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産経新聞も移民問題を移民問題としてとらえざるをえなくなっている件

▼産経新聞は移民問題ーーそれは、移民の存在を問題化する日本社会の問題でもあるーーを報道する際に、日本政府の立場を追認しているので、決して移民を「移民」と認めない。

たとえば「平成の30年間で在留外国人は3倍近くに増加した」とは書くが、絶対に、彼ら在留外国人の一人たりとも「移民」とは認めない。それは政府の立場を否定することになるからだ。

しかし、記事をよく読むと、明らかに移民の存在を認めていることがわかる。適宜改行。

2019年7月2日付の「令和の争点 参院選2019」の見出しは、

〈外国人「1000万人」青写真は〉(橋本昌宗記者)

〈日本人として接すべきなのか、外国人として支援策を講じるべきなのか。住民の多くは戸惑っているのが実態だ。

ある市関係者は、政府が外国人の受け入れを「移民政策」とは位置付けていないことを引き合いにし、こう話した。

「根本的な対策が取れないまま、ゆがみができあがった。政府の建前が、彼らの立場をあいまいなものにしたんだ」

▼とても産経新聞の記事とは思えない、移民問題をめぐる政府批判の論調がにじむ。「(政府を)引き合いにし」云々と書いているが、移民問題について、政府の大方針以外に引き合いにする文脈は、この日本社会に存在しない。

なにしろ、日本政府は移民問題について「そんな問題は存在しない」という立場なのだから、ゆがみが生じないほうがおかしいわけだ。

▼40年後には、日本国内の10人に1人が外国人になるかもしれない、というデータを紹介してーーそれって「外国人」なのか、という素朴な疑問はさておきーー、この記事は次のようにまとめられている。

欧米各国を覆う移民問題は、決して対岸の火事ではない。(中略)これからの「国のありよう」をどうするのか、有権者の側も真剣に答えを探さなくてはならない。〉

「欧米各国を覆う移民問題」と書くとき、産経新聞は「移民問題」に「」を付けない。そのうえで、その移民問題は「対岸の火事ではない」、つまり日本の問題でもある、と示唆している。

つまり、この記事は、有権者も考えよ、という結論になっているが、それは型どおりのものにすぎずーーなにしろ国の政策の根本が、支持率対策のために曖昧(あいまい)なままなのだーー、実質的には移民を移民と認めない現在の安倍晋三総理の政策に問題の原因がある、ということを示唆している。記者やデスクはここらへんの表現に気を使ったのかもしれない。

▼産経新聞ですら、こうした論法を使わざるを得ないところまで現状が悪化しているところに、日本の移民問題の難しさがある、と、この記事を読むこともできる。

(2019年8月1日)

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