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平手友梨奈という存在

彼女に出会ったのは、3年前の夏だった。
欅坂46が大型歌番組に出演したときのこと。
『サイレントマジョリティー』のイントロで彼女が顔を上げ、気だるそうにカメラを睨みつけた瞬間、からだじゅうが震えるような衝撃をうけた。

戸惑った。
これまでジャニーズや若手俳優を追いかけていたことはあったが、女性アイドルには全く興味がなかった。
しかも自分よりもだいぶ年下、当時の彼女はまだ中学生だった。

カメラに向かって笑うこともせず、観覧席に愛想を振りまくこともせず、ただ彼女は最前列の中央で睨みつけるように、悲痛な想いを訴えかけるように、こちらを見ていた。

君は君らしく生きていく自由があるんだ
大人たちに支配されるな
初めからそう諦めてしまったら
僕らはなんのために生まれたのか?

苦しそうに顔を歪めながら、ときおり頭を抱え自分の髪を握りしめながら、歌って踊る彼女。
従来のかわいらしいアイドルのイメージとは違い、乱れた髪をかきあげて正すこともしない、むしろその乱れすら彼女を引き立てるための要素でしかない。
わたしは泣いてしまった。
それ以来、彼女の虜になってしまった。

15歳でデビューし、以来ずっとセンターを務めてきた彼女。
「天才」「不動のセンター」「山口百恵の再来」
まだ自分が何者かもわかっていないような年齢の頃からまわりのおとなに好き勝手言われ、とてつもなく大きくて重たいものを背負い、必死の思いでここまでやってきたんだろう。
彼女の危うさ、命を削っているかのようなパフォーマンスは、とてつもなく魅力的だ。

でも、自分の求める最上のパフォーマンスができたときは、そこでアイドルをきっぱり辞めてしまってもかまわない。
一番輝いているところで全部終わらせて、ずっと伝説のアイドルでいてほしい。
そう思うのは身勝手だろうか。

体調不良や怪我が多いとか、愛想が悪いとか、どんな批評がとんでも、彼女がテレビに出ていると見ずにはいられない。
彼女がステージの中心にいるだけで、画面が引き締まる。
彼女の一挙手一投足にみんなが注目する。
観る者を惹きつける。

こんなアイドルには、後にも先にも平手友梨奈以外に出会えない気がする。

あのね。


#平手友梨奈 #欅坂46 #アイドル


追記(2020.01.24)

2020年1月23日の夜9時ごろ、平手友梨奈が欅坂46からの脱退を発表した。
発表からわずか1時間ほどで、生放送のラジオ番組に出演。冒頭で「今はこのことについて話したいと思わないので、いつか機会があれば」と語り、普段通りメールを読んでリスナーと電話をつなぐ。そして、この日の選曲は『黒い羊』。

僕だけがいなくなればいいんだ
そうすれば 止まってた針はまた動き出すんだろう?

曲明け、かすかに聞こえたすすり泣く声。
長い沈黙のあと、絞り出すように「欅坂46の平手友梨奈でした、また来月、明るくお会いしましょう」

なんて強い女の子なんだろう。
いや、必死に強くあろうとしている、等身大の18歳だ。
ただでさえ叩かれやすいアイドルグループの、最前列のど真ん中で、彼女は欅坂46の避雷針となっていた。

「ついにこの日が来てしまったか」という気持ちがある。
先月のNHK紅白歌合戦での『不協和音』は、いままでに見たことないほどの狂気を感じるものだった。
力強く前に突き出した拳、まるで泣き叫ぶように悲痛な「僕は嫌だ」、カメラを鋭く睨みつけたかと思えば、最後は不敵な高笑い…
完全に彼女はゾーンに入っていた。
曲のなかの「僕」になっていた。
間違いなく最高のパフォーマンスだった。
カメラには映らなかったが、パフォーマンス後に倒れ込み、メンバーに抱えられながら舞台をおりたそうだ。
もう限界だったのかもしれない。そんな極限の精神状態のなかで、あのパフォーマンス。
アイドルとして紅白という晴れ舞台を全うすることへの執念、狂気すら感じた。

14歳でアイドルになって以来、彼女は一度も地元に帰ってないらしい。
これからも芸能界に残ってくれたらそれは嬉しいことだが、まだ18歳、すきなことをすきなだけしてほしい。ふつうの高校生の女の子のように、コンビニの前でアイスを食べながら友達と話したり、すきなひとと出かけたりしてほしい。アイドルとしての平手友梨奈は、わたしにとってもう十分すぎるほど大きな力を与えてくれた。

母が山口百恵の話をしてくれたように、わたしもいつか子どもに話すだろう。
「お母さんが若い頃、平手友梨奈っていう伝説のアイドルがいてね…」

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