ジャグラーは「ばいきんまん」? 『ウルトラマンオーブ』23話振り返り

半年間にわたってファンに愛されてきた『ウルトラマンオーブ』もいよいよラストスパート! 女優の仲里依紗も「出たいなぁ」と呟く『ウルトラマンオーブ』の魅力を解き明かしていきたい。

主人公クレナイ ガイ(石黒英雄)の宿敵・ジャグラス ジャグラー(青柳尊哉)との激しい戦いを描いた23話「闇の刃」から振り返ってみよう。オープニングタイトルの影絵に響くジャグラーさんのご機嫌な高笑いがイカす。

ジャグラー巨大化! 最後の大バトル!

地球侵略などに興味はなく、ひたすらガイとウルトラマンオーブを付け狙っていたジャグラー。しかし、ジャグラーの計略はオーブに阻まれ続け、何度も敗北を喫してきた。怪獣や魔王獣を操るダークリングと怪獣カードも失ったジャグラーだが、新たに習得した必殺剣「蛇心剣・新月斬波」と憎しみの力でオーブとの戦いに臨む。目の下の隈が、さらにジャグラーの狂気を際立たせている。

かつて、ガイとジャグラーは同じ光の勢力に属しており、切磋琢磨する間柄だった。ジャグラーは自分の力のほうが上だと自惚れていたが、オーブカリバーに選ばれたのはガイの方だった。ガイへの嫉妬により、闇に魅入られてしまうジャグラー。12話で「一度ぐらい俺に勝たせろよ、この野郎ぉぉ!」叫んでいたが、あれは本当に心の叫びだったんだなぁ……。

ちなみに、まだ闇に魅入られる前の“白ジャグラー”の姿が映るが、武侠ものの登場人物みたいなルックスで素敵。12月26日よりAmazonプライムで配信されるスピンオフ『ウルトラマンオーブTHE ORIGIN SAGA』では、このあたりのことが描かれる。

地球の奥底に眠る“闇の力”を得て、巨大化する無幻魔人ジャグラス ジャグラー! それに対してガイが最初にセレクトするのは、ゾフィーとウルトラマンベリアルの力を借りた“光と闇の戦士”サンダーブレスターなのがシビれる。闇の力に対抗するには闇の力!

しかし、サンダーブレスターはジャグラーに歯が立たない。制御された闇の力は、あふれ出る闇の力にかなわないということなのだろうか? ビートル隊の渋川隊員(柳沢慎吾)がスーパーガンリボルバーで援護するが、逆にジャグラーの攻撃を食らってしまった! 渋川さんと一緒にいたナオミ(松浦雅)、ジェッタ(高橋直人)は無事だったが、シン(ねりお弘晃)が倒れたまま! ついにSSPから被害者が……!?

ついにジャグラー初勝利!? しかし実際は……

ガイはオーブオリジンに変身、ジャグラーの蛇心剣とオーブのオーブカリバーが火花を散らす。それにしてもこのシーンのミニチュアセットの作り込みが本当にすごい。ビルとか一体いくつ作ったんだろう?

互角の戦いを繰り広げる両者だが、オーブがSSPの仲間たちの異変に気づいてしまった。彼らを守るため、ジャグラーが放つ新月斬波を体で受け止め続けるオーブ。そうか、オーブオリジンはバリアー技を持っていないのか(スペシウムゼペリオンにはある)。ちょっとオーブカリバーに頼りすぎなんじゃないですかねぇ、オーブさん。

何度もジャグラーの技を受け続け、ついに倒れてしまうオーブオリジン。ナオミの悲痛な叫び声がこだまする。ついにジャグラー初勝利!? ナオミたちに向かって上機嫌で勝ち誇るジャグラー。なんて器が小さい男だ……。しかし、ナオミたちの表情が一変する。そう、ジャグラーの背後には、倒れたはずのオーブオリジンが立っていたのだ! 驚き、狼狽するジャグラーの蛇心剣を素手でキャッチするオーブ!

「誰かを守りたいと思う心が、俺に限界を超えた力を与えてくれる!」

「なんだ、この力は……!」

「お前が捨てた力だァァァ!」

これぞ「あきらめるな! その勇気で! 限界を超えろ!」(「オーブの祈り」)だ。これまでのオーブカリバーに頼った戦いをやめて、肉弾戦を仕掛けるオーブ。やればできるじゃん! マウントポジションでエルボーを叩き込む! 投げ飛ばした後は、オーブカリバーで一撃! ジャグラー大爆発! やっぱりオーブには勝てなかったよ……。

SSPのシンくんはあっさり無傷で復活。負けたジャグラーもビルの屋上で大の字になっていた。この世界の人たちは案外しぶとい。ジャグラーのもとに現れ、銃口を向ける渋川隊員にまだ余裕を見せようとするジャグラーだったが、渋川さんの背後からゼットビートルが登場! 「終わりだよ、宇宙人」と渋くキメてみせた。ジャグラス ジャグラー、お縄頂戴!

誰の心にも闇がある。闇があるから光がある

やられてもやられても音を上げないジャグラーの根性には感服するしかない。以前、ジャグラー役の青柳尊哉がツイッターで「ジャグラーはオーブと戦っていないときは何をしているのか」と聞かれて「修行してるんじゃないの」と答えていたが、23話では本当に新月斬波の特訓をしていた。大魔王獣を復活させたり、ゼッパンドンと合体したり、自分自身が特訓したりと、本当に不屈の精神の持ち主だ。

その根っこにあるのが、ガイへの嫉妬という“負の感情”である。だから、19話では負の感情を抱えたナオミにすかさず接近していたし、その前の16話ではウルトラマンベリアルという闇の力を抱えて苦悩していたガイに「それがお前の本当の姿だ」と適当なことを言って闇落ちさせようとした。負の感情が大好物のジャグラーとは、ダークサイドを煮詰めて人間の形にしたような男なのだ。

何度もこれまでの記事で言及してきたが、「自分が抱えている闇を無理やり消すのではなく、闇と付き合いながら前を向いて生きていく」というのが『ウルトラマンオーブ』の大きなテーマである。

「誰の心にも闇がある。闇があるから光がある。闇を抱えていない人間に世界を照らすことはできない」

とは、19話でのガイのセリフ。ガイ自身も、愛する少女を守れなかったトラウマや、ベリアルの暴力に惹かれてしまった闇の部分があった。ナオミにだって嫉妬という負の感情がある。ちなみに『ウルトラマンオーブ』のプロデューサーを務める鶴田幸伸は「ウルトラスーパーネガティブな人間」(『宇宙船』Vol.154より)なんだそうだ。「クサい感動は要らない」「綺麗事は信用ならない」という彼の想いが『オーブ』全体を貫いている。

ジャグラー=ばいきんまん?

シリーズ全体で“闇”を象徴するのは、やっぱりジャグラーの存在だろう。ジャグラーが闇だとしたら、消し去ることなく、うまく付き合っていくしかないのだろうか? 3月11日公開の『劇場版 ウルトラマンオーブ 絆の力、おかりします!』にもジャグラーが登場することが判明している。

ふと思い出したのが、『アンパンマン』に登場する悪役・ばいきんまんだ。いつもアンパンマンを倒そうと悪事を働くが、決して勝つことができない。それでも、不屈の精神で再び襲いかかってくる。幼児向けの話なんだから、ばいきんまんが死なないのは当たり前でしょ、と思うかもしれないが、それはちょっと違う。

原作者のやなせたかしは生前、「ばいきんまんは人間社会に必要なのです。無菌状態はかえって危ない」「バイキンを死滅させると人間も絶滅する。うまい具合にバランスがとれてるのがいいわけです。だからアンパンマン対ばいきんまんの闘いは、バランスを保ちながら永遠に続いていくことになります」と語っていた。

アンパンマンとばいきんまんの関係は、ガイとジャグラーの関係に近いような気がする。闇の部分、つまり負の感情は消すことができない。ポジティブ一辺倒の人間は、はっきり言って気持ち悪い。だから、我々は内なるジャグラーと戦って、勝ったり負けたりしながら、うまく付き合っていかなければいけないのだ。

(大山くまお)

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