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それぞれの幸せの形を考える『今夜すきやきだよ』

ごきげんよう、大淀です。

今日は谷口菜津子先生の「今夜すきやきだよ」の話をしていこうと思います。
1月からテレビ東京のドラマ24でドラマが放送されているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
私がこの作品に出合ったのはちょうど一年くらい前。
己のセクシャリティや人生について考えこんでいたときに、この本に出合いました。

まず簡単にあらすじを。

主人公の一人である、フリーの内装デザイナーとして働くあいこ。
彼女は恋愛体質で結婚願望が強く、今の彼氏と結婚したいと考えている。
しかし家事はすこぶる苦手で、「家庭的な理想の奥さん」を求める彼とは、それが原因で喧嘩になることも。
もう一人の主人公である絵本作家のともこは、家事は好きで得意だけれど、世の中の結婚や恋愛があまりピンとこない。
得意なことや苦手なことが正反対な二人は、友人の結婚式で再会したのをきっかけに、一緒に住もうということになる。
「普通」って何なのかを考える、アラサー女性二人暮らしのお話。


本当にたまたまこのあらすじを知って、何か答えにつながるかもしれないと思って手に取ったのが「今夜すきやきだよ」でした。

私が共感したのは勿論ともこ。
ともこは恋愛や結婚がぴんと来ておらず、そういったものに興味があることが「普通」として扱われる世間に、居心地の悪さを感じています。
そんな彼女は学生時代、自分でお弁当を作っていたとき「いいお嫁さん・お母さんになれるよ」と言われてモヤモヤした経験があります。
私も料理は比較的好きなので、同じような経験があります。
その時は(私が食べたいから作るのに…)と内心思いつつ、「ふるまう機会ないですからね~」と返していました。
彼女の「私お嫁さんじゃなくて 誰かの心の栄養になれるような絵本や、おいしいごはんを作れる魔法使いみたいな人になりたい」という言葉に深く共感したのを覚えています。

あいこが彼氏の愚痴を言うとき、ともこが返した「理解がないなら別れちゃえば」というのも、私は身に覚えがありました。
友達の愚痴を聞きながら、友達を傷つけるような男となんで無理して付き合ってるんだろう?を思ってきました。
まあしかし、人間関係自体が相手の好きなところと嫌いなところの総合評価で付き合っていく・距離をとるを決めるものなので、恋愛もそうなんだろうな…と理解はできます。
しかしともこが言うように、原因の解決をしようとせず、好きの気持ちだけで仲直りしている。好きだから我慢する。
結構よく聞く話だなと思います。

もちろんあいこの気持ちも、分かる部分は多いです。
例えば、彼女の苗字を変えたくない気持ち。
私は特に名前に愛着があると意識していませんでしたが、名前だっれ生まれてから今までずっと自分のアイデンティティです。
もし私が何某かで変えなきゃならない状況だとすると、なんとなくさみしくなるだろうなと想像できます。
恋愛・結婚に興味がなくても、彼女の悩みもまた「普通とは?」と問いかけてくる内容なのです。

おそらく作中には「アセクシャル」という言葉は出てこなかったように思いますが、ドラマでは明確に説明されています。
まだ放送中ではありますが、ドラマも原作を非常にリスペクトしたうえで丁寧な加筆がされているという印象です。
おそらくドラマから入っても十分面白い作品だと思っています。
役者さん皆さん素敵です。
メインの二人が素晴らしいことは勿論なのですが、特に私は編集者を演じている紺野ぶるまさんがよかったです。
原作ではそこまで編集者さんに何かを思うことはなかったのですが(むしろあまり好きではなかった)、ともこの言葉に涙するシーンを見て、ああ本当にともこの作品を好きで作品作りに携わってくれてるんだなと胸を打たれました。
役者さんたちをはじめ、スタッフの方々が原作の魅力やテーマを深く考えながら向き合ってくださっているドラマだと思います。
シンタもすごくいいです。
もし映像のほうが入りやすければ、配信サイトなどで追いついてみるのもよいと思います。


ラストの二人、いや3人の出した結論は、見る人によってはおとぎ話やご都合主義に見えるかもしれない。
しかし3人がこれが一番いいと思っているなら、それは間違いなく幸せの形なのではないでしょうか。

谷口先生の作品は「教室の片隅で青春がはじまる」「うちらきっとズッ友」、そして本作と対になる「今夜すきやきじゃないけど」と読んできました。
そのどれもが共通して、読後胸が温かくなります。
先生がそれぞれの作品に明確なテーマを持っていらっしゃっていて、それを通して前向きで温かいメッセージが伝わってくるのです。
すきやきだよのあとがきには、以下の文章があります。

描いた作品は長く大切に読まれたいと思うことが多いけど 
『今夜すきやきだよ』はいつか 
「こんな時代もあったんだね」といわれるようになってほしいです。
原作あとがきより引用


この一文が私は大好きで、一番涙が込み上げたかもしれません。
私もそういう世界になっていてほしい。
早くなってほしい。そう思っています。

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