ニッポンの会社あるある 村山斉氏の苦労

▼世界的な物理学者である村山斉氏のインタビュー。2018年11月6日付毎日新聞から。「ティータイム」の話、「寄付を拒否する文科省」話、「雰囲気」の話。どれも興味深い。

〈「世界トップレベル研究拠点」の一つとして発足した東京大カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)は、11年で世界をリードする研究所に成長した。背景に大学組織の常識を破るシステム改革がある。近年指摘される日本の科学研究停滞を解決するカギもありそうだ。10月まで11年間、初代機構長を務めた村山斉教授(54)に道のりを聞いた。(聞き手・須田桃子記者)〉

〈ーー前例のないシステム改革を進める中で、抵抗もあったのでは。
そうですね。細かいことでは毎日の「ティータイム」を始めるところから大変でした。研究者全員が午後3時にホールに集まり、お茶やクッキーを手に自由な議論をする場です。分野融合型のIPMUのコンセプトを体現する取り組みで提案書にも盛り込んでいたのに、事務の人は「国民の税金を飲み食いに使うのはとんでもない」と。東大の研究担当理事に許可する旨を一筆書いてもらってやっと実現し、そこでの議論から画期的な研究成果が数多く生まれています。米国カプリ財団から日本の研究所として初めて寄付すると申し出があった際も、文部科学省をはじめ関係各所が反対したため、1年ほど財団側に待ってもらいました。海外ならあり得ないことです。/米国の大学には日本の教授会に相当する組織はなく、学科長など責任ある立場の人が自己の判断で決定します。つまり、何か新しいことを始めたいとき、この人を説得すれば実現するという誰かが存在します。一方、日本ではさまざまな部署の人に同じ話をして、誰もはっきり駄目だと言わなかった時に初めて組織として「やってもいいか」という雰囲気になります。時間はかかりましたが、少しずつ突破していきました。〉

▼この、「やってもいいか」という雰囲気になる感じ。大きな組織でも、小さな組織でも、「あるある」とうなづく人が多いのではなかろうか。

▼また、好奇心がどれほど重要かという話。

〈歴史を振り返ると、すごいイノベーションは全て、誰も意義が分からないような基礎的な研究から生まれています。究極の例が素因数分解です。紀元前300年にユークリッドが、正の整数は素数同士のかけ算で書けることを証明し、現代のインターネットにおける暗号通信の基礎になっています。あらかじめ期間や予算が決まったプロジェクトでは、研究者は必ず実現できそうなものしか提案しないので、真のイノベーションは起きないでしょう。宇宙への好奇心から始める研究も、思いもかけない形で役に立った例がたくさんあります。〉

▼「実現できそうなもの」と「思いもかけない形」との間に、深い深い淵が横たわっている。この淵に一生気づかない人もいれば、気づく人もいる。そして、深い淵に具体的な橋を架ける人もいる。

日本という国が「誰も意義がわからないような基礎的な研究」の意義を認められるか、認められないか。それは、この世の中には「法律」や「合理主義」を超える何かがある、という感覚の有無にかかっている。順守すべき「法律」や、証明可能な「合理主義」は、むしろその何かによって支えられているのかもしれない。

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