ヤシャ・モンク氏の語る「自由なき民主主義」

▼アメリカの政治学者ヤシャ・モンク氏は、「ポピュリズムが民主主義を脅かしている」のではなく、その逆で、「民主主義が信頼を失っているから、ポピュリズムがのさばるのです」と語る。(2018年11月7日付朝日新聞)

「その兆候は先進国では20年以上も前からありました。投票率の低下や、政党・政治団体に所属する若者の減少、議会の信頼の失墜など。米国では1970年代には4割以上だった米連邦議会への信頼度が2014年になんと7%です

「例えば米国では1930年代生まれの7割が『民主主義の社会で暮らすことが重要』と答えていますが、80年代生まれは3割。『(議会や選挙を軽視する)強権指導者でも構わない』と答えた18~24歳は95年の調査では34%でしたが、2011年には44%に増えました。軍事政権を許容する米国人は95年には16人に1人でしたが、11年は6人に1人。数は少ないですが、伸びは大きい。同じ傾向は英国やオランダ、スウェーデンでも見られ、その後も加速しています」

▼この衝撃的な傾向には、以前も触れた。

【民主主義のメモ】ドイツのメルケル首相、党首辞任へ

この投稿では、「世界」2017年2月号に載った「民主主義の脱定着へ向けた危険 : 民主主義の断絶」というモンク氏の共著論文を紹介した。これはここ数年で筆者が読んだ雑誌記事のなかで、最もショックを受けた記事だった。この論文では、要するに

軍による統治に賛同する人が増えている

ことが実証されている。〈世界中のほぼ全ての地域で、高所得者層の方が低所得層よりも「軍が統治すること」に賛同する傾向が見られる〉というのだ。そして、それだけではない。

注目すべきは、非民主的な政治制度への寛容性が特に裕福な若者の間で強まっていることである。

〈歴史的にみて20世紀後半のわずかな期間を除き、民主主義は多くの場合、貧しい者からの再分配の要求に応えることを意味し、したがってエリートからは懐疑的な目でみられてきた。つまり西洋諸国の富裕層が民主的な制度への嫌悪感を深めているという近年の動向は、歴史的な規範への回帰に過ぎないのかもしれない。

▼おそろしい分析だが、朝日インタビューでは、この傾向の原因の一つに触れている。「社会の速すぎる変化」だ。

「欧米諸国では戦後、多くの外国人が流入しました。そのペースがあまりに速いため、多民族社会に立脚した民主主義モデルの構築が追いつきませんでした。国のアイデンティティーが損なわれるという危機感がナショナリズムを刺激し、そこにポピュリズムがつけ込んでいます」

▼以下は、悪しきポピュリズムの特徴。

「彼ら(ハンガリーやブラジルなど新興国の指導者)の多くがエリートを攻撃し、大衆に寄り添う姿勢を装います。しかし、実際には権威主義的で、多数派に不人気な少数派を攻撃し、裁判所など自らの意に沿わない機関から独立性を奪います。独裁と違って、選挙という手続きを経ている点で、まさに『自由のない民主主義』です。ポピュリズムはトルコやインドなどアジアにも及び、もはや世界的現象です」

▼「自由なき民主主義」は、佐藤優氏が指摘する、民主主義を迂回する「第二官僚」の動きともリンクするのかもしれない。

【民主主義のメモ】佐藤優『官僚の掟』を読む

具体的な対策としてモンク氏は、

「グローバル化の恩恵を私は否定しません。しかし、市民が『自分たちでものごとを決める』受け皿としての国家の役割にもっと注目していいでしょう」と語る。

歴史家ティモシー・スナイダー氏の『暴政』でも、モンク氏と同じように「既存の組織の重要性」を強調していた。また今度紹介したい。

▼モンク氏は印象的な経験を、知恵をもって紹介してくれている。

「3年前、ドイツでイスラム排斥を掲げる右翼政党の集会を見かけました。驚いたことに、そこに日本の国旗を振って参加するドイツ人男性がいたのです。なぜかと尋ねたら、『日本は国を閉ざして移民の流入を防いでいる。賢い選択だ』と話していました。しかし私は日本も多様な人種や宗教を持つ人が住む社会への道を歩んでいることを知っています」

(2018年11月20日)

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