江古田リヴァー・サイド51

    スライドドアが開く。助手席に座っていた男に促され、オレたち4人は車を降りる。
 海沿いのターミナルには、無数のコンテナが置かれている。様々な色のコンテナの迷路を、前から先導され、後ろから小突かれながら進んでいくと、潮風に混じって甘く深い香りが漂ってきた。
 三方をコンテナに囲まれたどん詰まりに、その男はいた。
 彫りの深い、濃い顔立ちに無精髭。夜だというのに濃い色のレイバンのアヴィエイターをかけ、ジーンズに白シャツを着、ボタンを3つ程外して見事な胸毛を露出した『ちょいワル』を斜め上に拗らせた風味の男は、裏返したビールケースに座ってシーシャを燻らせていた。
 中東風の顔立ちの男が、ボコボコと音を立てながら実にうまそうに水煙草をふかすその姿は、実にサマになっていた。
 サマになっていた……が…...やはり客観的に言って、それは実にストレンジな光景だった。男がぷーっと息を吹き込むと、ボディに溜まった煙が排出された。マブサムを炭受け皿に置くと、男は立ち上がり、こちらに歩いてきた。

「親父…...」

 ぎり、と歯軋りの音が聞こえそうな程に歯を食い縛り、敵愾心を剥き出しにした目で男を睨みながら、ヨージが呟く。
 『やはり』と言うべきか、『驚いた事に』と言うべきか、目の前の男こそ、ヨージの父親、鷺沢清隆氏だった。
 ……しかしなんだ、ヨージといい清隆氏といい、オレの中の『財閥の後継者』のイメージを悉く崩す容姿だよなぁ。

「洋司、久しいな」

 よく通るバリトンは、実に威圧的な響きを内包していた。場を支配する圧力と、有無を言わさぬ重圧感。清隆氏が発したただ一言だけで、ヨージを除くオレたち3人は、完全にその空気に呑まれてしまっていた。

「まったくだ。久しぶりだな、親父。会いたくなかったぜ」

 怒気を超え、殺気すら纏わせた声で、ヨージが答える。
 清隆氏は、今にも殴りかからんばかりのヨージを、涼しい顔で一瞥し、意にも介さぬとでも言う風に語り始める。

「さて、ここに来てもらった理由についてだが……説明は必要か?」

#小説 #江古田

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