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ねえ、私のこと好き?


オーストラリア、シドニーで、Mental Health Support Worker として働いております。

私のクライアントはグループホームに住む、精神障害を持つ30代から50代の男女。

3軒のグループホームに通い、合計12人のクライアントの自立支援をしています。



その中のひとり、30年前、16歳の時に両親と妹、弟と共にオーストラリアに移住してきた彼女。
彼女の家族はそれからほどなくして、彼女ひとりをオーストラリアに残して香港へ帰っていきました。


統合失調症、知的障害、脳性麻痺を併せ持ち、2本の杖を使いゆっくりと足を引きずりながら歩きます。

お喋り好きで人懐こい性格で、ゆっくりとしたペースで自分の歩んできた人生を繰り返し人に語って聞かせるのが大好きな彼女。

そんな彼女も一日に数回は、彼女の家族に対する怒りが吹き上がってくる瞬間があります。どうも彼女の心の底には、「家族に捨てられた」という思いがあるようです。

そんな時は、お国言葉の広東語でありったけの力を使い、顔を赤くしながら怒鳴り散らします。一旦火がついた彼女の怒りを鎮めるのは、時に簡単でもあり、時には長時間に及びます。


そんな彼女の一日のroutine も終わりに近づいていたある夜。

彼女の元カレの話や彼女が今まで就いた仕事の話など、たくさんのことを語り合い笑いあった私達。

そして、彼女はいつものように顔を宙に向けて自分の世界に入り込み、私には見えない誰かと広東語で語り合い始めました。

私はそんな彼女の隣りで、自分のスマホでその日のシフトの報告書を作成し始めました。


するとしばらくして、急にひとり言をやめた彼女


私の目をちょっと不安気に覗き込んで、

ねぇ......私のこと好き?


私はちょっと面くらいながらも平静を装って、

当たり前じゃん!好きだよ!



彼女のことを好きかどうかよりも、

私のこと好き?

って言う彼女の言葉が、何故だか私の心に刺さった気がした。

まるで、肩をすくめている子供のような様で私の目を覗き込んでいる彼女の眼差しが、何故だか私の心に刺さった気がした。


この彼女の問いかけは、本当は私に向けられたものではなかったのかもしれない。


本当は、海の向こうに住んでいる彼女の家族に向けられたものだったのかもしれない。


そんな憶測を巡らせながら、私は翼を羽ばたかせながら海を越えて行く彼女の姿に思いを馳せてみるんだ。