「観光のための文化」から「文化のための観光」へ(5) ゼロドルツアーの恐怖

▼アレックス・カー氏と清野由美氏の『観光亡国論』を読んでいる。

両氏の対談で、日本の観光産業の問題点が浮き彫りにされている。

カー氏いわく、

〈日本の観光業では、全盛期の高度経済成長期の「クオンティティ・ツーリズム(量の観光)」が、いまだに根を張っており、今の時代に通用する「クオリティ・ツーリズム(質の観光)」については浅い理解になっていることです。〉(168頁)

▼20世紀の「量」と、21世紀の「質」と。その狭間に捻(ね)じ込まれているのが、大型クルーズ観光船を使った「ゼロドルツアー」なる悪質ビジネス。

日本では、奄美大島がこのゼロドルツアー的な観光スキームの餌食(えじき)になる危険性があるという。カー氏いわく、〈大人数を1か所に集め、買い物をさせて利益を上げることが主眼で、観光は買い物のプラス・アルファぐらいのもの。しかも人々が買い物で消費したお金は、ショッピングセンターの運営業者を経由して、別の土地や国に流れていきます。〉(170頁)

これは、〈タイやバリ島で大問題となっている「ゼロドルツアー(zero-dollar tourism)のような構図ですね。〉(清野氏)ということで、清野氏がそのカラクリを簡潔に説明してくれている。適宜改行。

〈たとえば中国の旅行業者が、タダもしくはタダに近い激安料金のツアーを組んで、お客を大量にタイやバリ島に送り込みます。現地では、ほぼ強制的に宝石店などでの買い物が組み込まれ、お客はそこで町の相場とはかけ離れた、高い買い物をさせられます。

 宿泊は中国資本のホテルで、ガイドは中国人、バスも中国の業者と提携している会社、店の経営者も、もちろん中国人。それら事業者の売り上げは、ほとんど現地に落ちることなく、中国に流れるようになっています。

とりわけ最近は、買い物には

「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」「Alipay(アリペイ)」

という中国の携帯電話経由の決済システムを使いますから、お金は直接中国に入って、現地の税金逃れにもなるし、マネーロンダリングにもつながっていきます。〉(171頁)

▼2016年、タイ政府が調べて、毎年20億ドル(2200億円)の損失をタイ経済に与えていることがわかったそうだ。

カー氏いわく、こういう経済的な惨事を起こさないために、必要な考えが「ゾーニング」だという。

清野 日本で「ゾーニング」というと、都市計画法で定める住居専用地域とか、商業地域、工業地域といった「用途指定」のこと、という理解が一般的ですが。

カー それはごく狭義のもので、住居専用といっても、建蔽(けんぺい)率とか容積率とか、数値的な規制でとどまっていますよね。そうではなく、私のいう「ゾーニング」とは、国家によるグランドデザインのことで、文化の価値を見据えながら、どこに何を作るか、作らせないか、作る場合は様式、素材、設計をどのように定めるかーーを決めていくこと。つまり大きな「分別」のことです。

▼この「分別(ふんべつ)」という考えは、とても重要だと感じる。すでに1200字を超えたので、重要だと感じる理由も含めて、次回、もう一度考えよう。(つづく)

(2019年7月17日)

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