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コピペすらできない高校生が増えている件 文系と理系とAIと(2)

▼AI(人工知能)は東京大学の試験に合格できるのか? というテーマ設定で、研究を進めた結果、日本の中学生や高校生は教科書がまともに読めなくなっている、という現実に気づいた、という経緯が、新井紀子氏の研究に一気に注目が集まった理由である。

▼つまり問題は、「AIの人間化」によって起きてくるあれこれではなくて、「人間のAI化」がすでに進んでいる、ということだったわけだ。

その衝撃は著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』を読めば存分に楽しめる。

▼が、「中央公論」2019年4月号で、その要点を紹介してくれている。適宜改行。

新井 (中略)AIと高校生が合体したらどうだろうと、かなりいい学校に行っている高校生に、教科書を好きなだけ検索していい、という条件で東大の日本史の記述問題を解かせたんです。

そうしたら全然解けなかった。好きなだけ検索していいと言っているのに、正解できない。

検索したログを見てみると、まさに正解が目の前を通り過ぎているのに、それを素通りしているんです。

上田 なるほど。

新井 え! コピペもできないのかと。そのときに、これはAIとくっつけてもダメだと思いました。なぜなら、問題が読めていないから。それで、とにかくどれだけ読めないのか調べてみようと思って作ったのが、リーディングスキルテストだったんです。

上田 あれは衝撃だったなあ。ここまで読めないのか、と。

新井 「原点0と点(1,1)を通る円」が選べないのですから。どうやって三角関数を解いているのか謎。試験のときにガッと覚えて、終わったら忘れるみたいなことを繰り返しているのだと思うんですけど。

上田 「Alexandraの愛称は何か」という問題に正解できないのも驚きました。あれ、すごい正答率低かったでしょう。

新井 中学生で38%でした。〉

▼この「Alexandraの愛称は何か」とは、以下のような設問である。

〈Alex は男性にも女性にも使われる名前で、女性の名 Alexandra の愛称であるが、男性の名 Alexander の愛称でもある。

この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから一つ選びなさい。

 Alexander の愛称は( )である。

1)Alex 2)Alexander 3)男性 4)女性

正答 1)〉

▼このテストの正答率を知った時、筆者も「え、マジで?」と思った。あらためて問題文を読み返してみると、「文脈」がキーワードであることがわかる。「文脈」がわからない人が増えているのだ。

「文脈」は、いわゆる「空気を読む」の「空気」とはまた違うものだ、ということだろう。何かを表現する際に、「論理」「ロジック」をいったんくぐらせるか否か、の違いなのだろうか。

この後の上田氏と新井氏のやりとりには、問題のありかを探る二人の知恵が詰まっている。

上田 その読解力のなさが、たとえば、世界の構造が分からないままで、ヘイトスピーチのような単純な主張に乗っかっていってしまうということに繋がっているのかもしれない。

新井 好きと嫌い、誰と誰が喧嘩しているということしか分からない感じ。だから世界史の国家の変遷とか分からないんですよ。

上田 空間のなかの重層的なロジカルな認知というものがほとんどなくて、ある一つの面の上に乗っているものしか見えないのかなと。この面を見ている私と、その面の距離感みたいなものも分からない。

新井 平板な読みとか、対立構造しか見えないとか、強烈なストーリーじゃないと分からないというのは、どうしてなのかということを、いま考えているところです。

▼ここで、批判の矛先は学校の「国語教育」に向かう。(つづく)

(2019年3月16日)

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