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【第122回】スピッツ/フェイクファー

私って自慢じゃないのだけれど見た目で得をするタイプである。スゴく真面目な人間に見えるらしく、仕事に対して真面目に取り組んでいるように思われているらしい。たとえミスをしたとしても、周りからは「仕事にミスはつきものだよね、また次頑張ろう」という感じであまり怒られた事がない。本当の私は与えられた仕事さえこなしておけば良いでしょという考え方で、情熱を持って仕事に取り組んでいるわけではない。仕事は仕事、それ以上でも以下でもないのだ。
前に新人歓迎会があったときに、上司が新人さんに「仕事は人生の1/3を占めるわけだから、仕事を好きにするのは大事だよ」って教えてあげていたのだけれど、私には実に耳が痛い言葉であった。私は社会に出てから25年間、仕事を好きになれなくて、かと言って大してやりたい事もなくて、趣味を仕事にできる才能もなかったわけで、なんとか仕事と趣味のバランスをとってやってきた。仕事を好きになれたらベストなんだろうけれど、それができないのなら仕事は仕事と割り切って、その分自分の時間を楽しもうと決めたのである。この生き方が正しいかどうか、答えはまだ出ていないけれども、今さらこの働き方を軌道修正するのは、いかにも難儀である。
そんなわけで私は周りの皆さんが思う程真面目な人間ではないのですよ、皆さんの目に写っている私はフェイクなのですよと、お伝えしたい気持ちになったりならなかったり。といったところで前置きは以上にして、今回は1998年に発売された、スピッツさん通算8枚目のアルバム「フェイクファー」について語りたいと思う。ちなみにスピッツさんを聴く時間も私の楽しい時間の1つだ。スピッツさん、私はあなた達のおかげでなんとか平日の仕事を頑張っています、謝々!とお伝えしたい。
さて、「フェイクファー」についてだが、私はこのアルバムについての印象が薄くて、存在を忘れがちである。なのだが、実はこのアルバムにはシングルカットされている曲が5曲も収録されている。このアルバムの収録曲数は12曲なので、半分近くをシングル曲が占めていることになるわけだ。にも関わらずなぜか印象が薄いという不思議。
シングル曲の中でいうと「運命の人」がすこぶる良い。アルバムの中でも1番好きな曲だ。軽快なリズムで明るめのメロディーなんだけれど、サビになるとやはり泣けるのだよね。聴くたびにサビのメロディーがヤバいなと思う。それからこの曲、Aメロの歌詞がステキで、「バスの揺れ方で人生の意味が解かった日曜日」「愛はコンビニでも買えるけれどもう少し探そうよ」「晴れて望み通り投げたボールが向こう岸に届いた」といった、分かったような、分からないような感じがなんか良い。
次点で言うと「冷たい頬」「謝々!」あたりが好き。「冷たい頬」は最初に聴いたとき、どっかで聴いたことあるなぁと思い悩んでいたら、Aメロが「ゆらゆら帝国」の「待ち人」と似ていることに気がついた。「待ち人」はゆらゆらさんのイメージと違った感じがして、印象に残っていたのだよね。ま、「待ち人」の話は置いといて、「冷たい頬」は全体的に穏やかな空気感で、聴いていて心地の良い曲。昔した恋愛を穏やかな気持ちで思い出しているような歌なのかしら、ちょっぴり切ない感じがステキだ。
「謝々!」の方はかなりアレンジが加えられていて、派手な印象を受ける曲である。曲調は明るめで、詩も前向きな応援ソングという感じ。結構好きな曲ではあるのだけれど、私はゴスペル風の女性コーラスがあまり好きじゃない。この曲はその女性コーラスが結構張り切っちゃっているのよね。これさえ無ければなぁなんて聴くたびに思ってしまう。女性コーラスの嫌いな理由は、「シャナナ〜」と「シャララ〜」の間の、どっちつかずな発音が好きじゃないという、とても理不尽かつ個人的なものである。
そして残るシングル曲は「楓」と「スカーレット」。「楓」のほうは静かなバラード曲で、最初退屈だなぁって思って聴いていたのだけれど、Bメロ、サビと進むにつれてどんどん盛り上がってくる。「スカーレット」はスピッツさんを代表する有名な曲だ。聴けばあ〜これねってなるので、このアルバムではどうしても浮いているように感じてしまう。私の中で「チェリー」と印象がスゴく被るので、有名な曲にも関わらず、その存在をすっかり忘れていた。聴いてすぐ思い出したけれど。
シングル曲以外で言うと「センチメンタル」はカッコよいなと思う。私にしては珍しくドラムがやべぇってなった。「オアシス」とか「U2」の雰囲気を漂わす、全然センチメンタルにならない、めちゃめちゃカッコよいロック・ナンバーだ。曲が似てるとかではなく空気感がね。スピッツさんもその辺イメージしてたりするんじゃないのかなと思うのだけど。ちなみにこの曲はアルバムの2曲目に配置されていて、1曲目が「エトランゼ」という序章のような短い曲。この曲がゆったりと静かで、好きもキライもない無味無臭な感じなので、「センチメンタル」の激しさがより際立つのだ。
後は友達じゃなくて恋人になりたいのだという、可愛い歌詞でほのぼのとしている「仲良し」や、ハードロックな曲調でカッコよいギターが聴ける「スーパーノヴァ」あたりが好き。そして残りの3曲は、とても影が薄い曲達だ。アルバムを聴き終わったあとどんな曲だったっけなってなる。「フェイクファー」なんかタイトルチューンなのに。でもちゃんと意識して聴いてみると決して悪くはないのよね。不思議な雰囲気を醸していて。ただ合間に「謝々!」や「スカーレット」が入ってきちゃうので、どうしてもそっちに意識がいってしまうのはしょうがないところ。
というわけで、「フェイクファー」はシングル曲に埋もれちゃってるけれど、それ以外にも味のある曲がたくさん収録されている力作アルバムじゃないかと思った。最初影が薄いアルバムだなんて言っちゃったけれど。ただ私にとってこのアルバムのピークは、「冷たい頬」や「運命の人」が聴ける前半部分で、特に2曲目から6曲目あたりになることもあって、どうしても後半でダレてきちゃうのは事実なのよねぇ。

それでさぁー(フェイクファー)
やっぱり良いのよ
スピッツさん

季語はスピッツ。

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