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日本社会に「QOL(生活の質)」という名の優生思想が浸透しつつある件(2)

▼前号で紹介した、共同通信の記事の続き。

▼「安楽死」という言葉をめぐるイメージが、日本と海外とでは異なる、という。オランダやベルギーでは、知的障害、精神障害、発達障害のある人に対しても、安楽死が行われている。

〈さらに、医療や司法が延命停止を決定する「無益な治療」論も進む。英国では近年、重い障害のある乳幼児の生命維持が裁判所命令で中止され始めた。〉

▼前号で触れた、子どもの子宮摘出も、乳房切除も、身長抑制も、ひとつひとつに、真っ当な理由のあることだ。イギリスの裁判所による生命維持中止の命令も、お国の文化と長い議論の末に決まったことだろう。

▼『殺す親 殺させられる親』などの著作のある児玉真美氏は、鋭い分析を示す。

〈一歩を踏み出せば、その後は対象者などが拡大していく「すべり坂」と呼ばれる現象。真実さんは「終末期のはずの議論が、QOLの議論にシフトし、医療コスト論も持ち出され『QOLの低い生は生きるに値しない』という価値観が浸透しつつある」と言う。〉

▼QOLは、素晴らしい目的を持った言葉である。しかし、論理というものは悪魔との取り引きにも使われる。

「終末期の議論」が、

「QOLの議論」に移っていき、いつのまにか

「医療コスト論」が加わって、その行き着く先は、

「QOLの低い生は生きるに値しない」

というナチスドイツと瓜二つの結論に至るわけだ。

この過程のどこかで、「誰が人間なのか」「あなたにとって『人間の範囲』はどこまでか」という問いかけが忘れられる恐れがある。

▼少数者が声をどんどん出せなくなる状況を、「沈黙の螺旋」と呼ぶ。

QOL=生活の質という美しい言葉をめぐって、「沈黙の螺旋(らせん)」に囚われる人が出ないように、アンテナを張り、知恵を出すことが、日本社会の富める者にとっても、貧しき者にとっても、極めて重要だと筆者は考える。

(2019年9月23日)

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