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三大紙が「移民」問題でがんばった件

▼先週末から今週明けにかけて、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞の三大紙がそろって「移民」問題を追及する報道を掲載した。それぞれが異なる話題で、珍しいことだ。

▼まず、3月17日(日曜)付読売の社会面トップ。

〈実習生仲介団体に謝礼/1人10万円 ベトナム業者証言/監督機関「許可取り消しも」〉

〈外国人技能実習生を送り出す複数のベトナムの業者が、日本側で実習生を企業などにあっせんする一部の「監理団体」の代表らに対し、契約の見返りとして実習生1人当たり10万円程度の「謝礼金」を支払っていると、読売新聞の取材に証言した。監理団体側が送り出し側から金銭を受け取るのは法律で禁じられており、団体を監督する「外国人技能実習機構」(東京)は「許可取り消しの対象になる」と警告している。

業者によると、謝礼金の出費分は実習生から徴収する来日手数料に転嫁しているという。ベトナム人実習生を巡っては借金を理由とする失踪が急増しており、ベトナム政府も、日本側への謝礼金が負担の一因との認識を示している。〉

▼同趣旨の証言は、たとえば去年2018年の12月に毎日新聞が報じている。どんどん報道するべきだと思う。なぜかといえば、単純な話で、日本は「移民」は認めないのに「労働力」は欲しがる国になったので、このままだと「選ばれない国」になるからだ。

▼毎日の見出しと記事。

外国人技能実習生 受け入れ団体にマージン 1人当たり10万円以上 来日時負担〉毎日新聞2018年12月5日 22時09分

〈ベトナムの外国人技能実習生の来日を巡り、受け入れ企業を支援する監理団体が、現地の送り出し機関から不正な手数料(マージン)を受け取るケースが横行していることが、関係者への取材で明らかになった。1人当たり10万円以上に及び、実習生の来日費用に上乗せされている。現地で受ける接待費用も、実習生の負担になっているという。監督権限を持つ外国人技能実習機構も、こうした海外での行為を把握するのは難しい。

 ベトナムの送り出し機関で働く30代の日本人男性によると、送り出し側からマージンの提供を申し出たり、監理団体が要求したりする。実習生1人当たり10万~15万円が相場で、実習生が支払う手続き費用などに上乗せされる仕組みだ。

▼上記二つの報道でわかるのは、謝礼はすべて実習生の負担になっているという事実だ。興味のある人は、以前メモした岡部文吾氏のインタビュー(月刊日本)を読んでほしい。

▶次に、同じ3月17日付の毎日新聞1面トップ。

〈結核集団感染 2割外国人/16~18年 留学・実習で拡大/厳しい労働環境背景〉

〈2016~18年の3年間に国内で起きた結核の集団感染100件のうち少なくとも19件は、技能実習生や日本語学校の留学生など外国人を中心に広がっていた。このうち、学校や職場などで日本人に感染が広がったケースも8件確認された。毎日新聞が厚生労働省や自治体に情報公開請求した結核の集団感染に関する記録で判明した。〉

▼社会面の見出しは〈劣悪な寮 結核広がる/実習生孤立「帰りたい」〉。島根の縫製工場や、香川の農場で起きた集団感染の実態を、自治体が詳しく記録していたわけだ。情報公開請求による優れた調査報道であり、この社会面の記事を読むと、結核になってしまった技能実習生が気の毒極まりない。

▼また、熊谷豪記者による解説記事〈医療・検診 整備急務〉がキレキレである。

〈人手不足を背景に日本は働く外国人を増やしてきたが、労働・生産環境の改善が追いついていない。外国人に関係する結核の集団感染の多発は、そんな現状の一端を示すものだ。(中略)

 結核は免疫力が低下した高齢者や、厳しい生活環境にあるホームレスなどが発病しやすく「弱者の病」と呼ばれる。集団生活しながら単純労働で体を酷使する実習生や留学生は感染が広がりやすい状況に置かれている。特に、留学生は勉強のために来日しているはずなのに、実態は労働者として日本経済を支えているというゆがんだ現実を映し出しているとも言える。

▼翌日、2019年3月18日付の毎日新聞1面トップは

〈外国籍児の就学徹底/編入学年 こだわらず/文科省通知へ〉

〈日本に住民登録している義務教育年齢の外国人のうち、1万6000人以上が学校に行っているか確認できていない問題で、文部科学省は全国の都道府県と政令市に対し、18日にも就学の促進と就学不明児の実態把握調査への協力を求める通知を出す。外国籍児については、文科省は日本語能力に応じて本来より下の学年での受け入れが可能とし、過去にも就学支援を促したが、自治体の対応にばらつきがあるため徹底をはかる。〉

▼これは、毎日新聞の企画「にほんでいきる」の成果の一つだろう。以前、

〈全国に就学不明の「外国人の子」が1万6000人いる件〉

〈虐待で死んだ「外国人の子」の件〉

として紹介した二つが、この「にほんでいきる」の一環だった。毎日新聞の「移民」問題をめぐる調査報道は日本社会にとって重要な仕事だと思う。

▼朝日新聞は2019年3月18日付の1面トップで

〈日本に留学・・・バイト漬け/単純作業 紹介する語学学校も〉

という記事を載せた(高野遼、平山亜理記者)。これも朝日の企画「多民社会」の一環。留学生の存在を使って金儲けしている業界の模様をルポしている。社会面の見出しは

〈「学生増やせ」留学生に狙い/「ビザ専」と呼ばれる専門学校も/日本語学校参入 低い壁〉

「ビザ専」とは〈「ビザ」を取るための「専」門学校ーー。業界でついた呼称だ。/日本語学校を卒業した留学生は、進学先を見つけなければ日本に居続けることができない。そこで、ビジネスなどを教えるとしつつ、入試の難易度が低く、入学後もアルバイトがしやすい専門学校が人気を集めている。〉

▼技能実習生があらかじめ借金を抱えて来日せざるをえない構造。その実習生たちがひどい環境の寮で寝起きし、「弱者の病」結核に罹(かか)ってしまう構造。そして、日本に留学してくれる若者が「来日時に借金を背負ってくるから、必死に働く。もともと勉強する気があった学生も、バイト漬けで、ぼろぼろになっていく」構造。

すべて、「選ばれる国」とは逆行する動きだ。少しずつだが、こうした報道が積み重ねられることによって、「移民」問題の構造が大きな社会問題として考えられるようになってほしい。

なぜなら、そもそも「問題」視されなければ、その「問題」は存在しないも同然だからだ。そして、「問題」視されなければ、「解決」されるはずがないからだ。

(2019年3月21日)

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