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プレゼント

まだまだフジファブリック城ホライブの話をするけど、セットリストにも本当にうならされたライブだった。今こうしてセットリストを眺めるだけで、蘇ってくるものと改めて伝わってくるものがある。その自信のほどは終演直後にサブスク各社でプレイリストを公開したことからもうかがえるが、一曲一曲に込められたメッセージが実に考え抜かれている。

夕方5時の開演にあわせて「若者のすべて」からスタートして「はじまりのうた」、友人と共作し思い入れの強い「Green Bird」、「SUPER!!」「星降る夜になったら」「オーバーライト」と飛ばし、MCとともに志村に捧げるように「バウムクーヘン」「赤黄色の金木犀」「ECHO」を鳴り響かせる。アコースティックコーナーは「ブルー」(「ハートスランプ二人ぼっち」)「透明」という清澄な二曲(「探偵ナイトスクープ」を一回も観たことがないのであれに関してはリアクションできなかった、山総すまねえ)。「LIFE」「徒然モノクローム」は悲しみを抱えながら前に進む人懐っこくしたたかな明るさを感じさせる。そして城ホールを一気に沸点に引き上げる「Feverman」「東京」。「東京」は15周年の思いをメロディを飛び出して過剰な言葉=ラップでほとばしらせる。闇を切り裂くような眩い光条を放つ「STAR」。東京と故郷を繋ぐ「手紙」。何度でも初心に戻って続けていくという宣言をして「桜の季節」。アンコールでは、このライブへ足を運んだオーディエンスへの返礼として新曲「プレゼント」。フジファブリックの未来=来年のツアー(と金澤生誕祭)を発表した後の「会いに」。そして「今日この全員を幸せにしますから」というMCの成就を示す「破顔」。まったく容赦がない。

なかでもやっぱり「プレゼント」は度肝を抜かれた。ふらっと一人でアンコールの舞台上に現れ、訥々と話しはじめる。来てくれたオーディエンスに何かお礼がしたい。それならやはり曲だ。入場前に配られたフライヤーの裏に刷られた謎の数字とQRコード。489715205。2004年4月14日から2019年10月20日までの秒数であることが明かされる。その一秒一秒の時間、バンドはオーディエンスとともにあった。そしてこれからの一秒一秒もそうなるだろう。まずそこに着眼点を置くところがなんというか、愛が深く、大きすぎて怖い。

メトロノームの音ともに弾き語られる新曲、そこに込められたものを受け止めきれずに、半ば放心状態になっていた。ただ勝手にテコテコライブに出かけただけなのに、すべてすっ飛ばして(おそらくこの世に生まれ落ちた瞬間からの)こちらの全存在を――わざわざそのためだけに新曲を用意して――祝福してこられてしまったのだ。ワ〇マ聴いてるようなウェイじゃねえんだぞ! 陰キャ、瀕死の重傷である。ものすごい質量の正のエネルギーの魔法だ。もう一度言うが、山内総一郎の愛があまりに深く大きすぎて立っているのがやっとである。

この曲はどこか子守唄のような手触りがある。老若男女みな誰かの子どもであり、そこにあたたかなまなざしが注がれている。現在に立ちながら、過去と未来を貫くベクトルを持っている。なんなんだ、これは。一日のライブのささやかな来場者特典におさまるようなものではない。だが文字通りのプレゼントなので、QRコードからこのライブの帰途であっても、夜道を照らす明かりのように聴けてしまう。どこまで寄り添ってくるのか。

べつに自分の念願の凱旋ライブなんだから自分が最高に楽しめれば成功と言っていいと思うが、本当に全員とそこへ行こうとしたんだな。当たり前のことのようだが、意外と至難の業ではないか。そしてそれはおおむね成功しているんじゃないか。

みたいなことを漫然と考えている。


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