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「白か黒か」決められない件 ダウンロード違法化

■「白か黒か」決められない話は多い

▼先日、「白か黒か」決められない件、というタイトルでメモした。

▼白か黒か、決めつけて、事足れり。そんな思考停止では何も見えないのに、そういうことって結構多いのでは、と思ったので、最近の事例から、幾つかメモしておく。

■著作権侵害のダウンロード全面違法化

▼一つは、「著作権侵害のダウンロード全面違法化について」。2019年2月15日付の朝日新聞から。

〈権利者の許可なくインターネットに上げられた漫画や論文などあらゆるコンテンツについて、著作権を侵害していると知りながらダウンロードすることを全面的に違法とする政府の方針がきまった。著作権法の改正案を国会に出すため、文化庁が具体的な条文作りに入る。だが、一般の国民の日常的な行動に幅広い影響が出るだけに、ネット上などで反発や疑念の声が相次いで上がっている。〉

ということで、海賊版の被害者であるはずのマンガ家を代表して、竹宮恵子氏がコメントしていた。

〈海賊版の取り締まりは必要ですが、一律にすべてのダウンロードを違法とする方針には懸念を覚えます。描く立場としては複雑な気持ちです。著作権が全く守られない「無法地帯」は困りますから。/でも著作権にはグレーゾーンがあります。

そう、すべての法律には必ずグレーゾーンがあるのだ。

■法規制に「想像力」を広げよ

▼そして、以下のコメントが考えさせられる。キーワードは「想像力」だ。

〈法規制とは「網をかけられる」こと。その意味に想像力を広げる必要がある。例えば私の作品「風と木の詩(うた)」。物語は少年同士のベッドシーンから始まります。もし漫画が児童ポルノ禁止法の規制対象になれば、この作品は「アウト」でしょう。出版も今より難しくなる。そこが一番問題なのです。網をかけられれば、必ず萎縮が伴う。

▼傑作『風と木の詩』を読んだことのある人の中には、上のコメントを読んで「たしかにアウトかも」と思った人も多いことだろう。

しかし、竹宮氏の「網をかけられれば、必ず萎縮が伴う」という一言には、「科学的」な証拠があるわけではない。法律的な根拠があるわけでもない。それは「社会」の動きであり、「人の心」の動きであり、目に見えない。それでも竹宮氏が言い切る根拠は、これまでの歴史や経験である。

▼じゃあ、どんな網が最適なのか。二択や三択の解答欄はない。マークシートの試験のように、答えが用意されているものではない。

▼政府の方針には、「海賊版を全滅させる」という大義名分がある。これに逆らう人は極小だ。だから、ダウンロードは黒。ダウンロードの全面違法化は白。こういう「論理」だ。

とても乱暴な話なのだが、こういう政府のやり口を、「合理的だ」「論理的だ」と感じる人が、最近増えているような印象がある。

■人間の「内面」「生」「創造のサイクル」

▼補足として、他のコメントも紹介しておく。2019年2月10日付の西日本新聞で読んだ、国際日本文化研究センター教授の山田奨治氏。

〈画面保存のように、多くの国民が広く行っている行為に、法の網をかけることには、極めて慎重であるべきだ。普通の国民は「違法かも」と思えば、画面保存を避けるようになるだろう。それによって、私的な創作や研究、社会問題についての情報収集などが萎縮する。

 一方で、画面をいったんプリントして、それをデジタル化するのは合法だというから、あぜんとしてしまう。(中略)

 わたしが特に残念に思っているのは、違法な著作物から私的使用目的で便益を享受しようとする行為には疑義があると、文化庁が切って捨てたことだ。こうした考え方の背景には、著作物を買って読む・見る・聴くだけの古典的な消費者像があるのだろう。

 現代の消費者は、著作物をダウンロードし、加工してアップロードし、それをまた誰かがダウンロードして加工する。この新しい「創造のサイクル」を妨げる法規制は、もはや時代遅れだと言えよう。

 私的使用を「便益」という経済概念でくくることにも、違和感がある。人間の内面は、幾多の著作物からできている。カラオケのように、誰かの著作物を使って自己表現することもある。著作物の使用は、実は人間の「生」の深い部分に直結することなのだ。〉

いいコメントだと思う。

▼人間の「内面」とか、「生」とか、「創造のサイクル」を守ろうとする側のほうが、「古典的な人間像」や「便益」至上主義で法規制を進める側よりも、徒労感を感じたりすることが多いかもしれない。

前者には、すぐにわかる「論理」や、すぐにわかる「証拠」は無い。相手を納得させるのに骨が折れる。いっぽうの後者は、「内面」や「生」や「創造のサイクル」に関わる必要はない。ただ「全面違法化の法律をつくればいい」のだ。

後者のほうが簡単だ。しかし、後者を強く支持する人は、もしかしたら「答えの奴隷」になっているのかもしれない。

(2019年2月24日)

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