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全国紙の1面トップ記事に「なんやそれ」という言葉が載った件

▼全国紙の1面トップの記事に「なんやそれ」という見慣れない文章が出てきて、「なんやそれ」と思いながら読んでみると、なかなか面白かったという話。

▼2019年6月24日付の日本経済新聞。「データの世紀 世界が実験室 1」。見出しは

〈ワタシvs.操る技術/追跡網 膨張どこまで〉

記者が一人称で書く文体で、新しい試みなのだろう。占い好きの29歳の記者が、タブレット端末に出てきた広告に違和感を覚える。

〈その広告に指を近づけた瞬間、ふと固まった。えっ、何でこの端末に出てくるのよ。

くだけた文体で面白い。この後も、くだけた文体連発である。

〈個人の趣味や嗜好を狙い撃ちするターゲティング広告の存在は知っていた。私のスマホに来るのは当然だ。でも妻と一緒に使う家のタブレットは閲覧も検索もしたことがない。自分の趣味が利用履歴に反映されないよう注意しているからだ。

 なのに私を追跡するように同じ広告が表示される。謎。もはや怖い。

▼この「もはや怖い」という表現も、全国紙の1面トップ記事としては、かなり斬新だ。

〈6月上旬「ゲッターズ」のサイト運営企業に取材を申し込んだ。

 サイバーエージェント傘下のCAM(東京・渋谷)から2日後に届いた返事はそっけなかった。「広告配信のアルゴリズムやロジックは回答しかねる」。なんやそれ。ならプランBだ。〉

記者は三井物産に取材する。三井物産はアメリカのドローブリッジという会社の代理店をしている。ドローブリッジは〈ネット上の住所であるIPアドレスや閲覧情報から、同一人物が使う複数の端末データを統合する技術を持つという。

 これを活用すれば、昼は主にパソコン、夜はスマホしか使わない人にも、同じ広告を効率的に配信できる。CAMがこうした技術を使って、私のスマホとタブレットをひも付けたのではないか。再度問い合わせる。

「提携先がどんな技術を使っているか把握できない」。直接ドローブリッジとは取引がないそうだが、その返答にはあぜんとするしかなかった。〉

▼この記者は〈結局どの企業がどんな風に、私を操ろうとしたのかは完全に解明できなかった〉のだが、〈驚いたのは「私の個人情報をどう使っているのか、開示してくださいよ」と問い求めた全ての広告会社が一斉に口を閉ざしたことだ。〉という。

「広告配信の仕組みを知られること自体が炎上リスクなんです」。サイバーエージェントの広報担当者が申し訳なさそうにつぶやく。いやいや、個人にとっては「何も分からない」ことがリスクなんですが。

いいツッコミだ。

▼記事の末尾は、こうした〈私を操作しようとしている〉人たちと、〈まずはともに生きていくまでだ。〉とイマイチ冴えない終わり方だが、こうした文体の工夫は、当該テーマに読者の興味をひきこむために、価値のある試みだろう。

▼ちなみに、第1回の一人称は「私」だったが、第2回は「自分」だった。「自分」は変だと思うのだが、どうなのだろう?

(2019年6月28日)

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