準決勝ファイターと運営によるジャッジ採点

 準決勝ファイターによる採点は、二名が勝ち点と採点で並んだため、運営の編集Z、編集オメガ、編集リドルが二名のどちらかに投票するという方法で、勝敗を決めました。ファイターと運営三名の評・採点は以下になります。

——————————————————————

北野勇作

笠井康平         5
樋口恭介         5 ☆
元文芸誌編集長 ブルー     5

 こんな作品評がもっとあれば、世の中はすこし変わるかも、と思わせてくれる評ばかりでした。
 ありがとうございます。優劣はつけられません。
 あえて一人選ぶとすれば、自分と自分の小説との関係に関していくつかのことを気づかさせてくれた樋口氏を。

——————————————————————

金子玲介

5元文芸誌編集長ブルー
5樋口恭介
5笠井康平★

【コメント】
まず、私はこの三人のジャッジに、優劣をつけることができません。一読すればお分かりの通り、批評文の巧拙や判断の透明性で良し悪しを語れる域を、この三人は優に飛び越えています。ブルーさんの批評には溢れんばかりの優しさと安心感があり、樋口さんの批評には涙腺をくすぐるエモーションと闘志があり、笠井さんの批評には人工知能に似た悲哀と美しさがあります。選べません。もはやくじ引きで決めたいくらい、どうにも、選べません。なのでこうします。“誰が決勝のジャッジをしたら一番おもしろそうか”で決めます。私はこのブンゲイファイトクラブが始まったときから、『ブンゲイファイトクラブ』をひとつの巨大な文芸作品と捉えています。運営・ファイター・ジャッジ・観客は全員、『ブンゲイファイトクラブ』という一大エンターテインメント巨編の共同脚本家であり役者であり視聴者なのです。なのでここは「どのジャッジが決勝に残るのが、これまでのストーリーを踏まえ最もドラマティックか」で決めさせてください。そこにはドラマ性の強弱があるだけで、批評技術の優劣はありません。無茶苦茶ですが、ご容赦ください。
まず、ブルーさん。ブルーさんは“元文芸誌編集長”の経験を存分に活かした、作家に寄り添う優しくスマートな批評で、1回戦を9票獲得の2位通過、2回戦を8票中5票集めてのダントツ1位通過と、圧倒的な人気で勝ち上がってきました。ファイター目線で考えると、信頼と実績のブルーさんに決勝ジャッジを担当してもらえるのは幸せなことです。しかし道のりがあまりに順当で、優勝ジャッジとしてのドラマ性はやや薄いようにも感じます。安定感が際立ちすぎているがゆえの不幸かもしれません。(“覆面の最強評者”というキャラクターはめちゃめちゃ魅力的なのですが…!)
次に、樋口さん。BFCにおける樋口さんの軌跡は、ドラマ性の塊と言っても過言ではありません。まずは1回戦作品公表後、例の場外乱闘を巻き起こします。「俺は別に公認ジャッジやめてもいいよ。公認ジャッジより大切なものがあるからね。」とまで言い放ったあと、滾る怒りを原動力に小説愛が極まった批評を展開、1回戦を3位で通過後、批評文に引退宣言まで織り込んだ2回戦も3位で通過、準決勝ではさらに魂のこもった批評をぶち込んできました。小説愛に突き動かされた傷だらけの暴走機関車・樋口恭介が、愛のままにわがままにブンゲイファイトクラブの優勝者を宣言するラストシーン……かなり熱いです。
最後に、笠井さん。笠井さんの勝ち上がりもまた、ドラマ性に富んだものでした。笠井さんは1回戦、作品の魅力を定量的に評価する独自の採点方法を開発し、公募ジャッジ唯一の勝ち残り&1回戦トップ通過を成し遂げます。笠井さんはその後も採点方法のアップデートを図り、2回戦を2位で突破、準決勝ジャッジの一角に名を連ねました。しかし準決勝の笠井さんの批評文は、これまでとは毛色の違うものでした。評を提出するまでの日々を日記形式で綴ったそれは、精確無比な採点機械のように映っていた笠井さんの人間味が鮮やかにほとばしったものでした。定量的な文芸批評の未来を追い求めると同時に、その臨界を指先でなぞる笠井さんの姿はすこぶる美しく、涙なしに読み進めることはできませんでした。私は笠井さんが決勝のジャッジとして立つ姿を見たい。たとえその姿が、笠井さんが当初描いていた立ち姿とは違っていても、私は笠井さんが最後の最後までそこに立ちつづける背中を見たい。
私の見たい物語の主人公は、どうやら笠井さんのようでした。笠井さんに投票します。しかし、たとえどのような結果となっても、そこに展開する物語は、唯一無二の最上の物語に違いありません。『ブンゲイファイトクラブ』、最後までお楽しみに!

——————————————————————

齋藤友果

 ファイターたちの作品もトーナメントが進むにつれて練られていったり、この催し自体に影響を受けた作品に変化していったりということがありましたが、ジャッジの方々の批評も磨きに磨かれ、短期間でさらなるパワーアップをしているように感じます。
 批評に対しての優劣はありません。全員5点です。準決勝のファイターの作品にもあまり点差はつきませんでした。それと同じことが起きていると思います。
 ただひとりを推薦しなければならないので、「次にどのような批評をするか見てみたい」という点で決めるしかありませんでした。

【個別の感想】
■元文芸誌編集長ブルー
 批評文を作品よりも先に読んだとして、作品も読んでみたくなるかどうか。ブルーさんの評がもっともそれに近かったように思います。
 作品を読むときの視点の多さや導いてくれるような語り口に誘われ、作品に手が伸びるような、また作者にとっても為になり、次の作品に生かしたくなるような批評です。

■樋口恭介
 準決勝の四つの作品を通して、物語ることについて論じている、樋口さんのひとつの作品として仕上がっている批評です。
 ブンゲイファイトクラブのジャッジに収まり切っていない、ジャッジという役目を超えていると感じました。もし樋口さんが評論をまとめた本やなにかを出すとしたら、(おこがましいですが)これを入れて欲しいと思うくらいに。

■笠井康平
 いままでのどの批評も、笠井さんのものは独自で新しく、既存の批評からはみ出していました。ここでまた、ジャッジの過程を「詳らか」にした(日記!)新しい評スタイル。
 読んでみればこうならざるを得なかったのだなとわかります。批評者にどのような逡巡や右往左往があるのかの一端を知ることができ、おもしろく読みました。
 笠井さんの批評することへの熱を、ずっと、もっと見ていたいと思います。

【結果】 ☆が推薦するジャッジ
 元文芸誌編集長ブルー 5点
 樋口恭介 5点
☆笠井康平 5点

 ブルーさんのジャッジには安定感を、樋口さんのジャッジには「完成」を見たのですが、笠井さんにはもうひと変化ありそうに感じます。それを見せてほしいという勝手な期待で、笠井さんを最後のジャッジに推薦します。

——————————————————————

蜂本みさ

総評:
もうやめましょうこんなことは。と、口走りそうになりましたが、やっぱりこれはブンゲイファイトクラブなので、ジャッジのジャッジをしました。不思議なことに最初の頃「ジャッジの評を熟読する」と「次の対戦のお話を考える」はばらばらの作業だったのが、回を追うごとにふたつの距離が縮んでいます。というか、今ではほぼ反復横跳びみたいになっています。評を読んでいたはずなのに気づくと新しいお話の断片で頭がいっぱいになっているのです。それで時間がかかってしまいました。ごめんなさい。皆さんの評を背中にタトゥーで彫りたい。冷凍したい。石碑を立てたい。宇宙に飛ばしたい。棺桶の中で一緒に燃えたい。

・笠井康平さん 4点
★樋口恭介さん 5点
・元文芸誌編集長 ブルーさん 4点

——————————————————————

ファイターによる勝敗・採点結果

      笠井康平  樋口恭介  元文芸誌編集長 ブルー
北野勇作   5          5    
金子玲介        5     5 
齋藤友果        5     5 
蜂本みさ   4          4
※アンダーラインが勝者

勝ち点
 笠井康平 2  樋口恭介 2 元文芸誌編集長 ブルー 0 
得票
 笠井康平19  樋口恭介20 元文芸誌編集長 ブルー19

ファイターによる評価で勝敗がつかなかったので、運営の三名が投票しました。

運営による投票結果

       笠井康平   樋口恭介
編集Z     ○
編集オメガ          ○
編集リドル          ○

勝ち点
 笠井康平1  樋口恭介2

——————————————————————

運営投票者コメント

編集Z

準決勝は誰が勝っても納得できる、非常に高いレベルでの接戦だったと思います。ファイターも、ジャッジもです。ジャッジとしてのレベルが拮抗しているなかで、同点となったお二人のうち、本来のジャッジからは外れるかもしれない「提案」――こうしたらこうだったのではないか、こういう未来があるのではないか――を感じられたのが笠井さんでした。個人的にその点から、笠井さんを推させていただきます。

編集オメガ

樋口さんの評の方により、ファイターとともに小説の可能性を押し広げようとする熱情と、作品に感動した自身の気持ちを増幅させてくれるような「作用」を感じ、そのことを得難く、有難く思いました。

編集リドル

あくまで冷静に作品を分析する姿勢に感動しました。自己を排除し尽くした上でこそ、好きな作品について語るということが可能になるというお手本のような批評だと感じました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?