江古田リヴァー・サイド55

「操!! 坏蛋贱婢!! 操你妈!!」

 ヨージを組み伏せていたチャイナマンが跳ね起き、尻ポケットのシチリアンスチレットを抜きながら仁美に迫る!
 とっさに庇おうとするオレの横を疾風が駆ける。スピーディーな打撃が数発、正中線にきっちり決まる。ハードヒットを喰らったチャイナマンは、信じられないものを見るような顔で、相手を見る。オレも、今見ているものが信じられなかった。

「高野ッッ!!」

 その姿を捉えた清隆氏が、苦々しくその名を呟く。
 くるりと振り返ったその姿は、まさしく鷺沢家の執事、高野セバスチャンその人だった。
 普段の黒服姿を脱ぎ捨て、黒い上下の道着に身を包んだ高野氏は、何故か白髪三つ編みのズラを被っている。
 ……ツッコミ待ちか? ツッコミ待ちなのか?

「4時間ぶりで御座います、清隆ぼっちゃま」

「貴様!何をしている!! オヤジの頃からの鷺沢家の恩を仇で返すか!!」

「私は先刻、鷺沢家執事の職を解かれた身。最早、鷺沢家とはなんの関わりもないというのであれば、私が何をしようと、貴方様に私の為すことを止められる筋合いは御座いません」

 ギリ……という歯軋りの音が聞こえそうな形相で、清隆氏は高野氏を睨む。高野氏は更に続ける。

「鷺沢家への恩を仇で返すのか、と仰いましたか? 清隆ぼっちゃま、勘違いにも程が御座います。この身は、先代の旦那様である鷺沢栄達様に、今も変わらずお仕えしております。これは、貴方様がお考えになっているような雇用関係とは全く違う、もっと尊いものなのです。書面での解雇など、私には何の意味もない。  そして……」

    成長した我が子を見るような、慈愛と誇りに満ちた瞳をヨージに向け、高野氏は続ける。

「我が主、鷺沢栄達様の御心を、その魂を、哲学を、真に理解し、実践されている方こそ、洋司ぼっちゃまです。鷺沢の真の後継者を御守りすることは、私の天命です。洋司ぼっちゃまの行末を邪魔する者があれば、私は全力をもってこれを排します。……たとえそれが清隆様、貴方様であったとしても、です」

#江古田 #小説

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