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山本直樹氏の『レッド』を読む

▼マンガを読んで初めて物理的に「痛い」と感じたのは山本直樹氏のエロマンガだった。彼が連合赤軍をテーマに描き切った名作『レッド』も、読んでいて「痛い」と感じるマンガだ。一時代の、極めて特殊な集団の、極限状況を描いていながら、普遍性のあるマンガだが、「痛い」思いはまっぴらごめん、という人にはオススメしません。

▼すぐれたマンガ家のマンガを読むと、どんな思想が、こんな描線に至るのか、天才っているんだなあ、と感心するが、山本氏のインタビュー記事のスクラップを見つけた。2017年4月13日付の東京新聞。適宜改行。

〈(『レッド』の)作中、共産主義うんぬんの膨大な言説もフキダシを席巻する。「ほとんどギャグのつもりだけど、ネットでは台詞を真に受けて『だから左翼はダメ』とか評する人もいる。でも、言葉や観念に踊らされている点で同質。『あなたたちのことを描いているんですよ』と教えてあげたい

 山本さんは「右とか左とか関係なく、普通の善良な人でも状況と材料がそろえば、どんな時代でもおかしなことになる」と強調する。〉

〈彼我を隔てるものは「自分の考えが正しくない時もある、と理解しているかどうか。小学生でも知っていることだけど」と看破する。〉

〈最近、「本業」でも、編集者が若手漫画家に「エロだけでいい」と機械的な制作を求めるケースが目立つという。「以前はエロの要素が入っていれば、何を描いても許された。だから楽しい。自由に描くことで作家の持つさまざまな面も出てくる」と話しながら、こう力を込めた。「漫画家はもっとふざけないといけない。僕は今『レッド』に出向中だけど、連載が終了すればエロに戻る。自由にエロが描けない世の中なんて、まったく面白くない。国民の不断の努力がエロを面白くするんです」〉

▼「国民の不断の努力がエロを面白くするんです」が傑作である。

▼ところで、「だから左翼はダメ」とネットに書き込む人は、やっぱり「右翼」や「ネット右翼」なんだろうか。山本氏が「言葉や観念に踊らされている点で同質。『あなたたちのことを描いているんですよ』と教えてあげたい」というところに、マンガ家がマンガ家である理由があると思う。いまは無意識の「右翼」が、何事かに反射的に飛びつく傾向が強い。

▼「言葉や観念」に踊らされない人はいない。そのことを幾分なりとも自覚しているか。踊らされていることに無自覚であるか。この基準は、個人にも、社会にも適用できるということを、『レッド』は教えてくれる。

とくに最近は、「普通の善良な人」でも、「おかしなことになる」ような「状況と材料」が多いから、読みがいがあると思う。

(2019年2月21日)

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