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きょうの手芸#20 「ナナメにすると違って見える」には名前がある

 こんにちは! 「きょうの手芸」も20回目を迎えました。
 初めて読んでくださる方のために、今やってることを簡単にご説明します。
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 昭和15年に出た『主婦之友花嫁講座 毛絲編とレース編』という本は、レースの編み方が載っている本としては、戦前の日本における最後の出版物の一つです。この頃から日本では贅沢が禁じられ、物資が配給制になり、木綿製品が不足して靴下にさえ困るようになりました。したがってレース編みどころではなくなってしまったのです。
 本を見てレース編みに憧れを抱いた人も、その夢がかなわないまま命を落としたかもしれません。
 そんな歴史的背景に思いをはせながら、昭和15年のレース編みを再現することに取り組んでいます。去年の暮から編み始めて、一ヶ月がたちました。

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 下の写真をごらんください。けさ、ようやくここまで到達しました。
 Aモティーフが4×4枚です。目標は6×6なのでまだまだです。
 「はぐれモティーフ」も無事回収し、どれがそれだったのかもわからなくなりました。
 この模様を一言で表すなら、
 「格子模様の中に八角形がおさまっている」
 ということになるかと思います。
 でも、2枚目の写真を見てください。

 同じものを角度を変えて撮っただけです。でもなぜか格子模様が消えて、「2種類の四角を交互に並べた市松模様」みたいになりました。不思議ですね。
 もっと単純化してみましょう。下の図で、赤と青のどちらが強く印象に残りますか? (赤ですね……赤です。私は赤っ!)

 角度を変えてもう一度。(青のほうが強く見える!)

 まっすぐな正方形と斜めの正方形が重なっている場合、まっすぐのほうが視覚に訴えやすいんです。こういう現象には、たしかちゃんと名前があったはず……と思って調べ直したら、すぐに見つかりました。「斜線効果」っていうんでした。「oblique効果」ともいうようです。

 人間の目は、水平・垂直の線にくらべて、斜めの線を知覚するのが苦手であるらしい。レースを斜めに置いただけで模様の見え方が変わるのはそのせいです。これは本当に面白いと思います。
 こういう現象があることは前から何となく気づいていましたが、やっぱりちゃんと研究している人がいるんですね。偉い!
 でもその偉い人々も、最初は私と同じように、装飾的な幾何学模様を見て「おや?」と疑問を抱いたのではないでしょうか。(そこから研究が始まったのだ、と勝手に面白いストーリーを作りあげる)
 もう一つレース編みでの例をお目にかけましょう。下の写真は、すでに何度もご紹介した『美しいレース編』(1964)という本に載っていたものです。

 モティーフつなぎをクッションに仕立ててあるもので、とても複雑な感じのする豪華な模様です。初めから斜めに置いて撮影してあります。これをまっすぐに直してみると……

 こんな感じ。「ああ正方形か。ここがつなぎ目なんだな」と一目瞭然になってしまいます。ちょっと残念な感じなんです。斜めに置いたほうが、つなぎ目の線が知覚されにくくて垢抜けて見える。正方形のモティーフつなぎにはしばしばそういうことが起こります。この写真を撮った人はわかってたみたいですね。この人も偉い!
 そんなわけで、幾何学模様って大好きです。
(つづく)


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