後輩Uを語らせろ!−衝撃の上海研修−
僕には年が3つ上の後輩がいる。
彼の名前は...後輩Uとでもしておこう。
彼と僕は同じ大学のゼミに所属し、今でも時々連絡を取り合うような間柄だ。
もともとは別の大学で医療を専攻していたらしいのだが、ふと地球環境に興味を持ち始め、元の大学の学位を取得してからうちの大学へ改めて入学してきたらしい。
後輩Uは今、卒業論文を無事に提出し終え、次の修士課程への準備を進めている真っ最中である。
進路も自分の好きなことに打ち込むことを決意したのだろう。
そんな後輩Uは普段、小遣い稼ぎのためにちょっと変わったアルバイトをしている。某有名テレビ局でいくつかの番組のアシスタントをしているらしい。
もちろん番組のアシスタントという立場であるから、普段テレビの画面上からでしか見ることができない著名人ともたくさん絡めるわけだ。
ほかの人はどう思ってるかしらないけど、個人的にはものすごくうらやましいかぎりだ。顔の広い人間が一人でも近くにいれば、当然たくさんのチャンスが生まれてくる。
だからこそうらやましい。
ところで、後輩Uはそういったチャンスを持ち合わせているだけにはとどまらない。彼には伝説と言っていいほど、語り継がれるべき話がいくつかある。
今日はそのほんの一部を紹介しよう。
…
2年ほど前、ゼミで上海研修に行ったときのこと。
毎年うちのゼミは3年次になると上海研修に行くことが決まっている。
研修といってもほぼ観光も同然だけど…。
そして僕は当時4年という立場で、3年生たちのお手伝いとして参加した。
後輩Uももちろんいつもと変わらず陽気に会話を弾ませていた。
ちなみに僕と後輩Uはどういう構図かというと、基本的には一方的に僕が彼をいじり倒すような関係である。
研修という名の観光も大詰めに差し掛かり、ガイドのIさん(上海で人材紹介事業を展開する日本人社長さん)の案内のもと、上海森ビル(通称:栓抜きタワー)を見学することになった。
この栓抜きタワーは世界で一番高い展望台を有するビルとして知られているが、最上部の高さは492mとスカイツリーにも劣る高さになる。
ビルの話はさておき、いよいよその世界一高いといわれる展望台に上ることとなった。これだけのビルであるから入場する際には当然のように入場料を払わなければならない。
しかし、僕らは学生。どこも同じだが学割が適応されるのだ。
身分を証明するため、学生証を提示することになり、ガイドのIさんに入場の手続きをまとめてしてもらうことになった。
だがこの時、後輩Uにこれほどまでに悲劇的な出来事が待っているとは誰が予想できただろうか。
「おい、後輩U!お前、学割きかないぞー!」
唐突にIさんが放った言葉がなんなのか、僕らにはさっぱり理解できなかった。さらにIさんが続ける。
「学割は23までらしいな。お前の年だと適応外だ(笑)」
僕らは、彼についてとんだ思い違いをしていた。
すでに冒頭では堂々と記述してしまっているが、彼が僕らよりもずっと年上であることを、このときまで誰一人知らなかったのだ。
衝撃だった。
ここにいる引率の先生を除いて、誰も知らなかった。
もっとも一番衝撃を受けたのはまさしく彼だろう。
彼は当時25の歳。
この大学の3年間、自分に関わる教授以外には誰にも自分の年齢を公表していなかったという。驚きもあるが、むしろそれ以上にここまで隠し通せたことに賞賛の声を浴びせたいくらいだ。
当然のごとく爆笑の嵐が巻き起こった。
年がわかったところで一度ためらいつつも、敬う気さえ全くなかった。
ここで敬意を払ってしまえばこれまで積み重ねてきたものが全て水の泡になってしまうと思ったからだ。
そう、意地でもそれをしなかった。
研修の間、この事件を引っ張り続け、以前以上に後輩Uいじりが加速した。たとえ移動中のバス内や食事中でさえも、後輩Uをいじり続けた。
もちろん僕ほどではないが、周りの人間も物欲しそうないやらしい目で彼を見つめた。
この状況を僕は誰よりも楽しんでいた。
日本に帰ってもその話が加速度を増していったことは言うまでもない。
もう一度、言っておこう。
僕には年が3つ上の後輩がいる。
彼が上海で経験した出来事は、彼の学生生活でも一番の屈辱になったに違いない。
いや、たぶん、人生で一番...。
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