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「Inscryption」はいいぞ

※このnote記事は2021年にDaniel Mullins Gamesよりリリースされたサイコロジカルホラーゲーム「inscryption」のネタバレ及び考察要素を過分に含むものであり、また考察を深めるのではなく勝手な私自身の感想を連ねたものです。未プレイの方向きの記事ではありません。

※この文は2022年、プレイ直後に書いて下書きのままお蔵入りしていたものの供養記事です。

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Inscyptionとネタバレ

Inscryptionというゲームを非常に良いと思って他の人に薦める時、少なくとも私は言葉選びに困ります。
ます公式的にはホラーゲームの括りではあるものの派手でキャッチーな怪物が襲ってくる訳ではなく、カードゲームとして薦めるとそもそもとしてRPGやノベルゲームほど敷居が低いというわけではなく敬遠されることすら。
それがデッキ構築とローグライクのいわば運ゲーのような要素を含めれば更にその玄関は狭くなってしまいます。
ついでに「レシー」という名前すら実は小屋編の終盤にならなければ出てこない事をうっかり忘れてしまいそうになる程。
inscryptionにうっかり心を奪われてしまった私はもう既にどのチャプターを何回回ったかもよく分かっていないのだけれど、確実に何もわかってない中で模索しながら全てを分かり始めた気になる一番最初が絶対に楽しい。
だから暗闇で怪しい男とプレイするカードゲームに興味はありますか、リスが可哀想だけどオコジョは可愛いしシステムもわかりやすくてハマるだとか、事実陳列だけれども本当に言いたい事とは絶妙にズレた言葉を言わなければならないのですね。
どっかでロボがボクはみんなをだましたんだ!とかなんとか。

元来、自律的な意志を持つロボット系キャラに目が無いんですね、オタク趣味として。
ケータイ捜査官7で基礎が構築されトランスフォーマーで青春が舗装されているからP03一本釣りという単純idiotロボオタク。
邪道極まりないとは思うのだけれど、この最高に性格の悪いロボットをそもそもロボットであると確認するところまでがネタバレになる為、似た趣味(ロボットフェチ)の人に薦めづらいというのもまた一つのジレンマだと今は感じたりもしていたり。
良くも悪くも万人受けだとか可愛さというよりとにかくキャラクターからストーリーまで全てインディー的チャレンジ及び鋭角なセンスが散りばめられているから、むしろ自分ではとても高い評価を持ちつつ日本や本土のゲーム賞を授与しているのを見ると逆に「マジで?」と驚く気持ちすらあるぐらい。
具体的にいうなら、このゲームは恐らく製作者が全力を注ぎ込めば本当に完璧かつ快適なカードゲームとそのシステムが構築できそうなものを、キャラクターの自我やシナリオ、プレイヤーに与えたいストレスを考えつつ、あえて不自由で不満を持たせる要素を残しているようにすら感じられるんですよね。
よく既プレイの冷静な意見として「P03のステージで冷めてしまった。act1が一番良かった。作業化した」というものが挙げられますが、単純な推し贔屓があったとしてもそれはプレイの感想として真っ当なものであると思い、強い共感をしていました。
レシーのGMが上手すぎたんです、多分あの面子の中で一番カードゲームに義務より愛着があるのは彼だと思うので仕方ない。
P03は基本野望と野心で頭超越だからプレイヤーもといルークに対してレシーほどの熱意でGMをする義理がない、ということだったのですけれど。

プレイヤー≠ルーク

このゲームはARGという現実でリアルタイムに進行するような謎解き企画…日本のサブカル感覚で言うならproject coldとかリアル脱出ゲーム的なこれまた尖った暗号解読を伴うゲームとしてリリース時期に展開を為されていたというのは、恐らく他の優秀なライターの方々がブログやnoteの記事にされていますから、ご存じでしょう。
ストーリーを一通り終えて、明言されずとも突きつけられるのはこのゲーム自体のコンセプトがおそらく「Inscryption」というゲーム作品というよりも、一介のカードゲーム系youtuberであるルーク・カーダー及びラッキー・カーダーが作中作としての「Inscryption」に遭遇及び関連した取材を行った動画記録のようなものに何故だかゲーム的システムの引っ付いた、奇妙なデータアルバムであるという事です。
もっと言えば、レシーやP03達がカードゲームの相手として対峙しているのはプレイヤーこと私らというよりも、明確にその作中次元に対応した生身の人物・ルークであって、私というこのゲームをSteamで購入してシカ族の動き方で悩んだり突然のカラスに叫んだりする存在は割と切り離されて宙ぶらりんな傍観者か視聴者か…。
作中のアーカイビストの日記やケイシーmodでの匂わせを都合よく考えていいなら、ルークはそれなりに実力の伴ったカードゲーマーであり、それをレシーから賞賛されP03に愚かだけど扱いやすいと笑われながらも利用されるのだから、尚更プレイヤーの代理キャラにはほど遠く、また彼も少し見えにくい位置にいるだけのキャラクター、むしろ主人公にすら見えて来るのですね。
推し贔屓と言われるとそれまでですが、私はルーク・カーダーの事をかなり気に入っています。
Inscyption(inscription)という言葉をそのまま直訳すれば碑文になるとGoogle先生は言いました。
まるでこのゲームは、もう何もかもがプレイヤーがなんとなく購入した時点でプロローグからエピローグまで終わっていた事件簿をレンズを通し遺したvlogのようで、エンディングが終わった後に真エンドやgoodENDの有無を調べてうわ…と思うことも含めて、全ては2021年の10月頃に完結した過去であり改善も解消も救済もプレイヤーには成し遂げることは叶わず、ただ何度プレイしてもルークがそのカードパックを手に取った時には既にケイシーは死んでいるし、P03の頭が胴から離れたあとはノンストップで劇的な破滅に向かうだけ。
自分が主人公と距離が近い存在のようでいて、実のところはただの事実の読み手でしかないことを思い知らされる、あるいは自覚させられる。
このゲームはプレイヤーの知らないところで、プレイヤーの意志とは関係なく既に終幕している、いくら頑張っても救える世界ではありません。
しかもご丁寧に、リアルタイムの出来事として、それが起こっていたかのように時系列と日付が存在しています。
SIRENみたいなリアルタイム祭りが出来そうですね。
カードゲーム自体はどんなカードをリスクを与しつつも強化して能力を組み合わせていく事に時に「壊れ」を感じる程の発明を見出せるほど、自由な発想力を尊重してくれるゲームシステムでありながら、シナリオというか最早運命は大量の隠しテキストはあっても分岐など一瞥もくれることがなくプレイヤーの眼前にはついに誰もいなくなった。

そしてこのゲームは本来非常に長い時間のやりこみプレイも可能なデッキ構築系ローグライクシステムを、ストーリー上バッサリと終了させるという思い切りにも容赦がない。
それこそ今ではケイシーmodが正式にリリースされ、ユニークな高難易度ド縛りプレイを長時間繰り返して飽きずに楽しむことが出来るものの、正規のストーリーの中ではゲームが終わったと思えばゼロになって始まるという事を何回も繰り返し、多分ここでついていけなくなる人すら生むのではと思いつつ、ラスボス戦らしいラスボス戦はレシーの月戦ぐらいなもの。
苦労して構築したデッキが報酬もなく世界観ごとゼロになる感覚は元々死に覚えの激しい同種のカードゲームで慣れてはいたものの、強いて1点残念ポイントをあげてくれと言われたら私はP03のボス戦が存在しないせいでアイツの本気のシナジーを見ることができない事を挙げたいぐらい。
初見プレイの最後、全てのウーバーボットを倒して石碑に向かう時に絶対ラスボス戦だと思ってデッキを強化したのに…という人は絶対私だけではないと思いたいです。
このゲーム本当に大好き、けれど謎が作品内で完結しないモヤモヤとか救いがなさすぎるとか頑張ってプレイしたのにマジで何も残らないとかいう評価もマジでわかる、虚無って辛い、ただそれも含めて多くを語らない系統のホラーが好きな人間には十分刺さってしまいました。
いわゆるsteam系の入れ子・第四の壁構造なメタゲーと説明することもできますが、ざっくりと上記したように個々のキャラクターの個性を尊重し過ぎたためにゲームとしての定石やシステム自体をシナリオ及び作中で自律意思のあるキャラクター達が4人を中心に全てがっつりと自分色に食っていくという逆に贅沢で真似のしようのないジャンルでもあり、それが強くプレイヤーのこの作品への感情を左右する要因になっていると感じます。
レシーの演出とスリルは派手で魅力的だけれどロアを重視していて調整にポカを感じることはありますし、頭シナジー中毒なP03のバトルは運で派手に転ぶことが無い分デッキを上手く構築しすぎると山札が5枚を切り、シンプルに作業ゲーに出来てしまう、そしてこれらのゲーム的欠点は恐らくキャラクターに併せて意図的に作られている。
ゲームシステムを作りすぎて逆に余らせるのは贅沢が過ぎると思いませんか、普通ブラッシュアップして1つに絞りそうなものなのに。

もう会えないカード友達


多種多様な属性のカードとそれらを駆使する部下やスクライブ、その根底にある邪悪なオカルトの猛毒・OLD_DATAとどうにも裏社会か軍事か知り得ない後ろめたい兵器計画、巻き込まれ燃えたゲームクリエイター、偶然呪いの墓を掘り起こしたルーク・カーダー。
中の中のと続く陰謀を追えば、いかにディスク版のInscyptionに偶然生まれた自我達が古典ホラーの忌み子のようなものかとキャラクターとして好きになった反動も含めて、ARGで得られた考察の結果を読み込んで途方に暮れるのです。
あくまで悪魔の副産物でしかないならこんなに愛着を持たせる必要なんてないでしょうよ、絵柄自体もかなり硬派なのに気づいたら全員好きになってしまったじゃないですか。

ちょっとだけ自分の話を挟みます。
カードゲームやTRPGといった、原型がボードゲーム的な趣味から離れる時、そのきっかけは何か運営に対する怒りとか他に面白い物を見つけた飽きとかではなくて、私の場合には心を許してプレイに没頭できる友人との距離感がそれらに伴っていたと、このゲームのエンディングを何度も見ながら思い出しました。
他の子供だった人たちは幼稚さだとか別の興味があって移ろっていったのかもしれませんが…少なくともああいった対人が基礎の趣味というものは、プレイする相手やそれを理解できる友人がいないまま勝負が成り立つことはありません、一人で二デッキ二役やる時を除いて。
そんな風に一部の趣味はお別れと共に失われていきました、カードゲームのコレクションや一度も回せないシステムのルールブックやサプリを大量に遺して。
心からプレイしたいならどどんとふ(当時)とかLINEを利用した有志とのテキセでもすれば良いやと試行錯誤をしてはいたものの、結局のところその遊びが好きというよりは、仲間とわいわい遊ぶことが本当に楽しかっただけだった事に気づくようになりましたね、それももう学生の頃の話です。
大抵の人はそういうホビアニものは適度に卒業してしまう、それが悲しいかな世間一般の普通。

ダイレクトアタック

Inscyptionの中に設定やグラフィック、実装されたアニメーションとシステムに余計な毒電波が入り込んで生まれた、特に強い力を有する「スクライブ」という自律キャラクター、その中でも特にレシーについて話しましょう。
一見すればその闇に浮かぶ瞳はひどく不気味で、プレイヤーをカードにして殺しては何度もプレイを繰り返す不気味な怪人。
その目的は方法こそ歪んだものである事は認めても、ただカードゲームを楽しみたかった、そのために良きGMとしてゲームを演出し続けたという生まれる世界を踏み違えたような意外なほど単純かつ純粋な物であったと私はバイアスも込みで記憶しています。
会社からの指示を受けゲームを作り込んでいたケイシーが、Inscyptionを破壊兵器の解除コードとしないため一度それを埋葬するかのように森の中へ隠し、それなりに優れたカードゲーマーがそれを発掘して。

何の因果か、ルークにも陰謀に比べれば小さな、しかし彼にとっては大きな失いの出来事がある事はact3のアーカイビストの発掘した彼自身の日記から窺い知る事が出来ます。
恐らく彼は1番今まで多く共にカードゲームをプレイしたような彼自身の大切な妹を病気か事故かで喪い、それにより気を紛らわせたくなる程度には精神にダメージを負っていたらしい。
あまりにも大切な誰かを失う事で趣味への欲が止まってしまった時、その繋がりが強ければ強いほどじゃあ別の新たな相手を探そう!とはとても思える気にはならないでしょう、下手するとその楽しかった日のことを思い出してしまうから。
Inscyptionを土の中から掘り出して、陽気なカーダーという動画投稿者としてのルークの人生は社会の暗部に触れすぎた記者のように重くなっていき、その先の運命はとても「ラッキー」カーダーとは評しがたいものがあります。

inscryptionなんてフロッピーを考えなしに掘り出さなければ、ルークはその先もずっと動画投稿者を続けていられただろうし、オコジョの野望も目覚める事なく本当にケイシーの挺身だけで収められていたか延命された危機だったかもしれないのですが。
しかし、このゲームの中で精神的でしか無いものの唯一救いであったのは、何よりも心躍るデュエルと挑戦者を土の中で待ち望んでいたレシーと優れたカードゲーマーであるルークが邂逅し、ひとときの間不気味でありながらもGMとPLの席で共にカードゲームを楽しんでいたような気がする事です。
精神的と付け加えるのはこれがストーリー上で明言されている訳ではなく、ただレシーの「いいゲームだった」というひと言からの妄想混じりであるからで、そしてあまりにもこのゲームに救いが無いけれどもあの純粋なカードバトルの瞬間だけがささやかな救済、報われたものであったと思いたいだけであるからという理由になります。
邪悪まみれのゲームの中で世界の仕組みとしての形しかなかったとしても。

何回壊れたようにInscyptionをプレイしているようで、宙ぶらりんに置き去りにされたプレイヤーは作中の全員に全員に置いて行かれた気持ちを、全く優しくない銃声を持ってぶつ切りにされたあの存在していたゲームを知ってしまった事をふと、語りたくなります。
ああ、本当にいいゲームだった、と。

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