江古田リヴァー・サイド 63

「仁美、どうした?」
「んー、ちょっとね……」
「?」
「話せる時がきたら、コーイチにはちゃんと話すから。で? どうするの? 正攻法じゃダメっぽいって理屈はわかったけど、それだけ言うなら対案、あるのよね?」

 仁美の言葉に、尹さんと呂大人は顔を見合わせ、ニヤニヤと笑う。
 そんな二人を一琳さんは、「ああ、またか」という目で見ている。一琳さん曰く「マゼルナ危険」な二人……何を企んでいるのか……

「呂大人……いや、ご老公(ニヤニヤ)」
「なんだい? 尹……もとい、格さんwww」
「久しぶりに、世直し……ですねwwwwww」
「う〜ん……これは致し方ありませんなぁwwwwww」

 見た目明らかに越後屋と悪代官の二人が、人気長寿時代劇のキャラ名で互いを呼び始める。

「鷺沢さん……いや、僕もそろそろ、『ヨージ』って呼ぼうかな」
「全然かまわないよ。むしろ、そうしてほしい」
「んじゃ、ヨージ。鷺沢の息がかかってるメディア系企業って、何社くらいある?」
「基本的にはヨンケイグループだね。本体の読経新聞にとどまらず、TV局のユニテレビ、ラジオのニポポン放送、出版の桑夫社……このへんは各社共、親父がかなり出資してるから影響力は強いだろうね。あとはマスコミ各社共、満遍なく代理店経由で広告案件を融通してる程度かな」
「なるほどねー。じゃ、ヨンケイグループはともかく、それ以外のマスコミさんについては、鷺沢グループはあくまでお得意さんの一つでしかないワケか」
「そうなるね。で、中本さん……いや、俺も『尹さん』と呼ばせて貰おうかな。何を考えてる?」
「んっふっふ〜。ホントは大体、見当ついてるんでしょ?」
「まぁね。趣味が良いとは言えない作戦だとは思うが」
「綺麗事では世界は回んないよー。それに……ヨージが『ただの自分』とやらになりたいなら、どういう結末になるかはともかく、鷺沢家との関係をアップデートする必要はあるんじゃないかな?」

 地頭の良い人達三人の会話に全くついていけなかったオレ達ボンクラーズ。代表としてオレが尹さんに問う。

「はい! 尹センセー!」
「なんだい? コーイチくん」
「全然話が見えねぇんですが……」
「あっはっは! だよねぇ〜。じゃ、説明しようかー」


 ―――聞くんじゃなかった。

 全ての説明を聞き終わった直後、オレは……いや、オレ達は、激しく後悔した。
 始末が悪いのは、感情的には「どうなんそれ!?」と思いつつも、方法としては実現可能性も高く、インパクトも大きいことは認めざるをえない方法だったということだ。

「じゃ、早速今から始めようかのぅ〜♪」
「じゃあみんな、また明日〜♪ 呂大人と僕とで諸々仕込みを入れとくから、今夜はゆっくり休んでね! 一琳、協力ありがとう。愛してるよ〜!」

 呂大人と尹さんが、ノリノリで店を出て行く。

 店の扉がバタンと閉まると、一琳さんの目に溜まっていた涙が零れ落ちた。

サポート頂けましたら、泣いて喜んで、あなたの住まう方角へ、1日3回の礼拝を行います!