江古田リヴァー・サイド54
鷺沢清隆の知る鷺沢洋司。それがどういうものであるかは、なんとなく想像がつく。
決して綺麗事では済まない世界に居たであろうヨージだが、その境遇とは裏腹に、恐ろしく情に厚い浪花節な男だ。ヨージとの付き合いは決して長いとは言えないが、この恐ろしく優しい男が、こういう局面で取り得る行動は一つ……
「……確約が欲しい」
「ヨージっっ!!」
組み敷かれたまま、文字通り絞り出すようにヨージが吐き出した言葉に、オレは思わず声をあげる。清隆氏は表情一つ変えず、バケツの水でも見るように実の息子を見下ろし
「私とてビジネスの世界に身を置く者だ。契約は履行する」
「わかっ…...」
終わる。
これで、何もかも。
ヨージと玲さんの想いも、尹さんのタクラミも、オレ達の多忙な日々も…...
『いーやーーー! はーなーしーーー…...ていっ!!』
緊迫と諦観で冷えきった空気に、間延びした女の声が闖入する。
……やいなや、オレ達の後ろで睨みをきかせていたチャイナマンがアスファルトに沈む。
すかさず大柄な影が馬乗りになり、自由を奪う。
当身からの体落としを実に綺麗に決めたヒーロー……いや、ヒロインは、最高の笑顔でニカッと笑い
「おまたせっ♪」
と言った。
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