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色彩が司る彼女の世界

オーストラリア、シドニーで障がいを持つ方々のサポート活動をしています。

私が通う二軒のグループホームは、「男女混合」のグループホームと「男性のみが住む」グループホーム。

私のクライアント達はみんな「精神障害」を持っている40代から70代の男女です。

そしてこのネコが、私が通う男性4人のグループホームに住む紅一点のアビーです。


今日は、「男女混合グループホーム」に住む、ある女性クライアントの話しを少し.....。


現在40代半ばの彼女は、14歳の時、家族でオーストラリアに移民してきたそうです。


それからほどなくして彼女の家族は、彼女ひとりをシドニーに残して国に帰り、それ以来彼女はシドニーでたくさんの人達のサポートを受けて生きてきました。

香港生まれの彼女。

脳性麻痺を持って生まれてきました。


足が不自由で、2本の杖を使って足を引きずりながらゆっくりと歩きます。

未熟児で生まれ、脳に充分な酸素がいかなかったそうで、知的障害も持っています。

そして、10代の時に発症した、重度の統合失調症の持ち主でもあります。


障がいを抱えて、異国でひとりで生き続けている彼女は、自身の歴史を人に語って聞かせるのが大好き。


初対面の人には必ず、

ハ〜イ!
マイネーム イズ ソフィー!(仮名)
アイ アム フロム ホンコン!
アイ カム トゥー オーストラリア ウェン アイ ワズ フォーティーン イヤーズ オールド!

から始まり、そして彼女の歴史を語り始めます。

高い声でゆっくりと、愛らしい微笑みを浮かべて、中国訛りの英語を使っておしゃべりをする彼女。

そんな彼女とおしゃべりをする時、私はいつも、彼女の宇宙に吸い込まれていくような感覚になります。

たとえ彼女が毎回同じ話を語っても、私は彼女の横に座ってずっと聞いていたい気分になるんです。

時々、私の顔を覗きこみながら話す彼女の視線。

私の目を見ているようで、でも実は少しだけズレています。

それはあたかも、私の後ろにもうひとりの誰かの存在を認識しているような、

私と彼女、そしてもうひとりの誰かと3人でいるような、そんな眼差し。

そういえば以前、別の女性クライアントと2人だけでリビングのソファーに座っていた時のこと。


突然彼女が、

「ねぇ、あそこに座ってる男性、あなた、見える?」

って、ダイニングテーブルの方を指差しました。

私は、

「ううん、私には見えないよ。男性が座ってるの?」

と聞くと、

「あぁ、そうなのね。うん、男性が座ってるのよ」と。

彼女も重度の統合失調症を持っていて、ハルシネーションが一日に頻繁に起こる人。

そんな彼女ですが、時々、突然何の前触れもなく、

「アイ ラブ ユー‼︎‼︎ 」
って私をハグしてくれる可愛いクライアント。

現在、このグループホームには通っていませんが、彼女のことを思い出す度に、ほんのり暖かい気持ちになります。

後で聞いた話ですが、以前このグループホーム内で男性クライアントが亡くなったそうです。

さて、香港生まれのソフィー(仮名)に話を戻します。

彼女は、ひとりごとがとても多いんです。

ひとりごとを言っている時、彼女はお国言葉の広東語を使っています。

宙を見ながら、時々顔を左右に向けながら、あたかも「誰か」と会話をしているような彼女。


時々、楽しそうな笑い声をこだませながら、その「誰か」とおしゃべりしている彼女。


いったいぜんたい、どんな人物が彼女の話し相手になっているんだろう.....

彼女の世界をのぞいてみたくなりますが、そこは彼女以外誰も足を踏み入れることができない「彼女だけの世界」。


彼女の世界は、無数の「感情」という色彩で複雑に彩られています。


そんな不思議な魅力を携えた彼女が、別の色彩で自身の世界を彩り始める時、


それはまるで、澄み渡る青空がみるみる灰色の雲に支配されていく様を、ただ黙って見上げている私自身に出会う瞬間。


彼女の別の色彩の世界は、次回に続きます。