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《碧く散る》演出家・辻井奈緒子インタビュー

いよいよ今週末に迫った新選組ミュージカル《碧く散る》。
6年ぶりの再演に向けての意気込みと、作品の持つテーマについて、劇団の主宰であり、演出・脚本その他すべてを手掛ける《辻井奈緒子》氏にインタビューを行いました。(編集・構成:川下愛実)

私たちの根底にある、武士道という精神

― 前回の《新選組HERO's》とはまた毛色の違う《碧く散る》ですが、この作品はどういった経緯で、またどういったテーマを持って生まれた物語でしょうか?

『新選組はなぜこんなに人気があるのか?』
それは彼らが、身分や出身を問わずにただ《志》のみで結ばれていた集団であったから。
激動の幕末という時代の中で、誠の旗のもと、自分たちの存在意義を追い求め、力を合わせて必死で生きた彼らの姿は、『自分の《誠》とは何か?』そんなことを考えることもなくただ何気なく生きている人にとって、たまらなく魅力的に見えるのです。《志》を同じくした仲間の《絆》。それを描いたのが前回7月に公演を行った《新選組HERO's》でした。

前回公演「新選組HERO's」より

その一方で、今回の公演《碧く散る》のテーマは《武士道》にあります。

― 《武士道》。

特定の信仰を持たない人間が多いこの国において、自分を律するものとは何か?
それは《武士道》という精神なんじゃないかと思うのです。
この国の長い歴史の中でずっと受け継がれている精神が、常に自分を律し、正しくあろうとする心を作っているのでは?と。

「善悪の理屈がわかるだけでなく、善だとわかればすぐ実行に移す。これを武士道という」

作中にも登場するこの言葉は幕末の剣客、山岡鉄舟の言葉です。
良いか悪いか?その判断がつくだけではなく、いいと思うことを、すぐに実行する。これはとても簡単なことのようで、できない。あっちが正しいと思うけど、そっちに進むと…自分の立場や世間体が、とか、お金が…とか、いろんなことを考えて、行動に起こせない。
信念を貫く!ということに、美学を持っていたはずの私たち。でもこの現代において、何かにつけて、まずメリットとデメリットを秤にかけてしまうことが多いのでは?何かを貫こうと思っても、それのマイナス面に気を取られ、ひるんで、損得勘定をし、結果見て見ぬ振りをする。例え『むこうが正しい』ということが、頭ではわかっていても…
そんな日本人が増えているのでは?と…

― 最近の報道をみても、思い当たる出来事が多々ありますね。

そうですね。でももっと日常的なことにおいても… 例えば、道でポイ捨てはしない、とか。ごみは持って帰ってキチンと捨てる。だってそれがいいことだから。誰に見張られていた訳でもなく、注意された訳でもなく、正しいと思うからそれをする。それがごく当たり前なこと…だったはずなのに、そうでなくなっている日本人、増えていませんか?
本当にそれでいいのか??というような…

― 私たちの美学や道徳を、改めて問うような?

はい。改めてもう一度、私たちの姿勢を正すような。
日本人のDNAとも呼べる、そんなものを呼び覚ます作品を作りたかった。
そして生まれたのが《碧く散る》です。

初演「碧く散る」より


嘘はバレる。役者は、舞台の上で晒し者になるもの。

― そんなテーマの《碧く散る》を実際に演じるOZmateの劇団員の方々。辻井さんの考えるOZmateの魅力とはなんですか?

日本で《ミュージカル》といえば、《娯楽》の代表格であると捉えられがちですが、私たちはそもそも《ミュージカル》は《芸術》、ARTだと捉えています。そして質の良い芸術作品を作るには、技術と内面、その両方を鍛える必要がある。
自分が楽しいから舞台をやってるとかいう役者も世の中にはいますが、OZmateである彼女たちはそんな動機で舞台に取り組んではいないでしょう。自分を晒し者にする舞台。嘘はバレるんです。だから嘘のない表現をするために、日夜身体と心のつながりを考え、そのための的確なトレーニングを行う。そうした上で、役者は、板の上に立たなければならない。職人技を見せなければならない。役者とはそういうものだという認識を、OZmateは共通して持っている。
いいものと、そうでないもの。それを見極める目を全員が持っているので、稽古場でお互いの嘘を見つけ、暴き、お互いがお互いを育て合っているのだと思います。切磋琢磨して、階段をきっちり上がっている感覚や共通認識がはっきりある。だから、強い絆で結ばれていく。

そしてその関係性もまた、舞台の上で晒け出されます。
客演ではできない、皆が志を同じくした私たちのカンパニーにしかできない舞台。それこそがOZmateの武器であり、大きな魅力でもあるのです。

― なんだか新選組と近いものを感じますね。

ええ、だからこそ彼女たちは今回の作品に“ハマる”んです。


ニューヨーク公演を経て

― 初演から7年。ニューヨーク公演も経たのちの再演になりますが、初演と今回とにおいて辻井さんの中で意識的に変化したことはありますか?

NY公演は、舞台を作る観念が変わる公演でした。
もちろんわかっていてそれを目指していましたが、それが正しいことだとはっきりとわかり、これまでに比べてより明確に進むべき方向がわかり、さらに上を目指したいと感じました。

ですから横浜の再演から6年ぶりに再びこの作品を上演するにあたっても、そもそも理想とする作品の完成形が前とは違っているので、まず演出が大きく変わります。それが当たり前という感じです。初演を知っている人でも、新作のように感じるのでは?それくらい大きく変化しています。

NY公演以降は次の目標が自分の中で明確になっているので、自分自身がその課題に向かってチャレンジしていく公演を行っています。階段を一段一段、確実に上がっていきながら…世界に通用する《ミュージカル》、私たちがどんなものを目指しているのか?
《碧く散る》は徹底して、それが伝わる舞台にしたいと思います。

一体何が、どんな風に変化したのか?
ぜひ劇場に足をお運びいただき、その目でお確かめください。


【ストーリー】
作家山野梓は、出版社から新選組を題材にした作品を依頼される。新選組を毛嫌いしていた梓だが、勝ち組になるためには柔軟に生きて行くことが必要だという持論のもと、渋々引き受ける。出版社から送り込まれたアシスタントの川田ひかるの案を取り入れ、新選組の誠の精神に反発する架空の人物、山内安須を登場人物に加え、梓は書き始める。
近藤・土方たちは浪士組に加わり京に行くことを決意。土方の家の使用人、安須も共に行くことになる。京に着いた近藤・土方たちは浪士組と袂を分かち、水戸藩出身の芹沢鴨らと共に壬生浪士組を結成。だが、芹沢の悪行は止まる所を知らず、近藤・土方たちは芹沢暗殺を計画する。一方安須は芹沢側のスパイとなり、近藤たちの動向を探る…。
梓は、新選組隊士の真の姿を描きながら、新選組に反発する自分の思いを安須に重ね、新しい物語を創り上げていく。
【キャスト】
土方歳三 .......... 松本飛路
山内安須 .......... 歌帆
近藤勇 .......... YAN
沖田総司 .......... はるか / 葵ひなた(Wキャスト)
山南敬助 .......... 樋口葉子
井上源三郎 .......... 木内叶恵
尾関雅次郎 .......... mifuka
市村鉄之助 .......... 保井美南
相馬主計 .......... 弥咲
山野梓 .......... 栄ちひろ
川田ひかる .......... 美秀
【スタッフ】
作・演出: 辻井 奈緒子
照明: 竹内 哲郎(株式会社ハートス)
音響: 長澤 康夫
舞台美術: 藤井 人史、藤井 由美子
舞台監督: 中島 匡志
広報美術: 木内 めぐみ
【詳細】
-日時-
2月24日(土) 19:00
2月25日(日) 13:00 / 16:00

-会場-
大阪梅田 HEP HALL
-料金-
《一般》前売 3,200円 / 当日 3,500円
《学生》前売 2,000円 / 当日 2,500円

【公演特設サイト】
《碧く散る》公式サイト

【各種プレイガイド】
イープラス チケットぴあ カンフェティ 演劇パス PEATIX

◆辻井 奈緒子 / 作・演出(主宰)
1987年〜1990年、いずみたく主宰 ミュージカル劇団フォーリーズ(東京六本木)に在籍し数々の舞台に出演。1991年に地元宝塚市に戻り、ミュージカル・ダンススクール スタジオOZを設立。(現在生徒数約100名)1994年に、スクールの有志と共にミュージカルカンパニーOZmateを旗揚げ。脚本・演出・作詞・作曲・振付を全て自ら手掛ける。2004年〜09年まで宝塚市人権教育課からの依頼でこども向けミュージカルを毎年上演するなど、小・中学校や幼稚園、児童館などへの出張公演など地元に根付いた活動を行う傍ら、『RYOMA』『碧く散る』『大江山鬼伝説』など数多くの和製ミュージカルを制作、上演。毎年ブロードウェイへ渡り本場を学んで創る舞台は、月刊ミュージカル元編集長 瀬川昌久氏やNYメディアより絶賛される。〈掲載メディア〉 NYよみタイム / N1PAGE
◆ミュージカルカンパニーOZmate
1994年に母体スタジオOZの有志で結成した女性のみのミュージカル劇団。本場ブロードウェイの技術を追求し、日本を代表するミュージカル劇団になることを目標としている。
2016年夏、800以上ある応募団体の中から審査を通過し、ニューヨーク国際演劇祭『The New York International Fringe Festival』に参加。オリジナルミュージカル『The Legend of ONI(大江山鬼伝説)』で初となる海外公演を興行。作品の持つ強いメッセージ性や演劇性、芸術表現が認められ、現地レビューメディア『DC Metro Theater arts』の2016年ベストミュージカルのひとつに選定される。
道徳やヒューマニズム、幕末史から戦中戦後、日本人としての在り方など、作品の題材は多岐にわたるが、一貫しているのは〈表面的〉ではない、〈心〉で演じるミュージカルであるということ。より身近で、日常社会に寄り添う『日本版オフブロードウェイミュージカル』を、四半世紀にわたり発信し続けている。

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