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「白か黒か」決められない件 北方領土交渉

▼最近、「白か黒か」決められないシリーズをメモしているが、

今日は、わかりやすい例(……ということは、わかりにくい例)として、日本とロシアの北方領土交渉に触れておこう。

■日本はすでに国後、択捉を手放している

▼日露問題について、もっとも詳しい解説者である作家の佐藤優氏が「週刊東洋経済」2019年2月9日号で、2019年1月14日に行われた日ロ外相会談について解説していた。ロシアの外相はラブロフ氏。

どの部分を切り取っても「白か黒か」決められない話にあふれている。二つの論点を紹介しておく。適宜改行。

▼一つめ。

〈記者会見でラブロフ氏は、「今日、われわれは1956年の日ソ共同宣言を基礎に作業する用意があることを確認した。このことは、南クリル(北方4島に対するロシア側の呼称)のすべての島々に対するロシア連邦の主権を含む、第2次世界大戦後の結果を日本が完全に承認することで、これを第一歩とする(ロシアの立場が)不変と言うことだ」と述べた。

 この発言を日本のマスメディアはロシアの対日姿勢が硬化した証左と受け止めているが、このような評価は間違いだ。ここで引用したラブロフ氏の主張は、ロシアがソ連時代から一貫している。

 北方領土は、連合国の合意によって合法的にロシアに移転したのであるから、歯舞群島と色丹島を日本に返還する義務はない。ただし、日本にこの2島を贈与することはできるというのがロシアの立場だ。

 この立場をロシアが維持できるような知恵が必要だというメッセージだ。歴史的、法的経緯をめぐる議論に深入りするのではなく、首脳間の政治決断に向けた環境整備が重要だ。

 また、日ソ共同宣言発効後の56年12月に、ソ連の支持を得て日本が国連に加盟した。この事実は日本が第2次世界大戦の結果を受け入れたからだ。この論理で交渉が袋小路に入ることを防げる。〉

▼そもそもの話を補足しておくと、1951年のサンフランシスコ講和条約で、日本はこの時、国後島と択捉島を放棄している、という事実だ。国際社会の仲間入りを果たしたサンフランシスコ講和条約で、北方領土四島のうち、二島は手放しているわけだ。

■日本とロシアと中国の関係

▼一つめは、日本とロシアとの関係の話だった。これを基礎編とすれは、二つめは応用編。

〈この記者会見で興味深いのは、日ロ平和条約の締結が中国に対して与える影響をめぐるやり取りだ。

「最近、河井克行自民党総裁外交特別補佐が、ロシアとの平和条約締結問題に関して、米国の支持を当て込んでいると述べたことに対して河野外相はコメントしたか」と記者が尋ねた。

 ラブロフ氏は「中国を封じ込めるために『軍事同盟を強化する』ので、米国は日本とロシアの平和条約に関心を持つべきであるという自民党総裁外国特別補佐である河井氏の発言は、言語道断の言説である。今日、われわれはこのことについてもすべて率直に話した。日本側は、この紳士(河井氏)が行政府を代表しているのではなく、自民党総裁の補佐であることに注意を払ってほしいと言った。ただ残念なのは、自民党総裁が安倍氏でもあることだ」と述べた。

 河井発言に対しては当然、中国も神経をとがらせている。ラブロフ氏は中国に対して「ロシアとしては、日米の対中包囲網に参加するつもりはない」というメッセージを発しているのだ。もっとも、本音では、ロシアは中国の急速な影響力拡大に強い懸念を抱いている。ロシアが日本と領土問題を解決する目的の1つが、中国に対する牽制であることは間違いない。ロシアの本音を正確に捉えることも重要だ。〉

▼これは日本とロシアとの間に中国が入ってくるので、一つめより複雑だが、佐藤氏の解説は説得力がある。

▼外交の発言には、常に表裏があリ、国民が経緯を理解するためには誠実な「通訳」、つまり良質なメディアが必要だ。こちらもあちらも二枚腰、三枚腰であり、外交の当事者たちはそういうルールの上で戦っているわけで、しかも刻々と変化している現在進行形であり、そのやりとりを追いかけるのは面白い。

こうした解説記事を読むと、外交は、三つとか四つとかの選択肢があるマークシートの試験ではない、ということがよくわかる。あらかじめ用意された解答などないし、そもそも解答があるかどうかもわからないわけだ。

「オール・オア・ナッシング」「白か黒か」、この問題でいえば、「ゼロか4島か」が好きで、上記の二つの解説を理解できない人がいれば、その人はもしかしたら「答えの奴隷」になっているのかもしれない。

▼北方領土交渉について筆者の意見を書いておくと、血まみれの人類史を省みたうえで、「戦争をせずに領土を取り戻す」ことができれば、それはとてもめずらしいことだと思う。沖縄も然り。北方領土も然り。

(2019年2月25日)

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