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終戦記念日の新聞を読む2019(3)日本経済新聞「春秋」~敗戦で救われた件

▼「終戦記念日のコラムを読む」と題して、1回目は高知新聞の「小社会」を、2回目は愛媛新聞の「地軸」を読んできた。

▼3回目は日本経済新聞の2019年8月15日付「春秋」。

冒頭は、

〈汗、汗、汗。1967年8月公開の映画「日本のいちばん長い日」は、終戦の玉音放送にいたる軍部や政治家の動きを、むんむんする暑さと噴き出す汗の描写で見せきった作品だ。「玉音盤」奪取を試みる陸軍将校の軍服に染みる汗が、運命の日を強く印象づけている。〉

▼たしかにそうだった。白黒映画で、観た時の息苦しさを覚えている。原作は半藤一利氏のノンフィクション。

▼コラムはここから「天候」の話に展開する。

〈終戦の年の夏は暑かった。というイメージの定着には、この映画も一役買っているかもしれない。しかし実際には、この年は北日本では冷夏だった。玉音放送が流れた8月15日、東京の最高気温こそ32.3度を記録したが東北や北海道は平年より涼しく、コメの作況も悪かったという。戦禍に冷害が追い打ちをかけていた。

終戦の決断がもう少し遅れたら、9月以降に来襲した枕崎台風や阿久根台風の被害も相まって多くの餓死者が出たのでは――と気象予報士の饒村曜さんがブログで指摘している。本当に際どい局面でこの国は救われたのである。負けることによって、米国からの食糧援助を受けて人々は生き延びた。そして戦後は始まった。

▼気候変動が内戦や難民増加の原因になっている、という科学的知見があるが、これは今だけの話ではなく、昔から、日本でも気候変動による飢饉(ききん)や疫病が一揆の理由になってきた。

〈負けることによって、米国からの食糧援助を受けて人々は生き延びた。そして戦後は始まった。〉などのくだりは、ある種の自称愛国者の人たちが読んだら、激昂(げきこう)しそうな文章だ。

〈それもこれも、いまは遠い記憶だ。健忘症が高じて、軽口で戦争を云々(うんぬん)する国会議員まで出てくる始末である。思えば、旧作「長い日」は岡本喜八監督はじめスタッフも俳優も戦中派ぞろいだった。あの汗には暑さの汗である以上の熱がこもっていたのだろう。近年のリメーク版も佳作だが、登場人物は妙に涼やかである。〉

▼ラストの〈近年のリメーク版も佳作だが、登場人物は妙に涼やかである。〉の一文も効果的だ。

▼「日本のいちばん長い日」は、敗戦が決まり、国が機密文書をどしどし燃やす場面が印象的だ。

戦前の日本は、少なくとも敗戦までは文書を保管していた、という点で、印象的である。

(2019年8月19日)

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