イスラム国に抵抗したラジオ局 2017.7.24

※イスラム国の支配下にあるイラクのモスル市民に向けて、「生き延びるための情報を流し続けたラジオ局」がある。

▼〈モスル 響いた命のラジオ〉(毎日新聞2017年7月13日 東京朝刊)

〈「空爆の後はすぐ爆風が来る。できるだけ窓から離れて」「食料は腐りにくい豆類が長期保存に最適」。こんな情報を日々発信してきたラジオ局が、イラク北部アルビル郊外にある。名は「アルガド」(明日)。唯一の目的は「命を守ること」と運営者のモハメド・マスリさん(29)は言う。/放送の対象は約80キロ西のイラク第2の都市モスルの住民。マスリさんのかつての隣人たちだ。最近まで過激派組織「イスラム国」(IS)の「人間の盾」にされ、ISとイラク軍との戦闘にさらされ続けた。/ISはテレビなどの視聴を制限し違反者は処刑対象。だが命がけでラジオを聴く住民もいた。「届け、届けと祈りながら放送しました」(マスリさん)。イラク政府は9日、モスル解放を宣言した。【モスル(イラク北部)で篠田航一】〉

※「立ち向かった人々」という連載。2017年6月21日、イスラム国をめぐる大きな出来事があった。

▼〈イラク・モスルでISがモスクを爆破 「国家樹立」宣言の場所〉(2017年06月22日 BBC)

イラク北部のモスルで過激派組織のいわゆる「イスラム国」(IS)の掃討作戦が続くなか、イラク軍は21日、ISが市内の歴史的なイスラム教礼拝所「ヌリ・モスク」を爆破したと明らかにした。/有名な斜塔があることでも知られるヌリ・モスクは、ISの最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が2014年にカリフ制国家の樹立を宣言した場所だった。/しかし、ISは系列のアマク通信を通じて、モスクを破壊したのは米軍機の空爆だと主張した。/イラクのハイダル・アバディ首相は、モスクの爆破はISによる「正式な敗北宣言」だとしている。(中略)ISはこれまでもイラクやシリアで複数の歴史的建造物を破壊している。/国連によると、ISはモスルで10万人以上の住民を「人間の盾」として人質に取っている可能性がある。(中略)イラク軍の発表文によると、モスクと「ハドバ」(せむし)と呼ばれる斜塔の両方が爆破された。/モスクの建設は西暦1172年に始まったとされる。〉

※モスル解放宣言は発表されたが、モスルの戦闘はまだ続いている。

※毎日記事によると、マスリ氏は2014年6月、イスラム国の支配下にあるモスルを脱出し、翌2015年3月、2人の仲間とラジオ局を立ち上げた。メディア戦略に長(た)けるイスラム国に対して、マスリ氏たちはメディアで対抗した。

ラジオ局は寄付で運営し、スタッフは20人。兼業の人が多いという。美しい音楽も流した。篠田記者はラジオ局「アルガド」が流した音楽を、実際にモスルで聞いていた人にも取材している。

弾圧の場で耐える人もいれば、離れた場で知恵を絞る人もいる。無数の地獄を生み続けるイスラム国をめぐるニュースのなかで、メディアの力に希望を感じさせる良い記事だった。

このラジオ局の話題は、住民自身がメディアになる、というケースの極北でもある。それは、日本社会においては極端な例にみえるかもしれないが、決して無関係の話ではないと筆者は考える。

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