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1回戦ジャッジをジャッジ





短歌よむ千住 


前回出場時、絵巻物ほど長いジャッジのジャッジを書いてしまったので、がんばって自重します。字数節約のため敬称略ですが、全てのジャッジと評に心からの敬意を。ありがとうございました。

子鹿白介
全てのジャンルに愛をくれる、異種混合戦に居てほしい稀有なかたでした。
梔子の花弁二重のやわらかさ香り以外を愛と呼ぶなら 4点

綾門優季
興奮度で測る勢いの良さに反してちゃんと読んでいるギャップが楽しかったです。
コーヒーを摘んでそのまま齧ること血が巡るのを感じれること 4点

江永泉
「手紙魔まみ」は実在のファンへの返歌としての色彩が強く、小説の技術で書いた本作と趣を異にすると思います。やべぇ喧嘩しちまう。勉強家のジャッジは可燃性が高いですね。
燃え燃えろ枯野のすすき火の色が空に移って朝になるまで 2点

田中目八
俳句は存じていましたが、評も上手いとはお見それしました。なんと美しい地の文でしょう。
君のこと知らなかったな陽の下で始めて透きとおる貝殻草 5点

春Q
迷いすぎて評と点数が一致しなかった印象です。腹から声出して!
雪の下から出られないふきのとう今助けるぜ火炎放射器 2点

白髪くくる
知識も経験もあり簡単に納得させられない文芸グルメ。頼もしいです。
もう少しだけ見ていたいその白い髪くくるとき咲く月下美人
5点 決勝ジャッジに推します

野村金光
繊細で神経質な評で心配になります。肩の力抜いてください。
するともっと持ち味が出ると思います。
むくろじの実は好きですか振ってみてその握り方だと割れちゃうよ 3点

冬乃くじ
ジャッジよりファイターやってほしいので1点。嘘です。詰めすぎない勇気を待ってほしいからです。
返り花こそ本物と言う僕に鋭い爪を立ててください 1点

世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル
その名前でその普通の評はなんですか。おねえさんは期待を裏切った人に厳しいんです。
世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルで撃て蜜柑 1点


鳴骸


1 評

■子鹿白介(3点)
 最後の《ジャッジ結論》で、4点だった『火葬場にて』を勝ち抜けに選ぶという展開に「おおお!」となりました。比べて《初読感想》と《熟読考察》では、大きく評価が変動することはなかったので、ギミックとして、分ける必要はないかなと感じました。

■綾門優季(3点)
 わかりやすく、スルスルと最後まで楽しく読みました。ただ、興奮することはなかったです。『庭には』を熱く褒めていただいた嬉し恥ずかしさが悪さをした気がします。

■江永泉(4点)
 採点ではなく、カテゴリー分けにし、マッチングから勝ち抜けを決める切り口に驚かされ、その理由にも納得しました。《エ:選考》にて、過不足なく奇麗にカップリングが成立しているということは、組み合わせを考えてくうちに、どこかのタイミングで余りものから選ばなければならない瞬間があったのではないかと、サッカーのチーム分け(リーダーが順番にメンバーを選んでいくやつ)のトラウマが蘇りました。

■田中目八(3点)
『スイカ弾き』で鳴っているであろう音を読み解いていく流れが楽しかったです。「しかしここはBFC。戦う相手は観客では無い」など、要所でパンチラインがあり、自分が評されているわけでもないのに背筋がのびました。

■春Q(3点)
『サマー・アフタヌーン』の評が素晴らしく、作品が好きな人はより好きに、良さがイマイチわからなかった人は「なるほど」と好きへの一歩目を踏みだせるのではないかと思いました。全体の最後に置かれた締めも、よい呪いでした。

■白髪くくる(3点)
 よい点と、よいとは思えなかった点が、明確にまとめられており、いさぎよし!と感じました。

■野村金光(3点)
 欠点としてあげられているところが、ことごとく魅力と感じていたところだったので、興味深く読みました。

■冬乃くじ(5点★)
 あきらかに枚数を超過している分は減点にするつもりでしたが、面白かったです。元の作品を読んでいなくても、評だけで成立する強度があると感じました。正直それがよいことなのかはわかりませんが、決勝戦は作品が2つしかないので、冬乃くじさんの「作品」もあわせて、三つ巴になれば盛り上がるかなと思い、決勝ジャッジに推します。

■世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル(4点)
 ところどころ思考が走り、置いていかれている気分になりましたが、それが心地よかったです。追いかけがいのある評でした。

■おわりに
 幸か不幸か、担当のかねあいで、『庭には』にいただいた評は、おおむね好意的と感じ、殴り合いになるような事態にならなかったのが、少しだけ残念でした。

2 採点

子鹿白介(3点)
綾門優季(3点)
江永泉(4点)
田中目八(3点)
春Q(3点)
白髪くくる(3点)
野村金光(3点)
冬乃くじ(5点★)
世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル(4点)

3 決勝ジャッジ

冬乃くじ


卜部兼次


 ジャッジの皆様この度はお疲れさまです。ジャッジに関しましてもありがとうございました。おそらくとても大変な事をしているんだろうなという、私の勝手なイメージではありますが、とにかくそういう印象です。お疲れさまですという、それに尽きます。

 という訳で、殊更に誰にどうという事も無いです。皆さまの評価はそのまま受け止めたいと思います。勉強になるなあっていう感じです。今後に生かせたらいいなあって思います。

 ジャッジをジャッジするとかなにぶん初めての事ですので、そうじゃないとか、ここは違うとか、そう言った面があるかもしれませんが、ご容赦、ご寛容いただけますと幸いです。

 子鹿白介様(5点)
 私のお話、うちの子への評価、コメントありがとうございました。また、勝ち抜けにまで選んでいただいたご様子で、本当にありがとうございます。Twitter(現X)で最初、ジャッジ評の表を見た時、
「なんだこの黄色いの」
 とか思ったんですけども、最高得点でもなかったですし。しかしまさか勝ち抜けとは。ほんとに感謝でございます。
 今後、何か困った事があったら言ってほしいです(笑)

 綾門優季様(4点)
 コメントいただきましてありがとうございます。興奮させられなくて申し訳ないです。謝っていただかなくて大丈夫です。もっと記憶に残るような話を考えなくてはいけないなとそのように思いました。

 江永泉様(5点)
 コメントいただきましてありがとうございます。それぞれの話を分類している箇所は、今後の、次回に向けての参考にしたいなと思いました。このどれかで突き抜けることが出来たら、また本戦来れるのかなっていう感じです。ありがたいです。
 あと「従属」と書くと思い出し怒りの前から呪ってた感が出すぎちゃうかも。っていうのもなるほどなあって思いました。なるほどなあ。ああ、なるほどって。膝を打つ感じでした。ありがとうございました。

 田中目八様(4点)
 スイカ弾きの作品に対してのコメントに、特に最後の一文に愛を感じました。愛というか、慈愛というか。慈しみを。

 春Q様(4点)
 CWON善光寺街道の作品に対してのコメントが素敵でした。じじいの所がシュールに感じました。作品の中のじじいは作品の中のじじいなのでそうは思わなかったのに、ジャッジ文の中のじじいは面白かったです。

 白髪くくる様(3点)
 スイカ弾きの作品に対してのコメント。最後の飛行機のアナウンスで夢から覚めた心地がしてしまったというのは、まったく同じ理由で私は好きなんですけども。でもそう風に感じるっていう事もあるんだなあ。と。なるほどなあっていう感じでした。

 野村金光様(3点)
 親が死ぬ前にすべきことの作品に対しての、登場するガジェットをもう少し整理してほしいという言には、私も身につまされる思いがしました。

 冬乃くじ様(4点)
 変身?の作品に対する石の雨の評価が本当に素晴らしいと思いました。

 世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル様(4点)
 2005の作品の評の中で、翌日には忘れてしまう何気ない会話、って書いてあって、それを見た時泣きそうになりました。


DJ SINLOW


1回戦 ジャッジをジャッジ

(各ジャッジへの採点・評価)

※点数は絶対評価です。詳細は後述に短評し、自グループのジャッジにはもう少し踏み込んだ評を記します。

子鹿白介 4

綾門優季 5

江永泉 2

田中目八 4

春Q 3

白髪くくる 3

野村金光 5☆(勝ち抜け)

冬乃くじ 5

世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル 4★(次点)

【以下、評価本文】

・勝ち抜けジャッジへの短評

野村金光

作品の構成、文体、雰囲気などについて満遍なくかつ問題点の指摘にも触れ、非常にバランスのよい評価をされていると感じました。文字数があればより深みのある評を読めるかと思うと、決勝に残った二作品についても誠実にかつ本気で向き合っていただけることを確信し、勝ち抜けとさせていただきました。

ここであえて言及しますが、ジャッジについては、作品著者と同等の原稿用紙六枚程度でも良いのではないかと思います。今回は形式が違うので、個別への評が書き足りないと感じたジャッジの方も多かろうと感じました。以降の開催については運営に再考を望みます。

(それ以外のジャッジについてごく短い評価)

・田中目八

ご自身の専門分野も活かしつつ、読み解きと分析には納得のいく理由づけも見出しているとことに好感が持てます。

・春Q

深く読み込んでおられる点は評価したいのですが、中長文の作品に期待している部分を掌編に当てはめようとされている読み方が、相性の問題なのかなと感じてしまいました。

・白髪くくる

勝ち抜け作品への熱量が明らかに違う(笑)。心情は分かりますがジャッジには冷静さを求めてしまう故の点数です。

・冬乃くじ

各ジャッジの中でこれぞまさに批評と呼べる内容のジャッジでした。ただ超過が過ぎる……。それさえ無ければ文句なしの勝ち抜け対象でした。

運営には要望出しといたので!(前述)

・世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル

他担当の作品にまで言及したいという熱量はジャッジ中随一だと感じます。ただ今回はバランス性を重視しました。

(自グループジャッジについて)

・子鹿白介

初読、熟読、相対化、という三つのフィルターを使って丁寧に作品に向き合ってくれる部分を高評価させていただきました。ただ、読み手としての楽しみたいという欲望が優っていたのか、熟読以降評価を冷静に振り返れない気配を感じたため
(評価を下げる作品が無かった)、満点には届かずとさせていただきました。

・綾門優季

「興奮したかどうか」を最優先とする攻撃力にステータスを割り振ったジャッジは好感が持てました。好きなタイプの評論です(笑)。

しかし、決勝作品に対しては、この評価軸のみでは対抗する力が欠けていると感じ、残念ながら勝ち抜けは他ジャッジにさせていただきました。叶うならば他担当作品についても評が読んでみたいジャッジでした。

・江永泉

ひと言で言うならば「勿体無いなぁ」と。折角評するという機会がありながら、文芸作品との類似性を主軸に(類推、想起の感想が多い)
採点をなさっておられる。ジャッジについての自作ルールの説明比率も多く、個別の作品評についてのもう少し踏み込んだ、あなたの言葉が欲しい。それが聞けたら、評価点はこのレベルじゃ無かったと思います。


中川マルカ


 BFCの華は、ジャッジにある。6枚の世界を咀嚼し、ふかくおし広げてくれる評によって、作品の受け取り方や見方を変えてもらったことが何度かある。伴い、ジャッジのジャッジ及び乱闘は面白く、いけ、させ、もっとやれと客席で見物していたのだけれど、今回ばかりは面白がってもいられない。只今のわたくしには、ジャッジをくだせる技量も知恵もなく、余力もお日にちもない。いざ降りかかってわかる先人の苦悩に抜刀、もとい、八倒しながら、ずるい人間として、マスターに、なあキミ評価軸を設定してくれんか、なんならプログラムを組んでくれんか、などと持ち掛けてみたりもしたが、即、断られた。やむなく、無い知恵を絞り、さまざまに検討し、料理人でもある自分は「味わい」というものさしでジャッジをジャッジさせてもらうことにした。
 参考にしたのは、ミシュランガイドの指標とされる「素材の質」「技術の熟練度」「独創性」「価値」「一貫性」の5つ。本指標をジャッジへの評価項目に置換し、そのうえで採点する。
 
ジャッジのジャッジ指標
・素材の質|ジャッジとして用いる言葉の新鮮さ、素材(作品)の特性を引き出せているか
・技術の熟練度|文芸への知識の深さ、議論の展開における基本的な技術の確からしさ
・独創性|ジャッジの個性、創造性。見せ方、センスなど全体から受ける印象
・価値|ジャッジの言葉の質と内容のバランスの適切さ
・一貫性|ジャッジを受けたファイターも、オーディエンスも満足する質の高さ
 
 なお、ミシュランガイドは3段階だが、ここでは5段階(1~5)の評価が必要とされるため、「金を払ってでも読ませたくない(-10点)」「読んでくださる分にはありがたいが黙っとれ(-1)」を考案し、総合評価として独自に☆を付与した。
 
<表1.ジャッジのジャッジ>

  料理と文芸を並べるな、という意見もあろうが、わたくしのなかでは生きるうえで同じくらいに重要なものである。ゆえ、そこに通う其々の血や魂を、勝手にはかるようなことはしたくなかったが、ジャッジのジャッジを引き受けた以上、真摯に応じるほかはない。つくることは、己にとって生きていくうえでの支えである。そのため、これより先にも支えとなるような、心を強く持たせてくれるような、記憶に残る「味わい」を与えてくれたジャッジを、勝ち抜けとする。よって、<江永泉氏>を決勝に推したい。


仲田詩魚


 採点は相対評価でおこないました。
 拙作に対する評については、私怨にとらわれない自信がまったくなかったので、読まずにジャッジすることにしました。採点表は目にしましたが、個別の採点は認識していないのでご容赦を。

・綾門優季さん 2点
 興奮するかどうかという採点基準にわくわくしました。個人的な感覚を言語化し、他者に伝わるよう説明するのはとても難しいと思うからです。結果として、それはあまりうまくいっておらず、全体として感想文の域を超えていないように思いました。

・江永泉さん 2点
 既存の作品で例える、マッチングで勝ち抜け作を決めるなど、独自のスタイルが楽しかったです。採点の説明に紙幅を割きすぎたせいか、こちらもやはり作品評が感想にとどまっていると感じました。

・子鹿白介さん 3点
 作品とジャッジを楽しんでいる感じが好印象でした。どれも好意的に評価されており、小鹿さんの評を読んで作品に興味を持つ人もいるのではないかと思います。ただ、ジャッジというよりは読者という感じがしてしまいました。

・野村金光さん 3点
 なんかしっくりこないなというところを、うまく説明してくれていると思いました。小説講座で先生の講評をきいているような。しかし、作品自体をどう捉え、評したのかがよくわからず、言葉は悪いですが、ダメ出しだけしたという印象になってしまいました。

・田中目八さん 4点
 作品を堪能しておられるのがよく伝わってくる評でした。どちらかというと解説的で、普段接しないようなジャンルの作品を読むうえでのよきガイドとなってくれました。とくに俳句についてはとても勉強になり、おもしろいものなんだなと思いました。ありがたい。

・白髪くくるさん 4点
 小気味よい評で、好き嫌いでいうならこの評が一番好きです。語弊があるかもしれませんが、良い悪いと好き嫌いの混ざり具合がとてもいいなと思いました。これを書き終わったら、まず白髪さんの採点表を見に行こうと思っています。

・春Qさん 5点
 紙幅のすべてを作品評に割き、それぞれの分量も均等である点にまず好感を抱きました。評については、ああこの人はなにひとつ見逃してくれない、と背筋がのびる思いです。こういう人に読ませるつもりで書かないといけないんだなと。

・世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルさん 5点
 担当作品に対する評のみをジャッジの対象としました。読んだ感想が「めっちゃおもしろかった!」一辺倒な人間からすると、良いも悪いもその理由を掘り当てて、明確に言語化する能力にはものすごく憧れます。世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルさんの評がそうです。決勝ジャッジに推します。

・冬乃くじさん 採点なし
 わたしがいうことじゃないかもしれませんが、さすがに長すぎるのではないかと。主催者が許しているとはいえ、決まった枚数の中で勝負している方々とおなじ土俵にのせるのことには抵抗があります。なので採点なしとしました。

 決勝で唯一のジャッジにふさわしいかを基準に採点したつもりですが、結果として、作品を受けとるだけでなく、自ら作品にむかってどれだけ手をのばそうとしているかで点数に差がでたように思います。
 六作品をジャッジした方々は、使える文字数という点でやや不利ではないかなと思いました。

==========

採点
子鹿白介さん 3
綾門優季さん 2
江永泉さん 2
田中目八さん 4
春Qさん 5
白髪くくるさん 4
野村金光さん 3
冬乃くじさん —
世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルさん 5★勝ち抜け


藤田雅矢


 いったん作者の手を離れた作品は、好きに読んでもらえればあれこれいうこともなしと思っているのですが、もちろんほめてもらえればうれしいですし、今回ジャッジの皆さんがどのように読まれるかを見せていただきました。まずは、各作品を精緻に読まれ、評を書き、点数をつけてくださったジャッジの皆さんに、敬意を表します。
 ジャッジの読み方をわかりやすく見せてくれたか、評から作品を読みたくなるか、もう一度ジャッジをしてもらいたいかなどの視点から点数をつけました。
 ただ今回、2ブロック16ファイターに対して、9ジャッジは全ファイターの点数はつけるものの、担当する作品が限られてしまったことで、自作への評は3つ(後述のジャッジのおかげで4つ)しか読めないのと、ジャッジが勝ち抜けに選んだ推し作品の評が読めないケースがけっこうあったのが、今回の仕組みとして残念でした。作者としては、「5」とつけて下さったジャッジの声も聞きたいです。

・子鹿白介 3点
 わたしも二回読みをしたのですが、同じように読み方の追体験しました。熟読の結果、加点や切り上げで最終的に4点か5点しかなくて(気持ちはわかります)、さらに勝ち抜け評価はそこと違うのかと思いました。

・綾門優季 4点
「興奮したかどうか。それだけで選びました。」とのこと、それでいいと思います! 文章から、その興奮度が感じられました。

・江永泉 5点(勝ち抜け)
 採点基準が明確で、短い文章で各作品の評が示されています。そして、グループAとBのどことどこの闘いを見たいか、という発想がおもしろい。残念ながらG対Pは実現しませんでしたが、ジャッジをしてもらいたかった。そして、B対Pでもよいジャッジがなされると思います。見てみたい。よって勝ち抜けとしました。

・田中目八 4点
 ここからの3ジャッジは、自作について評していただいています。
「正弦曲線」音楽の眼から見ると、こういうふうに聞こえるのですね、なるほど。スイカ弾きという職業を感じていただいてうれしいです。

・春Q 4点
 こちらもスイカ弾きに想いをはせていただいてありがたい。そう、もう少しスイカ弾きたちについて書いてみたくもあり、読者の想像に委ねたくもあるのです。

・白髪くくる 4点
 いまの世にもスイカ弾きはいるんだよ、と時を跳ねたつもりでしたが、そういうふうにも読めるのかと気づかせてもらいました。
 また、勝ち抜け作品に推された「CWON善光寺街道」、わたしはいまひとつわからなかったのですが、この評を読んで面白さに気づけたと思います。

・野村金光 3点
 きっちりルールに則って、的確に評されていると思いますが、マイナス面の指摘が多くて、わたしの視点の「評から作品を読みたくなるか」ところにつながりませんでした。

・冬乃くじ 3点
 ジャッジの思考と思いが、こぼれるようにがんがん伝わってきます。それだけに、もう少し凝縮して見せていただけるとありがたかった。

・世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル 4点
 はじめに書いた点を同じように感じられたジャッジで、「担当外で評価5を得た作品」の評もあって、わかりやすく読めました。「スイカ弾き」は、タイトルの妙に触れてくださってありがとうございます。


萩原真治


敬称略 ・子鹿白介 3点 なんといっても、初読と熟読に分けて、作品を評しているのがよかったです。ジャッジにはそういった、自分のテンションを抑制し、一度我に変える瞬間が必要だと思います。氏はそういったコントロールを効かせられる方なのだと、好感を持ちました。 ただ、「ブンゲイテクノ」に5点をつけたこと、その評が浅かったように思えます。作品の持つ、華々しさ、パワーに押し流され、意識を手放しておられる。氏がテクノ評でおっしゃったこと、みんな分かっています。みんな、そう思ってます。だから、それ以上の評を、我々の前に置いてほしかった。音楽だから、門外漢だから、とおっしゃっては、もう敗北ではないですか。それならば、音楽など関係なく、自分の土俵に引き込んで、評していただきたかった。 ・綾門優季 2点 興奮したかどうかという、直感的で明快な判断基準。その素直さには好感を覚えます。しかし、技術を低きにおいているかのような、ジャッジ文には、閉口してしまいます。氏のおっしゃる、興奮が起きない技術の中に、興奮を見出だすことは、どうしてもできませんでしたか? 興奮、という言葉にもたれかかり過ぎておられる。他者という、不可解な存在がつくったものを見定めなければならないのに、一つの視点にこだわるのは、ジャッジとしてすぐれていないように思えます。 それに付して、理解できない作品に出くわした時、意識を手放すのがお早い。理解できないものを理解できないと、興奮できないと断じて、物置に追いやるのは簡単だ。興奮というただ一点のみを、評価基準にしているわりに、興奮の純度が低いように感ずれます。 ここまで書いて、ちょっと考えました。 でもこれはお祭りだ。ジャッジだって騒いで、踊って、興奮しても、よいのではないか。冷たく、整然としているほうが、野暮なのではないか。 たしかにそうです。わたくしは野暮なのかも。 よーく考えて、採点は2点といたします。当初は1点でしたが、それはやりすぎでした。 ・江永泉 2点 氏は「各作の力を統一基準で測るのは難しい」「そこでマッチングを考えた」とおっしゃっています。わたくしは何よりも、この「困難なものに対して、独自の方策をとりいれた」ところを評価したいです。 しかし、いかんせん、ガラゴロと読み下しにくいジャッジ文です。他の方のジャッジ文は、もっと明快な文調でした。 各作品評に対して引用を用いているのも、手放しには、賛成できません。引用元を知らなければ、その引用に、効果はないのでは。肝心な部分を、なぜ、ショートカットされたのか。 氏が他作品を引用したのは、なんのためだったのでしょうか。引用元を知らないのは、わたくしの不明ですし、不勉強でございます。けれども、ジャッジ文は公開されるのですから、その内容を、ひろく受け入れられるような取り組みを、していただきたかった。 あと、評価の方法について。点数による評価をやめる。おお、独創的だ……。それはよい。評価したい。ただ、氏がさいしょに、理由について喩えを用いて説明してくださっているのですが、この喩えが、響いてこん。何度も、読みましたが……。何を言っておられる……。 もう、これならば、作品評自体のクオリティを上げていただきたかった。江永システムにいっそうの洗練をもとめたい……。 ・田中目八 4点 衒いなく、すんなりと、作品を評しておいでです。さらっと書かれてはいますが、切れ味よく、作品に踏み込んでいるところもあり、おお、そういう読みか、と気付かされることもありました。 また、俳句を嗜まれておられるので、短詩の評価につよいこと、これはおおきく評価したい。引き出しの多いジャッジは、やはり、信頼できます。異種文学闘技であるBFCにおいて、そのような評士は、尊ばれるべきですし、貴重です。 おっしゃっているところに、おかしなところは、ない。枚数制限も問題なし。目八どのならではといったような、派手さはありませんが、そんなものはいりません。わたくしは氏のように、スュっと作品を読んでくださる人が、ジャッジとして信頼できるのでは、と思っております。 ・春Q 4点 氏は麺shock!!という作品を読んだ時、気持ち悪さを、感じられたようです。しかし、そこで終わりにはせず、意識を手放さずに、最後までお読みになり、その上で評価されている。わたくしは、そういった姿勢を、評価したい。理解しづらかったり、嫌悪を感じてもなお、作品を通読し、そこから何かを得て言い表すこと。ジャッジに必要な素養だと思います。目八どののように、短詩に対する強さも伺え、ニコリとしました。 ・白髮くくる 3点 作品を通読し、全体像をよく把握しておられます。読書量が伺えます。しかし、理解しづらい作品に相対したときの、振る舞いが、ざんねんにおもえました。「歩み」に関して、「食傷気味だから」という理由で低評価というのは、ジャッジとして、敗北宣言なのでは。自分から理解への扉を閉ざしておられる。「麺shock!!」に至っては、「尿路結石」など、どこに出てきましたか。尿酸結石かもしれないのに。尿道が痛かったら、何かを患っていなきゃ、いけないのかい。氏は、ご自身の考えに、作品を当てはめようとしておられるのではないか。思い込みによって、作品を評している素振りを、感ずれます。こうきたから、こう。こうなってるから、こう。そういうきらいがありました。ですが、『CWON善光寺街道』の評はたいへんにすばらしく、「確かにな」と思わせられるところもありました。良くも悪くも好き嫌いがはっきりされている、清々しいジャッジ観をお持ちなのだと、おもいました。 ・野村金光 5点(勝ち抜け) まず、字数制限を守ろうとする姿勢がフェアであり、好感をもてます。基本的なところを、忘れずに、戒めるのは、よいことです。 また、この方も、ブンゲイのフィジカルがつよそうで、なんだかワクワクします。 分かりづらさを指摘した上で、具体的にどうしたほうがよかったか、と、おっしゃってます。コレは、ありがたい。ファイターとしても、いち観客としても。やはり、起きていることに対し、明確な説明と補足を起こせるジャッジは、つよい。 うん、読めば読むほど、明快で、何が起きているのか分かりやすい、ジャッジです。 この方に、ぜひ、字数制限を大幅に緩和したうえで、決勝に望んで頂きたい。くれぐれも、冗長にはなりすぎない、抑制を効かせたうえで。 ・冬乃くじ 2点 冬乃どのが伝言でおっしゃっていた、作品評としての試み、成功してらっしゃると思います。すばらしい作品への熱量。敬服します。ブンゲイを、愛しておられるのですね。わたくしも、氏に論ぜられたかった。しかし、氏の伝言をよむかぎり、どうやらのっけから、ジャッジの役目を果たすことに、拘泥していらっしゃないようですから。純粋な作品評に注力されたようですから。ということであれば、2点をつけさせていただきたく。ふくむところは何もありませぬ。 ・世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル 3点 氏はたいへんに、まじめで誠実な方なのだと、評文を読んでいておもいました。本来であれば、このような方に、ジャッジを努めていただきたく。しかしながら、あまりにも、評文が長すぎます。他の方は倍はあります。確かに規定枚数5枚というのは、短く、厳格な規定ではないのかもしれません。ただ、それでも、他の方は削りたくないジャッジ文を削っておいでです。ここで氏を、評価してしまうのは、フェアではない。わたくしは、四苦八苦しながらも、規定枚数近くまで減量した他のジャッジどのたちを、評価したい。


和生吉音


ジャッジの皆様の、限られた時間のなかで作品に向き合う真摯な姿勢に背筋の伸びる思いでした。ありがとうございました。

過去のジャッジジャッジを参考に、自分にとって大切だと思う以下の3点について表を作りABC評価で決めることにしました。
①評によって対象作品を読みたくなるか
②評者にとって馴染みのないものに対して何かを見ようとする意欲が感じられるか
③説得力があり、次回の評も読みたいと思えるか

【小鹿白介さん】4
時間を置いたジャッジの過程も見られる仕様で納得感UP。素直に読めて頷ける好感度の高い評だと思いました。
短歌評が特に好きで、評を見たあと作品を読み返してしまいました。

【綾門優季さん】3
劇作家視点が興味深く、採点基準の「興奮」にも臨場感が感じられました。興奮しなかった作品についてももう少し考察への意欲が見たかったような気がします。

【江永泉さん】3
闘いを見たいマッチング、というオリジナリティのある比較が興味深かったです。ただ、一律に自分の抽斗から既存の作品を引いてくるのは「読んでいる時に自然に想起された」のとは異なり、評の視野に枠を作ってしまうおそれがあるのではとも考えました。

【田中目八さん】5
スイカ弾きやサマー・アフタヌーンの評に読み惚れてしまいました。それぞれの作品を汲もうとする意欲が溢れていて、そのため自作の設定が田中さんに伝わらなかったことについては自分の猛省の必要をひしひしと...(私事ですみません)
広義の「うた」や音に関する作品が多かったので、それらを評するのに相応しいジャッジが居られたのがすごく良かった!と思いました。

【春Qさん】4
読んでいて楽しく、独自の視点も面白かったです。他の作品への評も全部読んでみたいと思いました。麺shock!!への評と採点のツンデレ具合いに作品愛を感じてニコニコしてしまいました。

【白髪くくるさん】3
評者の好みや読解を率直に打ち出した視点によって、評を読む側の見地も照射されて明確になるスタイル。スイカ弾きラストの評には異議、善光寺評には激しく同意...等々、読みながら各作品への自分の考察を深めるきっかけにもなりました。

【野村金光さん】5
冒頭で「もしやめっぽう厳しめ?」と構えてしまったのですが、実際に読んだらとても誠実な評だと思いました。自分が買った文芸誌に載っていた書評だと仮定して一覧してみたら、いちばん落ち着く評のようにも感じました。

【冬乃くじさん】4
「死にの母」の評に度肝を抜かれました。この解釈にどこまで完全に頷けるかという範囲はさておき、思いがけない視点が開かれるというのはジャッジを読む愉しみ、意義の核だと思うのでこれは評価したい!と思いました。一方で「2005」については評者のパッションは伝わってくるのだけれど評が作品からやや離れているような印象があり、私の中ではうまくリンクさせることができませんでした(でも作品を読み返させるパワーは強力でした)

【世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルさん】5
分量超過も恐れず担当外の評まで...勇者...ッ、と思いました(個人的には評があって嬉しかったですありがとうございました)。
これも個人的なのですが、今回の中でとくに2005についてとくに自分が読み切れていない気がしていて、補助がほしいとかなり真剣に思っていたのでこちらの評がしっくりきたのもありがたかったです。収集癖の魅力の言語化もすごいと思いました。全体的に熱のこもった評でした。


子鹿さん 4
綾門さん 3
江永さん 3
田中さん 5
春Qさん 4
白髪さん 3
野村さん 5
冬乃さん 4
彗星さん 5



ABC評価をつけてみたものの各段階に比較の難しい色幅があって、結局直感のようなものも加味した採点になりました。
野村さん彗星さん田中さんで迷いに迷って(とくに野村さんと彗星さんはスタイルが対照的なような気がしました)、熱の方に一票。

‪☆世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルさん(勝ち抜け)


海野ベーコン


子鹿白介さん

ジャッジを《初読感想》と《熟読考察》という二種類のレイヤーに分ける試みは個性が出ていておもしろいとは思います。ただ、その二つのテキストの中身の性格に差異を感じられず、この試みが成功しているようにはあまり思えませんでした。また初読感想の時点で「◯
.5点」と小数点で刻むのも、ジャッジ評の中身の曖昧さにつながっているように思えてしまいました。


綾門優季さん

ジャッジの基準を「興奮したかどうか。それだけで選びました」とするのも、それを文の冒頭で明言するのも、潔くてよいと思いました。ただ一言で「興奮」と言っても、人によって何でどんな理由で興奮するかの基準が異なるので、「私は◯◯という理由によって、この作品には興奮しました」というより踏み込んだ分析があれば、ジャッジ評の中身がもう少し鮮明なものになったように思います。


江永泉さん

テキストからわかるように、おそらく今回のジャッジのなかで最もご自身のジャッジの基準を具体的に明示し、かつ最も多くの固有の作品名がジャッジ文のなかに出てきた書き手だと思います。そして、そのことによって、書き手が考えるジャッジの基準がよく読み手に伝わり、江永さんがファイターの作品に向きあう際の態度の「誠実さ」が表れているように思いました。


田中目八さん

各作品への言及が上記の三人に比べて長く、ジャッジのテキストの中身も「作品の記述プラス分析」という構成になっており、とても「真っ直ぐな」ジャッジ評だと思いました。また全体的に終始クールな筆致でジャッジ評が書かれており、とてもジャッジらしいジャッジだと思い、スラスラと読むことができました。


春Qさん

今回のジャッジのなかで最も作品の形式的(韻律や行数や言葉選び等)な観点から内容を精査しようとした書き手のように思いました。そして、その言及の仕方も具体的で、なるほどそうやって作品を読めばいいのか!
と勉強になるジャッジ評でした。六枚という短い枚数のなかでは、そのあたりの細かな視点もジャッジの重大な要素になってくることを思い知ることができました。


白髪くくるさん

ファイターの作品の記述と書き手自身の感想と分析の三要素がそれぞれニュートラルなかたちでテキストのなかに表れているようなジャッジ評に思いました。ただ、そのことによって、ほかのジャッジの方々のジャッジ評よりもややテキストの性格が散漫になってしまっている印象があります。よって、もう少し具体的に冒頭で(書き手が考える)ジャッジの基準を明示し、その基準に沿ってテキストを書き進めれば、より鮮明な分析が表れたジャッジ評となったのではないかと思いました。


野村金光さん

おそらく文章を書き慣れている書き手で、数字の使い方や引用の仕方の手際もよく、ジャッジが作品に対してなぜそのような評価を下したのか、がとてもよくわかるジャッジ評でした。また各作品に言及したテキストの密度がとても高く、短い枚数を与えられた書き手が作品の評を書く/下す際のお手本となるようなジャッジ評に思いました。


冬乃くじさん

おそらくジャッジの枚数を超過していると思うので、ほかのジャッジの方々が短い枚数でどうやって作品を分析するか、と苦心して出力されたジャッジ文と比べて読んだ際に、冬乃さんのテキストが「浮いて」見えてしまうのは否めません。なので、規定の枚数でジャッジ評が書かれた際に、冬乃さんの個性だと思える「雄大な語り」と作品の分析がうまく溶け合った文章がどんなものになるのかを読んでみたかったです。


世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルさん

今回の作品のなかでジャッジ陣から最も高評価を受けた「死にの母」に対して、高いとは言えない評価を下したジャッジ評でしたが、しかしその具体的な分析が書かれた評にもとても説得力を感じました。「全てが調和して一つの物語のように思えてしまい、変化する前の精細な記憶の風景を邪魔していた」という(物語と小説の差異を表した)小説観にも共感できます。また全体的なジャッジ評も抑制の効いたテキストで好感を持ちました。ただ、ジャッジの形式を逸脱している点があるので、その点が若干減点対象となりました。


以下、各点数

子鹿白介 3

綾門優季 3

江永泉 5

田中目八 5

春Q 5

白髪くくる 3

野村金光 5

冬乃くじ 3

世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル 4


ジャッジ自身に独自の評価基準があり、その評価基準がジャッジ評のテキストに具体的に表れているか否か、を基準に評価を下しました


首都大学留一


子鹿白介
丁寧な読解が伝わる。作品の中で明確に書かれない所への考察も楽しい。内容を踏まえて面白いポイントを見つけ出すことがうまい読者だと感じた。採点で点差が生じなかったが、個々に根拠をもっての採点であるため過不足なかったと考える。2点です。

綾門優季
自らの評を他者が読むことに自覚的に書き得ている段階で、本大会で上位を争う力は疑いない。作品との距離を自在にとり、文章も読ませる。興奮という読み手の「感じ」に依拠するスタイルが避け難くもつ弱点は、「結局感じ方は人それぞれ」と片付けられて、読者に対する評の訴求力が拡散しがちな点だ。作品への評価が高まるほど、論理から離れていくので人に伝えるのが難しい。全体的に説得力が高かった。しかし、この評における「気分は最高潮」は、伝えようとする試みにも関わらず、個人的な体験に閉じてしまったと感じた。評を通してそれを他者に開けたら、すごいことになる。4点に近い3点です。

江永泉
量的変数として与えられたはずの点数を質的変数に(一見)変えてしまうという離れ文芸業で、評と数値の接続に新たな道を拓いた。BFCの偏差値競争的な画一化への批判を重ねることも面白い。各作品の一行要約には本質をつかむ整理の力と自信が見えた。勝ち抜けを選ぶまでの経緯にも独自のものがあり、読まされた。4点です。

田中目八
俳句にしかできない表現を見据える「サマー・アフタヌーン」評が頼もしい。他作品への評も丁寧な読み取りに基づき、地に足が着いている。並べると、やはり「サマー・アフタヌーン」評が圧倒的に強い。全体がこの強さに揃えば、敵なしかもしれない。自分の武器があった。3点に近い2点です。

春 Q
内容を丁寧に読み、長所・短所と考えたところをあげる。鋭い指摘と、自分の感性を押し通しているところとが混在している。書かれたことの背後を感じ取る姿勢があるところが好きだった。自分の感性と合わなかったところが、なぜそう書かれたのかについて、もういくつかの可能性を考察するとより説得力のある評になると思った。2点です。

白髪くくる
冒頭のストライクゾーン宣言が、ジャッジの確信によって異常に研ぎ澄まされている。読み手として信頼できるが、ジャッジとしては防御をまったく顧みない構え。個人的には、ぼくの作品を勝ち抜けに推すその研ぎ澄まされた感性は5兆点で、全体的に白髪くくるのコールド勝ち、これをもってBFC5は閉会なのだけど、それはやはりぼくの個人的な思いである。ジャッジスタイルは内容の丁寧な読み取りに基づいて判断するものであるが、ストライクゾーン外とみなした作品に入っていくことは難しかったことが伝わる。決勝では傾向を固定したジャッジはなじみにくいということも考え合わせて、本当に5兆点にしたい気持ちをこらえて、1点かと思ったが、冒頭のストライクゾーンは重要な事を言っている。ぼくは洗練とは異なる完成を信じたい。ここで加点して、2点です。

野村金光
読んだ時の違和感を的確に、説得的に言語化した。作品の構造の弱点、書き手の自意識の不用意な漏出などへの指摘が鋭い。読んでいて(前向きな意味で)面白く、よりよい作品に向けての力になると感じた。作品がゆらいでいるところとずれなく違和感を持てることは、稀有な力だと思う。4点です。

冬乃くじ
解釈によって新たな読みを提示する。決まらなかった時に反発を受けやすいスタイルだが参考文献や実証で補強されており、説得的であろうとするバランス感覚がある。文章力も明らかに高いが、自ら試験範囲を広げ過ぎたためか、補強材料が評の中で十分になじんでいない箇所が散見され、一つの読み物としての統一感がゆるやか。その点が整った文章と相互に良さを消しあっており、推敲の余地が大きい。ここがクリアされていればもっと高く評価した。特に印象に残ったのは「死にの母」評。「私」が一見して分かりづらい形で表出した反発を、屈折した何か別の物だと確信して反発を覚えていた自分の中にあるだろう、意識できなかったものについて、考えざるを得なかった。3点に近い2点です。

世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル
内容に丁寧に触れながら評するスタイル。しっかりと読み込みながらも作品に振り回されることなく、自分の言葉で全体をコントロールし得ており、たいへん読みやすい。作品への指摘は的確。安定して高水準のまま全体を書き通す高い実力を感じた。4点です。

4点の3名のジャッジのうち、次に期待させるものが一番感じられた野村金光ジャッジを勝ちとして、決勝ジャッジに推薦します。



如実


【採点】
343345335
子鹿白介: 3
綾門優季: 4
江永泉: 3
田中目八: 3
春Q: 4
白髪くくる: 5(勝ち抜け)
野村金光: 3
冬乃くじ: 3
世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル: 5

【評】
 最終的に白髪氏かプールサイド氏かで迷った。両氏の採点を見て白髪氏が1~5点、プールサイド氏が3~5点でジャッジを行なっており、BFCとして好ましいのは前者だと思い白髪氏を決勝ジャッジに推します。(と言いつつ自分は3~5点でしかジャッジのジャッジが出来なかった)
 ジャッジ文の長さについては関与しないという関与をすることにしました。

[個別評](敬称略)
子鹿白介
 素朴な印象を受けた。初読感想と熟読考察のグラデーションがあまり感じられなかったからかもしれない。いい読者に違いないと思われるが、決勝ジャッジとしては推せなかった。

綾門優季
 興奮したかどうか、という基準に違和感はない。評文から自身の偏好が滲出しているところも好感が持てる。ただBグループ作品群に対する自分の評価と氏の採点に乖離があり、好みが違うんだろうなあという理由で推すことはできなかった。『雨』評の「セリフのひねりのなさにはかなり違和感を覚えました」に近いものを『2005』にも抱かれたのではないかと妄想する。

江永泉
 評文における他作への想起が功奏しているか疑問。決勝でのマッチングから勝ち抜けを決めるのは一つのやり方としては確かにアリだと思った。ただ、安易に読むと、近いカテゴリー同士の作品の対決を決勝で見たいというところに乗れなかった。やっぱりグループ内でどの作品を勝ち抜けさせるかという逡巡が見たかったのかもしれない。

田中目八
 作品の響いた部分、気になった部分を素直に書いている。「バスのなかでなにもしゃべれないで虹だ」は確かに面白い。『スイカ弾き』の評だけ少し物足りなさを感じた。

春Q
 各評に納得感のようなものがあった。氏の思う作品の惜しい部分に関しても独善的でなく作品に寄り添っている感じがしてよかった。ほとんど自分の言いがかりに過ぎないが、理性によって『CWON善光寺街道』を推せなかったところだけが気になるところ。

白髪くくる
 各作への点数を見て、勝手な物言いだが、自分と惹かれる作品が一番近しいジャッジと感じた。評文も興奮したポイントがクリアに書かれていて、特に『サマー・アフターヌーン』の最後の句で意表をつかれたところがよかった。

野村金光
 『2005』への反応が条件反射的に感じられた。そういうことなのかなあと思いながら読んだ。おそらくは「直視すべき問い」とされているものへの距離感の異なりが今回の評を生んだのだと感じる。書かれていることが書いてほしいことに侵食されているような、モチーフとテーマが同一視されているような違和感を覚えた。

冬乃くじ
 各作の美点を見出しつつ独自の解釈を加えつつ書かれているところがよい。『収集癖』の評「とすれば本作はオマージュ、もしくは寺山の詩的世界を本歌取りした作品と読んで構わないだろう」とある箇所については「そうなんだ」と思いながら読んだ。『変身?』の評「中身がわからないと通じない固有名詞を出すことは、作品の普遍性を低めてしまう」については、別にそれでもいいなと思いながら読んだ。

世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル
 担当作だけでなく担当外で評価5を得た作品についても触れているのがよい。評内容も作品の良点や引っかかった点が明瞭に書かれており、その率直さがよいと思った。


高遠みかみ


ひとりずつ感想を述べ、都度点数を出す。評価は「どのような形式で書かれているか」「どのように見、どのように表現しているか」を重視する。また、野村金光、冬乃くじ、世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルの三名については自作への言及を中心に評価する。

・子鹿白介 4点
『ジャッジの思考経路を追体験』できる〈初読感想〉〈熟読考察〉のシステムは、誠実であるための良い方法だと思う。ライトな視点を入り口にディープな視点へ抜けていく構成はとても見やすい。
楽しみながら読んでいることがよくわかる、いい文章だった。

・綾門優季 3点
『技術が高くても、興奮しなかったら点数は低めにつけ』るという正直な指標は、感覚的に評価するという宣言でもあるが、悪くないと思う。ときおり鋭い意見も見えて面白いが、理想的なジャッジのイメージとはすこし違った。

・江永泉 5点
『模倣促進作用は極力削減されるべき』『敗者への採点は寸評付与に使う』など、ジャッジに対する真摯な態度が目立った。すべての評に既存作と類似したものを提示するさまは博覧強記そのもので、最後のマッチングも面白い試みだった。同じ文字数でまとまるかどうかで決めるのは変だが、面白い。

・田中目八 5点
シンプルな構成で評が語られている。正弦曲線への考察、スープへの違和感の指摘、惑星の意図を読み取れなかったと最初に言うなど、論理的かつ合理的な文章を書こうとしていることがわかる。俳句への造詣の深さも感じられた。
ジャッジの役目をまっとうしようとする良い文章だった。

・春Q 4点
順に言及するスタイル。作品に対する欠点の指摘が多く、減点方式であることが伺える。が、指摘はどれも的を射ていると思うし、それほど細部を読み込んだ証左でもある。読解力の強さを感じた。
個人的に、私の作品を決勝に推薦した理由を知りたいと思った。それは傾聴に値する言葉だろうから。

・白髪くくる 5点
『予想を超える展開、意識していなかった景色の切り取り、考えていなかった文章の連なりに惹かれ、それらの要素が必然性によって支えられている』作品を選ぶという指標は、納得感があり、私個人としても首肯できる。評自体は手厳しいところもあるが、褒める文章も上手で、納得できる。作品をよく読み込んでいるのがわかった。文章に気品があるので、いろんな作品をめたくそにこき下ろしたらきっと面白いと思う。

・野村金光 3点
自作について。統一感のなさを「散漫」と捉えられたのは不甲斐なく思う。
『「商社マン」「IT社長」「GAFA役員プレゼンにて」のような出所には収集する価値を見出さない脱世俗的な「主体」』という指摘はとても鋭いと思った。しかし、作者だから言えることだが、それらの人物や状況がこの作品内に並ぶことは十分ありえた。(最終的に作品には出ていないのだから、同じことかもしれない)

・冬乃くじ 5点
自作は寺山修司の『ポケットに名言を』から着想したものだ。なので、寺山修司との関連をモチーフの選び方から看破し、寺山の好んだ手法を使っていることまで見抜かれ、驚いた。天災と宗教の記述を深掘りし、作品の裏にある神の存在まで行き着く考察には舌を巻いた。謎解きゲームではないけれど、ここまで精緻に読み込まれたなら高く評価せざるをえない。
文章の流麗さを含め、常識的な枚数なら迷わず決勝に推薦していた。

・世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル 5点
『採点の公平性を保つ以上、両グループに言及する必要がある』と、今大会のルールに挑んでいる。誠実ではあると思う。
短評はどれもしっかりした骨組みで書かれており、それぞれの作品の良さが十分伝わってきた。自作については『詩の新しい境地を見た』とまで言っており、「私はそんなにも素晴らしい作品を書いたのか」と大いにうぬぼれることができた。


5点を配したのは5人。このなかから決勝進出ジャッジを推薦するため、比較して再考する。
江永泉は、フォーマットを重視する私の指針にぴったりはまった。だが、評文は類作からのプラスマイナスで捉えており、淡白に感じた。類作を知らなければ理解しづらいし、知っていたとしても類作の印象や解釈は人によって異なる。
田中目八は、『サマー・アフタヌーン』の評文において『BFCを意識しての戦略にも思える』『ここはBFC』など、急にテンションが変わったように見えたのが気になった。
白髪くくるは、欠点らしい欠点が見当たらなかった。また、「です・ます」調に品性や敬意以上の文体を感じた。
冬乃くじは、大幅な枚数超過が問題。世界彗星~ライフルも同様。どちらも素晴らしい文章と読解で、「これからも創作を続けたい」と思わせてくれた。しかし、他のジャッジが枚数を超過していない以上、比較の場に載せることは躊躇われた。

よって、勝ち抜けは白髪くくるとする
――高遠みかみ


点数(決勝進出者は☆)

子鹿白介 4点
綾門優季 3点
江永泉 5点
田中目八 5点
春 Q 4点
白髪くくる ☆5点☆
野村金光 3点
冬乃くじ 5点
世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル 5点


東風


  ジャッジをジャッジ評
 
小鹿白介さん
 「好き」を基準にしながらも、『ブンゲイテクノ』の熟読考察のように的確に拾い上げて簡潔に分かりやすく評価する手腕は素晴らしかったと思います。一方で、五段階評価を二段階評価にして出されているのは、ファイターとして安心感はありますが、もう少し戦って欲しかったという気持ちもあります。
4点
 
綾門優季さん
「興奮したかどうか」だけが選考基準だと明言して始まるジャッジ。潔くて好きです。ただ、評を読んでいくとこの方の興奮することの基準、あるいは評価する際の基準が非常に技術的なものであることが見えてきました。もちろん、それがいけないことではありませんが、最初の啖呵はどの作品に掛かっていたものなのでしょうか。
3点
江永泉さん
 基準を明示して採点し、対象作品を言葉で評価して、全作品をマッチングして勝ち抜け作品の選考を行う。が、結局この方式で選ばれたはずのG『スイカ弾き』及びP『死にの母』はそのまま最初の採点で最高点を取った二作品でした。二作品ずつ組みにしていく考え方はおもしろいとは思いますが、ここから何を引き出したいのかがよく分かりませんでした。
また、個別の評についてはそれぞれに類作が提示されているものの、その似ている点への具体的な言及がないので、評価することができませんでした。
1点
 
田中目八さん
 評を読んでいくと、それぞれの作品を丁寧に読み込まれているのが感じられ、信頼感がありました。一方で、『スイカ弾き』の評と他の作品の評を読み比べると、得手不得手の差が大きいのかなというのも感じられました。
3点
 
春Qさん
 それぞれの作品について丁寧に良い点、悪い点が指摘されており、かつ簡潔にまとめられていて好感を持ちました。この方を勝ち抜けとします。
 5点
 
白髪くくるさん
 客観的に採点するのではなく、徹底して読者としての感想を根拠に評価されており、潔くて良いと感じました。
 また、読者としての好き嫌いを根拠にしつつも、できるだけ作品を好きになろうという姿勢が見えることにも好感を持ちました。
 3点
 
野村金光さん
 各作品への指摘は非常に鋭く、確かな知識に裏打ちされた信頼できる評だと感じました。
 ただ、一方で作品外のことからフラストレーションが溜まっているようにも見え、各評に対しても八つ当たり的に苛立ちをぶつけているように感じられたのが残念に思います。
 4点
 
冬乃くじさん
 非常に熱量のある評であり、特に『変身?』でのラストを「縦書きの画像」だからこその表現だとするのは非常に鋭くハッとするものがありました。ですが、さすがに原稿用紙十二枚分は多過ぎます。とても惜しくはありますが、大幅減点としました。
 2点
 
世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルさん
 名前がズルい。それはともかく、それぞれの評について、どうしても底が浅いという感想を持ってしまいました。勝ち抜けとした『収集癖』の評でも言葉を飾る言葉が多く、具体的な考察が足りないように思いました。また、分量については担当外についての言及もあったことから原稿用紙十一枚分と非常に多く、こちらの意味でも減点対象としました。
 1点
 
 以上より各ジャッジの点数は
子鹿白介さん  4点
綾門優季さん  3点
江永泉さん   1点
田中目八さん  3点
春 Qさん    5点
白髪くくるさん 3点
野村金光さん  4点
冬乃くじさん  2点
世界彗星灯台プールサイドアサルトライフルさん
      1点
 となりました。
 これにより勝ち抜けジャッジは春 Qさんとします。


通天閣盛男


ジャッジ各位に感謝と労いの言葉を。ありがとう御座います。そしてお疲れ様でした。以下が個別評と総評です。

子鹿白介
《初読感想》と《熟読考察》とで読み解きにコントラストをつけるアイデアは面白いと感じた。しかしアイデアが十分活かしきれていない。初読と熟読を分けたからこその熟読での核心に迫る一文が欲しかった。拙作に5点勝ち抜けを下さった事に心よりの感謝を捧げつつも、血の涙を飲んで忖度なしの、3点。

綾門優季
「興奮」を基軸に読み解くスタイルかと思いきや、肝心の興奮の根拠の提示が薄く、感想に近い。ジャッジの「評」としての突っ込んだ姿勢が見たかった。ただ拙作に4点を頂き、読んで下さった事に心よりの感謝を。しかし涙を飲んで忖度なしの、2点。

江永泉
各作を記号化し、採点基準を設け整理しようとした試みは理解できるが、それが仇となり読みにくい。作品を評するのに別の作品で例えるのは例えられた作品を知らぬ者には何も伝わらない。何かを言った風で実は何も言っていないに等しいのではないか。試みは応援したいが成功しているとは言い難く、しかし拙作に4点を頂き感謝がつきない評者であるが、涙を飲んで忖度なしの、2点。

田中目八
『サマー・アフタヌーン』評では俳句への解像度が低い私にもわかり易く見事な手捌きだったが、『スイカ弾き』での正弦曲線の波形に基づく内容は非常に面白かったものの評としての物足りなさを感じた。全体を通して作品の中心より周辺を評している感がある。突っ込みの弱さを感じての、3点。

春Q
上手くまとめられており、具体的な作品への指摘と賞賛が散りばめられ、作品個別の評としてはバランスが取れていた。しかし、それぞれの作品の評の差が判りづらく、勝ち抜けとした作品への根拠が不明瞭。ジャッジもまた戦う事を求められる舞台故に勝敗の差異は重要と考える。だが作品個別の評内容を加味し、4点。

白髪くくる
予想を超える要素への「必然性」という足枷を自身の読みに与えて制限をかけてしまった事は果たして良かったのか。今回のラインナップでは読みを狭めてしまう。その事で評が凡庸に収束していく展開となっている。抑制せずに挑みかかって来て欲しかったというのはジャッジされる側としての意見だ。2点。

野村金光
挑みかかって来る強気の姿勢は賞賛に値する。しかしやや作品に返り討ちにあっている感が否めない。例えば『収集癖』に於ける「商社マン」「IT社長」「GAFA役員プレゼンにて」の例えを列挙して脱世俗の一面をあばこうとするが、むしろそれこそがこの作品の美しさでもある為、その指摘にはあたらない。『死にの母』での一部文体の指摘に関しては頷けるものはあった。闘志に3点。

冬乃くじ
氏の読みの抜きん出たところをわかり易く一つあげれば、「寺山修司」の登場である。他にも持論の展開が面白く、その文体には、評もまたブンゲイであるところを想起させる言葉運びと読ませるグルーヴがある。またドキュメンタリー性も帯びており、例えば拙作の評での石を実際に落としてみる下りなど実に身体的なダイナミズムがあった。今回の異形の作品群に対してのジャッジの結果としては氏の評を断固推したい。しかし長すぎる事から減点して評価は4点。残念。

世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル
静謐で厳格な評である。評者の作品との対峙の仕方には緊張感がある。読みの正確さと端的に突いてくる語りには力量を感じる。しかし硬さが仇となっている。作品内の視点のずらしやアイロニーとしての表現への評にそれを感じた。例えば『死にの母』のしゃれこうべが砕ける場面での笑いについて、拙作の会話文への言及がそれにあたる。今大会の決勝ジャッジには、逸脱や皮肉への解像度の高さが必要と感じ、4点。

総評
突っ込んだ批評の少なさが目についた。全体に当たり障りなく感じるのは、作品の異形さからか。だとしたら、それは作品に対して評が負けているのではないか。技術的な言及や、仕掛けやメッセージについての考察が「ありきたり」につきる。間違いを恐れてか、ハッとする解釈や作品に対する気付きが少なかった。勿論字数の関係はあるだろうが、だからこそ誰もが感じるところ以外の何かにフォーカスしてほしかった。そのせいか、結果も作品のラインナップからすると保守的なものに感じた。そんな中で抜きん出た評は冬乃くじ氏によるものだった。間違いを恐れず投げかける解釈とそれを成立させようとする腕力はこの戦いの舞台に於いて必要と感じる。しかし規定枚数の逸脱度合いには他評者との不平等さが目につく。だがそれを言及される覚悟も窺える事から、冬乃くじ氏を決勝ジャッジとして推したい。トリックスターを送り込み祭りを盛り上げたい意向もあって、決勝ジャッジに推薦します。見たいんだ、もっと祭が。盛り上げてくれ!
★決勝ジャッジ推薦 冬乃くじ


蜂本みさ


ジャッジの皆様、採点&担当作品の個別評お疲れさまでした。すべての評を興味深く拝読しました。ファイターによるジャッジのジャッジ、ジャジジャッジ!の枚数は1~5枚とのことですが、個別評を書いたあとでもしかして【各】ではなく【全体で】っぽいことに気づきましたが後の祭りでした。前もこの間違いした気がする、知らんけど。
採点について、ざっと読んで大きな瑕疵のある評はなかったので1点は使わず、2点×2、3点×3、4点×3、5点×1を割り振ろうとあらかじめ決めて臨みました。

子鹿白介(3点)
綾門優季(4点)
江永泉(2点)
田中目八(4点)
春Q(2点)
白髪くくる(4点)
野村金光(5点)★
冬乃くじ(3点)
世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル(3点)

子鹿白介(3点)
初読感想と熟読感想を分けるアイディアが面白かったです。初読はさらっとしていて軽いのですが、熟読で作品の不穏な部分に踏み込んでいくのは味が変わる感じで楽しい。特に鳴骸「庭には」の評は絵柄変わってない!?というほどの変わりようと、「〝鰐捕り〟を呼べばよかったですね。」のとぼけた指摘に笑いました。一粒で二度おいしい文章でした。マッドさは感じませんが、親切で読みやすい文体で、どこに魅力を感じたのかがわかりやすく、普段文芸から遠ざかっている人にも受け入れられやすいのではないでしょうか。3作品に5点をつけているのに、「簡単に忘れられないから」と勝ち抜けに4点の卜部兼次「火葬場にて」を選んでいるのはねじれがあって、ファイターとして興味深いです。ただ、熟読で加点したことによって4点と5点ばかりになってしまったのはもったいなかったです。勝ち抜け票で引き分けにならなければ点は響いてこないとはいえ、4点なら4点、5点なら5点の中にもっとグラデーションがあるのではないかと感じます。どんな点を高く評価するのかがもう少し見えるとよかったです。

綾門優季(4点)
カフェで友達から直に感想を聞いているような語り口は、ちょっとリラックスしすぎな気もしますが読みやすかったです。「興奮したかどうか」を基準にしている通り、ブンゲイファイトクラブらしいジャッジを心がけている印象を受けました。一方でホラーに分類される演劇をつくっている劇作家というバックグラウンドや、そのためセリフを重視するという特性、言い換えればクセも感じられます。個人的にはクセのあるジャッジは好みです。勝負の行方がわからなくなり、ブンゲイファイトクラブという野良ファイトならではジャッジが生まれやすくなるからです。首都大学留一「CWON善光寺街道」は面白かったと思うのですが意外にも2点。他にも容赦なく2点をつけた作品があり、低得点をきちんと使ってくるジャッジを私は信頼します、なぜこの評価なのか個別評がない作品についても聞いてみたいです。フィクションで描かれがちな人間関係やミステリなどある種の確立された型に厳しいのかな、と感じました。

江永泉(2点)
せっかくのBFCなので、挑戦的な文体や意欲的なフォーマットも評価できる人に決勝ジャッジを託したいという気持ちがあります。独自の採点基準を導入しているため、点数を手放しで受け取るのは早計かもしれませんが、結果としてオーソドックスな作品に高得点が集中しているように思います。これは私がオーソドックスな書き手だと自覚した上での発言ですが「普通」というか、「普通に強い」作品ですね。それでいいのだろうか、とファイターでなく読者として少し思います。採点基準そのものも明確なようでいて、付された一文は意味より風味が強く、なんだかピンときませんでした。また、既読作品を切り貼りして評するのは(少なくとも評に最後まで残すのは)やめた方がいいと思いました。理由は(1)自分の触れたフィクションでしかジャッジできないから(2)ラベルをつけた時点で理解が止まり、思考が縛られるから(3)作者がカチンとくるから の3点です。でも、「採点行為は模倣を促す」「だからこそ距離をとる」という問題意識は評価したいです。また仮想の決勝マッチングは面白く読みました。私も藤田雅矢さんと戦ってみたかったです。同種族対決の趣が強いですが。

田中目八(4点)
作品を読んで浮かんできた感情を丁寧にすくって並べた語り方に好感が持てました。なるべく作品に寄り添って、掴みきれない部分にも積極的に歩み寄り、ころんと縁側に置いていくような評でした。俳人である筆者らしく細部にまで注目した読み解き、というか味わい方は面白かったです。特に海野ベーコン「サマー・アフタヌーン」評は、落ち着いた調子の個別評の中で厳しくも熱がこもっていて、この作品にこのジャッジが当たってよかったと思いました。音韻や破調に言及した評はもっと読みたいです。BFCで短詩系の作品が暴れるところをもっと見たいと常々思っているのですが、そのためには短詩の素養があるジャッジの存在が欠かせません。一方でなるべく作品の良い面に光を当てていて、バランスも取れているので、若干の食い足りなさも感じました。これはわがままというものかもしれません。でも、もう少しクセのようなものがのぞくともっと面白いな、と思いました。

春Q(2点)
自分でもどうしてなのかわからないのですが、評が印象に残りませんでした。何度も読み返してみて、肯定的にも否定的にも両面取り合わせて書かれているし、作品を引用しながら根拠を示して語っているし、もっとどうだったら良かったと具体的に示しているし、うなずけないような意見でもなく、きちんとした評だと思うのですが、「なるほどな」と思った直後手の中に何も残っていないのです。これはひょっとすると読む側の問題で、文章のバイブスが合わないのかもしれません。どう合わないのか言語化しようとしても、関節が固いとか体温を感じないとか比喩的な表現になってしまい、イチャモンだなと思うのでこれ以上は控えます。ここまで書いてきて思いましたが、作品からの引用が多いのがひとつの理由かもしれません。引用して取り扱う時にパーツとしてバラバラになってしまっていて、全体の中に位置づけられていないというか。そして評全体を見渡しても個々の評を統合する視点が見いだせないので困ってしまうというか……。もっと血肉で書いた評が読んでみたいです。ああ、また比喩表現を使ってしまった。すみません。

白髪くくる(4点)
作品を読んで「これまで生きてきた私」の中にどう響いていくのか、丹念に観察するような評に好感を持ちました。冒頭で示されている通り、何よりもワンダーを重視しているとのことで、ファイターにとってはプレッシャーとなるジャッジだと思いました。ただ、ワンダーを求める割に感情移入できるか否かでも評価が二分するのか、冷淡な評と熱の入った評が入り混じっている印象です。納得できる指摘も多い中、萩原真治「麺shock!!」に「ラーメン愛を作中人物ほど持っていない」という理由で入り込めていなかったのは「それぐらい想像してノッてあげなよ~」と思いました。そして海野ベーコン「サマー・アフタヌーン」では3点をつけつつも共感しながら楽しく読んだことが伝わってきました。首都大学留一「CWON善光寺街道」評は読んでいてとても面白かったです。間田村の元ネタの指摘に始まり、踏韻やラストに向かっての高まりなど魅力を書ききっていて拍手を贈りたくなりました。

野村金光(5点)
全体的に手厳しくも的確な評でした。文章を磨きたい人にとって、編集者や第一の読者になってもらえたらとても心強い読み手だと思います。クセのあるジャッジも好きですが、批評眼がキンキンに研ぎ澄まされているジャッジも好きなので5点をつけました。結構点がばらけているので各作品の細かな評も聞いてみたいです。私の作品にいただいた3つの個別評のうちでは、もっとも納得できつつ痛いところを突かれたなという感想を持ちました。過剰表現との指摘については「いや、それだと体感として短いんです、溜めが必要なんです」など反論もありますが。また、茶化しながら記憶に没入する語り手について「同一人物とは思えない」とは心外です。それこそが私という人間のチャームポイントだからです。作品をいくつか読むか、会って話せばわかっていただけるのではないかと思います。野村さんはBFCの懇親会にいらっしゃいますか? 矛盾した両面をあわせもつ本物の蜂本をお目にかけますよ。お会いしましょう。

冬乃くじ(3点)
他のジャッジに比して評が長く、語り口は熱っぽく詳細で、引き出しも多く、批評として興味深く読みました。筆者にしか書けない評だと思います。一方で、関心の強いトピックを検知すると作品を論に引き寄せて爆発的に饒舌になる傾向があり、危うさを感じました。面白いけど作品評としては慎重に読むべきという感じ。私の作品は家父長社会を軸に語られており、私自身は生き死に全体の無常さについて書いたつもりだったので驚きました。もちろん読んだ人の解釈を否定するものではないし、背景としてはあるのでしょう。特に母という役割についてのは指摘は鋭いものでした。ただ、祖父から支配者性のみを切り取るのは拙速と感じます。たとえば序盤の説明で若くして働くため家を出されたこと、特攻隊に招集されたことからわかるように、祖父とて天皇を頂点とする家父長社会の犠牲を払わされています。そうした構造を見ずに支配-被支配の関係だけをつまんで書くのは一面的ではないでしょうか。そして最後に、死にの母が立っていると二度描写されているのに評で「座る」となっているのは、らしからぬ凡ミスだなと思いました。かなり無理をされたのではないでしょうか。決勝に勝ち上がった際には丁寧なジャッジを期待したいです。

世界彗星灯台プールサイドアサルトライフル(3点)
割り振られた作品だけでなく、5点をつけた作品の個別評も書かれていて読み応えがありました。またDJ SINLOW「ブンゲイテクノ」や高遠みかみ「収集癖」などの短詩に属するもの、音韻を用いたものに高評価をつけている点にも好感を抱いていいます。どこで惹き込まれたのか、どこを物足りなく感じたのかが過不足なく書かれているのでフィードバックとして優秀でした。勝ち抜けに押した高遠みかみ「収集癖」評は「収集」という形式が持つ革命性を指摘していて面白く読みました。この作品が勝ち上がっていたらすごく興奮したでしょう。私の作品への個別評には「たしかに」と思うところもありつつ、「でもまあ、書きたいんで」で議論が終わってしまうものではあります。ただ死という全生物に運命づけられている抗いがたい事象に直面した時、防衛として記号化がなされるのではないか、と気づけたのは収穫でした。そして、古来のイメージに変奏を加えながら実直に語る以外に、死を描くまったく新しい方法はあるのだろうか、というのは考えていきたい点です。





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