「どうすれば重版するのか?」米光一成×大山くまお

本稿は2013年7月27日(土)、下北沢B&Bで行われたトークイベント「どうすれば重版するのか?」をテキスト化したものです。語り手はゲームクリエイターで著書も多数ある米光一成さんと、ライターの大山くまおです。

タイトルは「どうすれば重版するのか?」になっていますが、「なぜ売れている本を重版しないのか?」「なぜ重版しなければいけないのか?」「知っているようで知らない重版のヒミツ」というタイトルでもよかったと思います。つまり「重版」ということについて考えをめぐらす内容です。

重版をめざしている著者、これから本を出してみたい書き手、版元の編集者、営業マンなどはぜひご一読ください。異論、反論、そして重版に向けての建設的な意見などはコメント欄などにお書きいただけると幸いです。あまり大っぴらに語られることのない「重版」についての活発な議論を期待しております。

当初「電書カプセル」にて販売していたものをnoteに移して販売しています。ほんの少し加筆修正しておりますが、基本的には同じものです。iPhoneアプリで効率よく読みたいという方は電書カプセルにアクセスお願いします。

「電書カプセル」
https://itunes.apple.com/jp/app/dian-shukapuseru/id582755258?mt=8

(イントロダクション原稿:大山くまお/本文原稿:与儀明子)

■出演者プロフィール

米光一成(よねみつ・かずなり)

1964年、広島県生まれ。ゲームクリエイター。ライター。立命館大学映像学部教授。電書カプセル監督。おもなゲーム作品に『魔導物語』『ぷよぷよ』『バロック』、麻野一哉・飯田和敏との共著に『ベストセラー本ゲーム化会議』(原書房)、『日本文学ふいんき語り』(双葉社)、『恋愛小説ふいんき語り』(ポプラ社)、編著に『男の鳥肌名言集』(角川書店)、著作に『仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本』(ベストセラーズ)、『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法―“企画の魔眼”を手に入れよう』(日本経済新聞出版社)がある。

大山くまお(おおやま・くまお)

1972年、愛知県生まれ。ライター・編集。著作に『野原ひろしの名言 「クレヨンしんちゃん」に学ぶ幸せの作り方』(双葉社)、『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(ソフトバンク新書)、『平成の名言200 勇気がもらえるあの人の言葉』(宝島SUGOI文庫)、『中日ドラゴンズあるある』『中日ドラゴンズあるある2』(TOブックス)、共著に『バンド臨終図巻』(河出書房新社)、『クレヨンしんちゃん大全』(双葉社)、『アニメーション監督 出崎統の世界』(河出書房新社)、『名古屋あるある』(TOブックス)などがある。

目次
■99%が出版関係者■初の単著が11刷・大山くまお■重版童貞・米光一成■重版の問題をまず共有しよう■お話の前提として■重版とはなにか?■重版の決定プロセス■重版を目指さない人■重版しなくても食う方法■重版しなくても本を次々出す方法■どうして重版しなくてはいけないのか■重版は出版社のもの■重版は総合力■売れても重版しないケース■重版しなくても利益が出るモデル■重版のための方法■増刷請負人■営業の弱さ、強さ■捨てられた子犬みたいな著者■テレビ出演と売れ行き■四者が一同に会したら■枠をはずすという方法論■質疑応答■次の一手■地元がキーワード■売り方の問題■表紙を白人の子供にしよう

(合計約27,000字)

■99%が出版関係者

米光 すごい雨で着けないってツイートしてた人、ついた? あ、無事いた。よかったあ。花火大会を選択せずにこっちに来た人のほうが、先見の明があったっていう。では始めまーす。
大山 よろしくお願いしまーす。
(拍手)
米光 かんぱーい(ビール飲み出す)。ふう。最初に聞いてもいい? 出版関係の方? はいはい。100パーってことでいいですね(場内笑)。
大山 完全に異業種の方はいますか?
米光 あ、1人。なに関係?
──ゲーム屋です。
米光 重版っていう言葉はふだんつかわない?
──つかわないですね。
米光 だよね。じゃ今日は99%出版関係者しか来てないという前提でいきましょう。では、自己紹介から。

■初の単著が11刷・大山くまお

大山 大山くまおと申します。フリーライターをしております。書籍を出したり、雑誌にインタビュー記事やレビューを書く仕事をしております。
米光 編集もライターもやっているから、双方の視点から見られると。
大山 そうですね。
米光 大山さんはね、まず最初に出した本がね。
大山 『名言力』です。ビギナーズラックといいますか。
米光 11刷!
大山 いきなり11刷させていただきました。ソフトバンクの新書ですね。
米光 11刷!
大山 はい。11刷でございます。
米光 11刷!
大山 ありがとうございます。
米光 3回言っちゃいました。その次が。
大山 宝島社さんから『平成の名言200』という本を出しました。これは一刷でした。
米光 二番煎じ狙ったものの……ってこと?
大山 言いにくいことをズバズバいいますね(笑)。
米光 ふふふ、うん。
大山 二番煎じでした。はい(笑)。
米光 次は『中日ドラゴンズあるある』。
大山 今年の一月に出しました。
米光 3刷!
大山 今のところ3刷です。
米光 共著も、『バンド臨終図巻』2刷! 『クレヨンしんちゃん大全』2刷!
大山 はい。
米光 打率高いね!
大山 ありがとうございます。この木っ端のようなフリーライターがね、どうやって出版業界を生き延びていくか。普段考えていることを酒席で米光さんにお話したんです。それがこのイベントのきっかけですね。

■重版童貞・米光一成

米光 そうなんですよ。『男の鳥肌名言集』という本が出たので、飲み会で「どうしたら重版するんすかねー?」って、いろんな人に聞いてたんですね。酔っぱらいの会話なので、まあ何の解決にもならない。

大山 「ぼくらもできればいいですねー」みたいな。

米光 そう。それが、大山さんに聞いたら、「どうして重版したいんですか?」って真顔で訊いてきた。本質的な質問が返ってきた! 驚いてると、大山さんは、重版のメカニズムから始まる考えを理路整然と話し出した。急にセミナーになってるーって、感動しつつ、ぼくも飲んでるから、半分ぽやーんとしながら聞いてて。

大山 酔ってたから理路整然に聞こえたってことはないですか?

米光 そんな、酒ゆえの一夜の過ちみたいにゆっちゃダメー。
大山 はいはい(笑)。
米光 で、話を聞いて、帰って、寝て、起きたら覚えてなかったー。
大山 (笑)。
米光 あの話をもっかい聞きたい! でも忘れたからもう一回やってとは言えない! なので、イベントにして、しらふで聞こうと思ったの。これが『男の鳥肌名言集』発売記念イベントが、なぜ『どうすれば重版するのか』っていうイベントになったのか、の経緯です。
大山 しらふでもう一回聞こうと?(米光の手元のビールに目を落としながら)
米光 ビール頼んじゃいましたが。まあまあまあ。『男の鳥肌名言集』は重版したいので!
大山 はい。
米光 今日は大山さんから重版する方法を聞きだそうと思います。

■重版の問題をまず共有しよう

大山 重版について考えてることはいくつかあります。が、それが鉄板なのか? そんなわけはない。
米光 もちろんね。「これやれば正解!」なんてあるわけがない。あったら入場料12000円取ってるよ。
大山 1500円ではない(笑)。
米光 大山仮説をまず聞いて、そこから考えていく。
大山 まずね、重版についての問題があんまり共有されてない印象があるんですよ。
米光 ほほう。
大山 どうすれば重版するのか、インターネットを見てもね、なかなか出てこない。だからみんなで、問題を一回共有して、アイデアを出し合って、重版のための新しい方法を編み出していければ。
米光 この場でね。なんか、方向性が見えるといいなあ。
大山 と思ってるイベントです。
米光 なので、後半に質疑応答の時間ももうけますが、途中で話に混ざってもらってもかまいませんので。

■お話の前提として

大山 まず、前提をお話しておきたいと思います。出版業界って、取次や再販制度などの独特のルールがあるんですね。それが諸悪の根源みたいな言説もあるんですけど、ここではそこには触れません。いちライターとして、今のシステムの中で何ができるかを考えたほうが早いんじゃないか。
米光 システムを変えるほどの大仰なことではなく、現状、何ができるか。
大山 あるいは、バイパスとでもいいますか、今のシステムをすり抜けていく方法があれば、それもいいと思います。なので、出版業界全体を変えよう、という話ではないとご理解ください。
米光 どんどん行こう。
大山 もう一個前提があって。いいものを作るのは当たり前であるということです。どうにもならない本を重版できるようなマジカルな方法があれば、本当に僕らが知りたい(笑)。
米光 いい本を作り、どう重版するか考えるのが大前提である。うむ。お客さんに女性が少ない理由がもう分かるね。
大山 なんでですか?(笑)
米光 堅いわー。
大山 ああ。ぼくの語り口が堅いと。
米光 や、前提からしっかり押さえていく感じが。いや、でも、堅くいきましょう。必死だなwwというツイートをされる感じでいきましょう。

■重版とはなにか?

大山 雑誌やwebでお仕事をされている方の中には、重版という言葉に馴染みがない方もいらっしゃるかもしれません。
米光 ぼくも、なんとなくわかっているけど、定義を提示しろと言われるとわからない。
大山 重版は増刷という言葉とほぼ同じと考えて頂いていいです。重版とは、「初版と同じ版を使い、同じ判型装丁にて刷り直すこと」です。
米光 うむ。
大山 と、ウィキペディアに書いてありました(場内笑)。同じ版を使うので印刷コストが安いんです。デザイン費も発生しません。著者への印税は発生しますが、他の費用がかからない。版元にとって利益率がとても高いんですね。だから重版して、それが売れると利益が大きい。一方、他の業界でよくあるんですけど、原価率を間違えて設定すると、商品を売れば売るほど赤字になる。
米光 プレステ2とか。
大山 (笑)。
米光 まあゲーム機って最初はそうなんですよ。もうからない値段で出して、たくさん作るから部材がどんどん安くなっていって、コスト的に見合うようになる。本はどうなの?
大山 マンガ雑誌は刷った分全部売れてもトントンぐらいで、基本的にはコミックスで利益を上げる。最近は紙が売れなくなったから、ウェブに変わってますよね。
米光 ウェブで連載して、無料で読ませる。
大山 要するに、最初から原価率が100%ぐらいなんでってことですね。
米光 紙の本って、例えば初版がどのくらいはけるとトントンになるの?
大山 原価率と定価、刷り部数の設定によって変わってきます。
米光 でもまあ、それを勘案して決めるんでしょ?
大山 だいたい6割か7割売れれば黒字になりますかね。ぼくが編集者だったときは、会社の方針として、初刷の原価率を40%に抑えてました。原価率とは、著者への報酬、デザイン費など、関わった方へのギャランティや印刷コストですね。ほかに流通コストなど全部ひっくるめて、定価×部数=売上の40%に抑える。だから6割くらい売れれば黒字になるよっていう設定です。で、重版分は利益率が高いので、それがたくさん売れると会社のもうけになっていく。これが基本的な重版のメカニズムですね。
米光 はい。
大山 著者にはその際、重版印税が発生します。重版印税には、発行印税制度と売上印税制度というのがあります。通常は発行印税制度ですね。
米光 あーよく聞く。
大山 1000部重版したら、売れる、売れないに関わらず、1000部分の印税が貰えるのが重版印税です。
米光 売上印税制度の場合は、売れた数になっちゃうの?
大山 はい。売れた数になりますから、支払いもずいぶん後になります。半年後とかにならないと数が分かりませんので。まあ、だからこそ、ライターは「重版しろー、重版しろー」と祈りを捧げているわけです。不労所得というとあれですけど、実作業が終わったあともいくらか報酬がもらえる。重版はベストセラーへの第一歩でもありますし。

■重版の決定プロセス

米光 重版ってどうやって決定するの? どうしたら「重版しますよ~」って電話がおれにかかってくる?
大山 はいはい。重版決定までの流れですね。皆さんご存知のお話が続いてしまうんですけど。
米光 おれ知らないもーん。
大山 書店での売れ行きがよくって、出版社の手持ちの在庫が減ってきた場合ですね。「お、動いてる」ってことになれば、出版社が重版の検討に入ります。POSデータなどを入手して、売れ部数の調査をするわけですよ。書店の店頭のいい場所に並ぶ発売3日後から一週間の数字が重視されます。ところがですね。この間、神保町の岩波ブックセンターで『出版営業ハンドブック基礎編』というものを改めて買いまして、一から出版界を勉強し直したんですね。
米光 おお!
大山 そしたら、ありました。重版の項目。見出しにですね、「重版の決定は慎重に」って書いてある(場内笑)。
米光 ええええー?
大山 ほんとがっかり!
米光 そこわざわざ見出しで言わなくてもー。
大山 出版社がいちばん「よし、重版するか!」と色めきたつのは、書店からバックオーダーが入ったときなんです。
米光 本がなくなったから、もっかいくれと。
大山 「初回配本の20冊のうち10冊が売れて、残り10冊しかないから、追加で50冊くれ」ってFAXが、出版社の営業にくるんですよ。今でもFAXですよ。で、刷った本は全国の書店に撒いてますから、版元の手元には本がなくなりつつある。そうしたら色めき立つわけですよ。「ほらFAX来た! さあ重版するか! 次よこせって言ってるこの本屋に早く品を渡そう!」。これが、基本的な、重版決定に対する心の動きです(場内笑)。
米光 ふふふ。
大山 それに水を差すのが『出版営業ハンドブック基礎編』ですよ。要するに、市場在庫があるだろ、と。
米光 うっわあ、嫌な言葉が載ってる。「市場在庫があるうちは重版するな」って書いてありますな。
大山 市場在庫はあるに決まってるんですよ! 日本中に15000店の書店があって、そこに本がばら撒かれているわけですから。その本はこの世のどこかにはある。だけど、ある店では売れたから追加の50冊が欲しい。
米光 当然だよね。
大山 重版したあとから売れなくなって、書店から返本されて在庫がだぶつく可能性がある。だから出版社の営業さんにとって、市場在庫をどうやって把握するかが至上命題なんだよ、それを見極めないと重版はすべきじゃないよ、と『出版営業ハンドブック』の著者の方はおっしゃっている(笑)。
米光 重版するかしないか会議とかがあるの?
大山 あります。基本的に営業さんだけで決めますね。逆に編集者が刷ってほしいと言っても、なかなかGOが出ないんです。
米光 そうなのか。
大山 あと、再販制度と言って、本は委託販売なんですね。書店は自由に返品できる。「100冊くれ」と言って、「2冊しか売れなかった」と98冊返すこともできる。だから、どうしても重版に関しては、在庫リスクを出版社が負うことになる。そこに葛藤があるわけです。

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