も含めた他の世代にも役立つ仕組み」にはならない。その世代にはその世代特有の問題があるはずで、その個別性は普遍化できない。

この一文には、困っている世代を助けることが目的ではなく、困っている世代が、何らかの仕組みを作る政府側の「手段」「道具」になっている現実が吐露(とろ)されている。

最近は、エリートの側に「問うに落ちず、語るに落ちる」剥(む)き出しの話が多いと感じる。もっともこれは日本に限った話ではないが。(つづく)

(2019年5月26日)

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