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「AIネイティブ」が国家を壊す件(その3)

▼きのうの続き。

▼新井紀子氏のGAFA批判が鋭い。ここからの分析が面白かった。

新井 一つの価値観の中で、純粋培養で育ってしまう。それがAIネーティブの問題点の一つでもあります。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、明らかに自分たちのサービスを消費してくれるAIネーティブになってほしいと思っていますから。

佐藤 資本の論理からすると、当然の話ですね。

新井 それがまさにリバタリアン(完全自由主義者)による資本主義が、これ以上長続きしなくなる理由でもあるのです。資本主義というものは細く長く搾取することに意味があり、今のように一気に搾取してしまうと人材が駄目になって、資本主義が終わってしまう。最近、そんなことをヘッジファンドの有力者たちが言い始めています。

 それは、ある意味、リバタリアンやGAFAがリスクになっているという認識だと思うのです。今は誰もGAFAが滅びるなんて言いませんが、私はGAFAが滅びる日は遠からずくると考えています。世界の有力者は資本主義を延命させるためにも、GAFAを滅ぼさなければいけないと思っている。

 GAFAが提供するものは、普通の資本主義、つまり、生産物を売り買いするという正常系の経済学的な資本主義から考えると、ありえない話なのです。そもそも全然モノを売っていないのに、我々をずっとスマホ漬けにして、搾取してくる。

佐藤 その結果、消費も非常にバーチャルな仕方になっています。

新井 自己承認欲求や自己愛を心理学的にうまく操作されながら、消費者はずっとタダ働きをさせられて、わけのわからない消費をさせられてしまう。

 それはどう考えても資本主義にとってメリットがあるとは思えない。どこかでこれをやめなければならない。そのことを一番よく理解しているのは、フランスのマクロン大統領とカナダのトルドー首相です。とくにマクロンは、本当に微に入り細に入りよくわかっている。それこそ、哲学や数学といった文理の教養を重視するグランゼコール(フランスのエリート教育機関)の偉さだと思うのです。〉

▼資本主義の最前線で息をしている人のなかに、これまでにない資本主義の危機を感じている人がいる、ということだ。

そして、モノを売っていないのにぼろ儲けしているGAFAが大きくなるにつれて、若者の未来が奪われていく、という構図が見えてくる。

新井 お金が稼げないような人たちが今、何を言い始めているのか。

結婚することと子どもを持つこと、家や車を持つこと。このコストだけで1億円くらいかかる。これを全部あきらめれば、このコストからフリーになれると言っているのです。それをプロレタリアートに言われたら、もう資本主義は終わるのです。

佐藤 それはもうプロレタリアートではなくなるということですよね。

新井 そう。そうすると、もう本当に国民国家は終わるのです。結婚はしません、家は持ちません、車などのレジャー消費はしません。それで、勉強はしません、自由になりますと言われたら、それはもう終わるのですよ(笑)。

佐藤 そう言えば、プライドを満たすことができるのでしょう。車を持てない、家族を持てないということではなく、持たない。それが主体的な選択だということです。そうすれば、プライドを満足させることができる。〉

▼この動きを新井氏は「妙な革命」と言っている。この「革命」によってどうなるのか。ここがこの対談の肝(きも)である。

新井 ……GAFAによって、今とてつもない搾取が行われている。おそらく、今一番大きな危機に直面しているのが、国民国家です。将来的に人口減少は進み、再配分も成り立たなくなるでしょう。しかし、それを国民国家は阻むことができない。

佐藤 そのとおりです。

新井 今の状況を考えると、将来、日本でAIネーティブたちが子育てしたとき、本物の社会や本物の人間とコミュニケーションできるかどうか、大きな懸念を持っています。〉

そして新井氏は「読解力こそがAIに代替されない能力」であり、「重要なのは、人間として育てる前に類人猿としてきちんと育てることです。それは人間が個体発生ではなく系統発生だから。〉と結論する。

▼この対談では、GAFAに代表されるリバタリアニズム、いわば「自由」教が、世界中のAIネイティブを使って、自らの基盤である「資本主義」そのものを壊し、自らの基盤である「国民国家」を壊しつつある。そういう見取り図が描かれている。

これは、これからの社会論や文明論の土台の一つになる話だと思う。とともに、ふだんの生活で「このクリック、要らないかな?」と考えるきっかけにもなる。

(2019年4月12日)

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