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日本で「レイプ(強姦)」や「性暴力」の無罪判決が続く件(その2)

■NHKでの議論

▼2019年5月16日、NHKの「クローズアップ現代+」では、法改正を訴える性暴力被害の当事者と、法改正(「抗拒不能」の撤廃)に反対する弁護士とが、正反対の意見を表明し合う、日本のテレビのなかでは比較的緊張感のある番組を放映していた。

この番組は、下記サイトでくわしい文字起こしが見られるので、興味のある人はご参考に。

〈“魂の殺人” 性暴力・無罪判決の波紋〉

〈今年3月、名古屋地裁岡崎支部が出した判決に波紋が広がっている。19歳だった娘への性的暴行の罪に問われた父親に無罪が言い渡されたのだ。背景にあるのが、刑法で定められた犯罪の要件。2年前の法改正の前に議論されたが要件は改正されず、性犯罪被害の当事者などからは、「実態とあっていない」という批判があがっていた。番組では、法改正について議論した法律家などメンバー12人に緊急アンケートを実施。今回の判決をどう受け止めているのか聞くとともに、「魂の殺人」と言われる性暴力被害者の声を伝える。〉

▼出演したのは、

山本潤さん (実父からの性暴力被害者、一般社団法人Spring代表理事)

宮田桂子さん (弁護士・「性犯罪の罰則に関する検討会」委員)

武田真一 (キャスター) 、 合原明子 (アナウンサー)

山本氏が性犯罪被害の当事者。宮田氏が「抗拒不能」の撤廃に反対の弁護士。

▼「同意」の有無と、「抗拒不能」が、性犯罪の裁判を考えるキーワードなのだが、くわしいことはネットで調べたらいくらでも出てくるので、そちらを参照してください。

「抗拒不能」について、宮田氏が以下のように語っていた。

武田:刑法をもう一度見直すべきかどうかについて、「裁判所は『抗拒不能』を幅広く解釈している」とありましたが、これはどういうことでしょうか?

宮田さん:先ほど、「支配関係のある方が抵抗できない」「被害者はそういうような例がある」ということがVTRで紹介されていましたが、例えば、医師と患者、あるいは宗教者と信者の関係であるとか、あるいは就職をさせてやると言っている人であるとか、あるいは親に嫌われると思って関係に及んだり、先生に逆らえないと思って関係に及んだ例についても、実は幅広く「抗拒不能」の要件の中に含めている。

武田:そういう事例があるわけですか?

宮田さん:あるんです。〉

つまり、検察の力量や裁判官の主観によって、抗拒不能の範囲が変わる、ということだ。

また宮田氏は、「性教育とか、社会の常識が変わらなければ、裁判官は、「これは同意がある」と考えてしまう」ともコメントしている。

性被害の当事者である山本氏にとって、宮田氏の意見はおよそ納得できないだろう。宮田氏にとって、「抗拒不能」を撤廃すべきという山本氏の意見は、法律運用の現実を知らない素人の意見のように映っているかもしれない。

■田房永子氏の鋭い指摘

▼前号で紹介した北原氏による「週刊朝日」の連載は、田房永子氏のイラストも毎回秀逸である。このイラストで、予想以上の人数が集まったフラワーデモに対して「ツイッターか電通が意図して世論操作を行なっている疑い」などとネットに書き込んでいる人がいることを知った。

田房氏が大阪のトークイベントで話した概要が、2019年5月22日付の朝日新聞夕刊で紹介されていた。

〈(田房氏)自身は表現活動を通し、性暴力や痴漢に対する怒りを示してきました。意思に反した性交への無罪判決が相次いだことに抗議するため、女性たちがデモなどで声を上げ始めた現状をあげ、「(以前は)湯葉よりも薄かった手応えが、高野豆腐くらいに固くなってきた」。〉

▼この問題が報道され始めてからの数カ月間で、筆者の心に残った言葉は、被害の当事者の切々たる言葉と、この「湯葉よりも薄かった手応えが、高野豆腐くらいに固くなってきた」という一言だった。

▼この問題は、NHKの「クローズアップ現代+」がタイトルに掲げた「魂の殺人」が最重要のキーワードだ。

扱うべきは、人としての「尊厳」、ということだ。

▼尊厳が傷つけられても、つまり、魂を殺されても、今の法理論では非道を罰することができない=尊厳が守られない、という点が大問題なのは明らかだ。

社会を変えることで、法律を変えるか。

法律を変えることで、社会を変えるか。

どちらの道もある。

間違いないのは、性暴力の非道に対する、日本社会の「高野豆腐」のような手応えが、おでんの「こんにゃく」に変わり、「車のタイヤ」に変わり、さらに手応えのあるものへと変わっていけば、その間に法律も必ず変わる、ということだ。

(2019年5月25日)

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