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リヨンに現れた宮間あやさんから、なでしこジャパンの旅路を考える6項目(FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会総括)。

FIFA女子ワールドカップ 2019フランス大会の表彰式に、元なでしこジャパンの宮間あやさんがゲストとして登場した。アメリカ女子代表に手渡されるワールドカップを表彰台に運び込む重要なゲストとしての扱いだった。

帰国して驚いたのだが、どうやら、このことは日本ではほとんど知られていなかったようだ。ツイート検索しても私のツイートしか出てこない。

私には夢がある。

次に、この動画を見てほしい。アメリカ女子代表を支援するナイキのプロモーション動画だ。

お分かりの方も多いと思うが、この動画には元ネタがある。キング牧師の有名な演説 "私には夢がある"だ。1963年8月28日に、キング牧師は職と自由を求めるワシントンでの行進の際に、リンカーン記念館の階段上で17分にわたって演説し、公民権運動に大きな影響を与えた。

FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会はアメリカ女子代表が連覇。4度目の優勝を飾った。

8年前の2011ドイツ大会では、なでしこジャパンがパスサッカーで世界の女子サッカーに革命を起こした。今大会は、オランダ女子代表とイングランド女子代表が台頭。米国女子代表を筆頭に女子サッカーの大きな流れを生み出した。

なでしこジャパンは、その流れに乗り遅れたわけではない。流れには乗っていたはずだ(その根拠は後で述べる)。だから、東京五輪に向けて明るい希望がある一方で、遠い未来には大きな不安を抱えている。

私が現地で撮影した動画を見ていただくとわかるように、アメリカ女子代表は「アメリカ女性を代表するチーム」だった。では、なでしこジャパンは、どのような代表チームだったのか?今後に何が必要なのか?私は、リヨンでの決勝戦を観戦後、改めて考えてみた。あの、宮間あやさんの姿は、どうしても心に引っかかった。

世界の女子サッカーはポジショナルで速く力強く

今大会の女子サッカーについて確認だ。かつて、女子サッカーは放り込んだボールを力任せにマイボールとしゴールを奪い合うスタイルが主流だった。体格に勝るノルウェー、ドイツ、中国が強かった。しかし、2011ドイツ大会で、なでしこジャパンがパスサッカーの革命を起こし優勝する。

2015カナダ大会ではグラウンダーでパスを繋ぐもののゴールまでの手数を減らし縦に速いスタイルが台頭。そんな中で、なでしこジャパンは勝ち進み準優勝した。

そして、今大会で各国が披露する女子サッカーはカナダ大会の流れの延長線上にある。ただ手数を減らすだけではなく、ポジショナルプレーを取り入れ、両翼に選手を張らして、選手間の距離を開けた上で急所を突くパスでハーフスペースを一気に攻略するサッカーが本格的に取り入れられた。

決勝戦の2点目を見てほしい。オランダ女子代表は、アメリカ女子代表が両翼に選手を張っているためにDFが絞ることができず、薄くなった中央にドリブルで持ち込まれて失点した。
(動画は埋め込みでは見られないのでクリックしてYouTubeでご覧ください)

では、前回大会までのなでしこジャパンや、なでしこリーグの各クラブで行われてきた選手の距離が近い密集守備で防げるのか?今大会の強豪国のパスの距離は長くて速い縦方向。ハーフスペースを突かれると、簡単に失点する。

密集のプレーを得意とするチームは木っ端微塵に粉砕されやすい。なぜなら、密集から遠く離れたフリーの選手にボールが短時間で渡りやすいからだ。そこから縦に素早く一直線にゴール前に攻め込むのがポジショナルプレーの常套手段だ。イングランド女子代表の得点を見てほしい。

世界の流れから離れたなでしこリーグの現場

日本国内で、ポジショナルプレーを展開している女子チームは多くない。なでしこリーグでポジショナルプレーの完成度が高いチームとして私が思い起こせるクラブを挙げれば、日テレベレーザ、ノジマステラ神奈川相模原、そして2部だがセレッソ大阪レディース、スフィーダ世田谷等。浦和レッズレディースは、まだ移行途中の印象だ。なでしこジャパン浮上のためには国内各クラブの意識改革も必要だろう。

さて、ここからは、私の目で見た6項目で、なでしこジャパンの総括に入る。

1.理詰めだったと思われる高倉監督のメンバー選考

メディアの解説があまりに希薄だったため「よくわからない」「若い選手を起用しすぎる」「所属チームの偏りが大きい」という不満の声が多かった高倉監督の選手選考。

しかし、おそらく全てが理詰めの選考だったのだと思う。今大会のなでしこジャパンは、まず高倉監督が望むポジショナルプレーの素地があるのかどうかで選手選考が行われただろう。

高倉監督は就任2年目くらいから、戦術を大きく転換したように見えた。世界の女子サッカーの流れを意識し、ポジショナルプレーを徐々に取り入れていった。

例えば、長谷川唯選手のポジションはフリーポジションから徐々に固定化されていった(ただし、アルゼンチン女子代表戦ではポジションを崩したように見え、なでしこジャパンは苦戦した)。そうなると、なでしこジャパンの選手選考にも制約が出てくる。高倉監督がやろうとしたサッカーに順応できる選手に選択肢は限られる。

INAC神戸レオネッサのFW、MFのサイドの選手は適応能力の高い中島選手を除くと起用が難しい。やり方が違うからだ。マイナビベガルタ仙台レディースも前のFW、MFの選手は難しい。

例外は人並みはずれたパワーを持つ横山選手だったが、長野パルセイロレディースでプレーするような感じで周囲のサポートを求めてプレーしてしまった(長野パルセイロレディースはストーミング風のサッカーを行なっている)。

逆になでしこリーグ2部でポジショナルプレーをしているセレッソ大阪堺レディースに所属する宝田選手は重用された。

大会直前のスペイン女子代表戦で得点を奪ったときの布陣を思い出してほしい。左SBの鮫島選手が試合終了直前にポジションを中に絞ってCBの前(いわゆる偽SB)に位置し得点の起点となった。これは、高倉監督が前がかりで得点を奪いたいときのオプションを用意していたことを示している。

私は、この得点を見て気が付いたのだが、そのオプションプランを実現できる選手としてCBの市瀬選手(マイナビベガルタ仙台レディース)が、強化試合で不慣れな左SBで起用され、元々は左SBの鮫島選手がCBで起用され続けたと考えられる。鮫島選手は、その後、所属クラブのINAC神戸レオネッサでもCB起用が多くなり中央から攻撃の起点となる攻撃的なDFになった。

しかし、高倉監督によるCB起用はオプションをやり遂げるため。中央での攻撃を組み立てる能力を引き出した上で、高倉監督は鮫島選手を左SBで先発起用した。同様に、日テレベレーザで本来は右SBの清水選手は、なでしこリーグでアンカーやCBを経験して中央でのプレー経験を重ねてから、なでしこジャパンの右SBのポジションを確保した。

なぜ、そのようなオプションが必要だったのか?アメリカ女子代表、フランス女子代表、オランダ女子代表等のポジショナルプレーによる中央からの速攻突破を防ぐためだろう。なでしこジャパンがどうしても1点が欲しい試合展開のとき、後ろの人数を減らして前がかりにならざるを得ない。

しかし、そこで中央突破のカウンターを食らうと逆に失点し試合は終わる。だから、前がかりになりながらも中央の人数が多くハーフスペースを埋めてカウンターに備えられる陣形が必要だったのだ。

2.ベンチの経験豊かな選手はセットで

阪口選手と宇津木選手は怪我により起用されることがなかった。2人は長い共同生活の中で重要な役割を担っていたのだと思う。2007中国大会で宇津木選手は出場したが活躍できなかった。同大会で阪口選手はメンバー入りしたが出場できなかった。グループステージで敗退した大会に出場した選手と出場しなかった選手の2人が必要だったのではないか。

怪我でコンディションの整わない2人を差し引いてもワールドカップの登録メンバー数は五輪の登録選手数よりも多いのだ。かつて宮間選手が佐々木監督に進言する際には、必ず事前に澤選手の意見を聞いていたという。

高倉監督は、チーム内のコミュニケーションやチームバランスを重視していたのではないか。2002日韓大会でトルシエ監督がベテランの中山選手と秋田選手を直前にメンバー入りさせたように。

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