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『「いいね!」戦争』を読む(13)記事は「真実」でなくても構わない件

▼今号で紹介するのは、「オンラインの生態学」とでもいうべきものだ。

『「いいね!」戦争』の第5章「マシンの「声」 真実の報道とバイラルの闘い」の続き。

▼前号は、最近よく目にする「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」の簡単な解説だった。

▼ところで、『「いいね!」戦争』には、まだアマゾンでカスタマーレビューが1件もつかない。2019年7月7日現在。

▼先に「オンラインの生態学」と書いたが、以下の論理の流れをたどると、まるで映画「マトリックス」の世界のようだ。人間の意識/無意識が、インターネットと融合して、渾然一体(こんぜんいったい)となっている現実がよくわかると思う。「ああ、あるある」と感じる人も多かろう。適宜改行。

〈同類性はオンラインでは避けられない。友人のニュースフィードで目にしたコンテンツを共有したら最後、シェアした人たちもプロセルの一部になる。(中略)

ユーザーが決まったタイプのコンテンツに肯定的な反応をすれば、ソーシャルメディアのニュースフィードを管理するアルゴリズムは、同様の情報を目にする機会が確実に増えるようにする。〉(198頁)

▼上記の後半部分が、「あるある」と感じるだろう箇所だ。ニュースフィードに限らず、広告表示などに頻発(ひんぱつ)している。映画「マイノリティ・リポート」に似た世界が、こんなに早く実現するとは思わなかった。

「こちら」が何かに反応して、それらの反応がシステム全体に波及するわけだが、重要なことは、〈これらのさざ波は自分にも返ってくる〉ということだ。(198頁)

〈イェール大学の研究者たちは徹底的な実験を行って、人は過去に見覚えのある見出し(世界に衝撃、ローマ教皇フランシスコがドナルド・トランプの出馬を支持)のほうをはるかに信じやすいことを突き止めた。

記事が真実ではなくてもかまわなかった。前置きでフェイクニュースかもしれないと警告されている場合でさえ、問題ではなかった。

何より重要なのはなじみがあるかどうかだった。

耳慣れた主張であるほど、批判的に受け止める確率は低い。〉(198頁)

▼オンラインのコミュニティーは、ネットいう「広大な海」の中なのに、閉ざされた世界になっているから、たちが悪い。

こうした「エコーチェンバー」現象が常軌を逸(いっ)すると、「反ワクチン運動」のような悲惨なことが起こる。〈「事実」をめぐる議論が動機をめぐる議論に変わる〉のだ(199頁)。

反ワクチン運動については、本書の200頁にくわしい。「ワクチン=悪」という盲信が広がり、結果的に、アメリカのカリフォルニア州では、子どもにワクチンを打たせない親が21世紀に入って4倍に増え、感染症に罹(かか)る子どもの数が激増した。ディズニーランドの中で147人がはしかに感染する騒動も起きた。

これらはインターネットがなければ起こらなかった現象だろう。愚かなことだが、笑えない。SNSを通した盲信という名のウィルスは、それほどに危険である。

▼これからは、上記のような自らの生態をわきまえたうえでSNSと付き合うほうがいいだろう。使う必要がない人は、使わないほうが価値的かもしれない。あれこれと思い煩(わずら)う時間がもったいない。

どんな人にとっても、1日は24時間しかないからだ。

これからは、SNSとの距離感のわかっている人と、わかっていない人との間に激しい社会格差が生まれる可能性がある。(つづく)

(2019年7月8日)

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