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私が惹かれる人は、なぜかいつも「僕は友達がいない」と言う人だ。

ヒロインを演じる女優の名前さえ覚えていないのに、わたしが好きだと言う映画のストーリーや背景を「もういいよ」と、わたしが言うまで話し続けるような人が好きだ。

ハノイで出会った、とんでもなく頭のいい人の話をしたい。

わたしが海外で働きたいと思った理由のひとつに、「日本から出て、たくさんの人に会いたい」というのがあった。単純だけど、本当にただ、世界中のいろんな人に会いたいと思っていた。自分とは違った環境で育った人たちの世界を、見てみたかった。

きっかけは、大学生の時にたまたま地元の図書館で読んだ本の中に見つけた文章である。

世界でライバルを見つける。1億2千万人の中から自分の目標を見つけるのもいいが、世界にはその70倍の人口がいる。確率的にも、70億人の中には日本では見当たらないくらい有能で面白い人がいる。


ベトナム人は、働かない人(主に男性)も多いけど、やる人はとことんやる。真面目な人は、もう本当に素晴らしいくらいにとことん優秀である。そんなベトナム人に、たくさん出会った。

例えば私の相方Myちゃんは、ハノイでいちばん有名なハノイ貿易大学を卒業している。前に、ここを卒業した人は桁違いに頭がいいと聞いたことがあった。たまに仕事中にパソコンでショッピングをしているけれど、お願いしたことは一瞬で終わるし、エクセルの表計算なども一瞬。今は日本の大学に留学するために、語学を一生懸命勉強している。


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日本を出たこの1年半の中で、特に衝撃を受けた人は2人いる。

1人は間違いなくこの人。わたしは彼に影響を受けて、自分の仕事観とか、生き方とか、もう本当に全てが変わった。6月から世界一周へ出発するようなので、ぜひどこかの国で彼に会ったら仲良くしてあげてほしい。「友達はいない」「ひとりでいることが好きだ」と、言うけれど、いつも人に囲まれていて、どんな場にも馴染める勇気がある。社交的さはピカイチである。


ベトナム人を挙げるなら、この人。

ハノイで出会った数学青年
彼との出会いは、わたしが会社終わりに、呼んだGrabを待っている時だった。その日は雨で道路はだいぶ混み合っていた。彼は電話で誰かと話をしていたかと思えば、その電話を切ってわたしに話しかけてきた。

「4階のオフィスで働いているよね?」


彼のことは知っていた。いつも4階の廊下で誰かと電話していた。綺麗な英語だなぁと、思っていた。Myちゃんと歩いていた時、彼の電話の声を聞いてこう言った。「あの人、フランス語を話している。」

そう、彼はフランス語と英語がネイティブ並みにうまかった。


あまりにもGrabが来るのが(運良く)遅かったので、彼と少し話をした。どんな仕事をしているかとか、どこに住んでいるのかとか、他愛もない話。

もうすぐ日本に帰る話をすると、最後にお別れ会をさせてと、素敵なベトナム料理のレストランを予約してくれた。そこで彼の優秀さに衝撃を受ける。


そういえば、わたしは彼のオフィスのスタッフの間で「まる子」と呼ばれているようだった。髪型が、ちびまる子ちゃんに似ていたからだ。まぁそれは置いておいて、彼はフランス系の保険会社で保険数理士として働いている。そもそも保険数理士という職業を彼に出会うまで知らなかったのだけど、なんでもベトナムにはまだ10人ぽっちしかいないらしい。

彼は18歳の時にアメリカに留学して、その後ヨーロッパに移った。母は先生で、父は医者。父と母は離婚していて(意外にベトナムでは珍しくないそう。男性の浮気がほとんどの理由らしい。)今は母の元で暮らしている。ヨーロッパで学ぶために奨学金が必要だったので、アメリカの大学をトップで卒業し、奨学金をゲットしてヨーロッパの大学院に進学した。


そして1年ほど前にベトナムに帰ってきた。フランスでそのまま働くか悩んだけど、自分の国のために働きたいと思った。ベトナムは農業の国なのに薬ばかり使ってオーガニックのものが少なすぎる。だからフランスで学んだことをベトナムのために生かしたいと誇らしげに語っていた。ベトナムの人は、愛国心が本当に強いと思う。いちどは外に出た優秀な人が、母国のためにその知識を使いたいと戻ってくるのだから。

ベトナムの有名な新聞記事を見せてくれた。記事の内容はベトナム語だったので、読めなかった。彼の写真が載っていた。


彼は言った。「18歳の時には、もう自分が何をやりたいかわかっていた。」自分で会社を立ち上げ、保険数理士としても働いている。週末にはフランス留学を目指すベトナム人に向けて、大学で講義をしている。

彼はいつもオフィスの外で頻繁に誰かと電話をしていた。彼の能力を周りのみんなが認めていて、彼の仕事に対して口出しをする人はいない。


わたしは、自分が18歳だった時のことを思い出した。もちろん、自分のやりたいことなんてこれっぽっちもわかっていなかった。だからつぶしのきく文系の4年生大学へ進学した。高校を卒業する段階で自分のやりたいことがわかっていて、専門学校やその分野の道へ進んだ人のことを本当に尊敬する。

ベトナムで出会う若者の熱量は、特にすごい。「自分が国を変えたい」という情熱を持っている。日本語を話せるだけで給料が2倍になると、聞いたことがある。みんな、自分自身を武器にするために必死で勉強する。


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わたしは映画が好きだ。わたしが好きと言う映画を、彼は全て観たことがあった。演じている女優と俳優の名前はもちろんのこと、その映画を作った監督や、背景さえもとても細かく教えてくれた。

「きみに読む物語」をわたしが好きなので、一緒に観たことがある。老人になり、認知症になってしまったヒロインのアリーは昔の記憶を全て忘れてしまう。恋人のノアがそれを思い出させるように、ノートに書かれた物語を彼女へ読み聞かせる話である。

彼はその映画を、子供の頃に見たことがあると言った。しかしどのシーンもかなり鮮明に覚えていて、次はこうだとか、この洋服を着ているとか、最後はこうなるとか、全てを事が起こる前に話した。わたしは怒った。

わたしは、この映画が好きだ。しかし、観たのは10年くらい前が最後だと思う。実際、あまり内容を覚えていなかったわたしに、彼は言った。

「君はアリーなの?」


いちど観たものは忘れないらしい。自分でも怖いくらいに、全てを覚えていると言っていた。


彼は、好きなものをとことん追求した。一緒にビュッフェを食べに言った時、ひたすらサーモンばかり食べていたし、18歳のときからずっと同じ香りのシャネルの香水を使っている。友達が経営しているという好きなカフェとクラフトビールのお店がハノイにあって、時間があるときはいつもそこへ行った。行くお店はいちども変えなかった。

学生時代パリにいたので、このシンプルな生き方はフランス人から影響を受けていると言っていた。そういえばわたしも前に、「フランス人は10着しか服を持たない」という本を、読んだことがある。

違うお店に行きたくならないの?と聞くと、「若い時はもちろん色々試したけど、今はもう好きなものを決めて、それだけ。迷わないよ。」と言った。

「それに友達がやっているお店を助けたい。どうせお金をつかうなら、大切な友達のためにつかいたい。


彼はとても社交的だったので、友達がたくさんいた。それでも私が「週末いつも何してるの?」と聞くと「本を読む」とか、「仕事」と言う。ベトナム人はあんなに友達とカフェでお茶をして暇をつぶすのが好きなのに「友達と会わないの?」と聞くと、彼はこう言った。

「僕は友達が少ない。あまり大人数で話すのは好きじゃない。本当に大切な人とだけ、連絡を取る。」

「実際、僕を信用して友達と言ってくれる人は多いけど、僕自身は友達がたくさんいる方だとは思わない。」

大切な時間を、本当に大切な友達と、本当に大切な自分のためだけにつかう。

だから映画も本も、好きなんだよ、と。


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ハノイに来て、いちばん大変だったこと。というか、社会人になって、大変だったこと。

わたしは周りの人みんなを、大切にしたがった。


毎日誰かと会っていた。もちろん友達がたくさんいることは嬉しかったし、わたしの喜びでもあった。そもそも、たくさんの人に出会いたいと言ったのは、わたし自身なのだから。

そんなこんなで、もちろんハノイ生活はかなり充実した。何もしない日はなかったし、誰にも会わない日もなかった。営業職なので仕事もそれで順調にうまくいったし、それが自信になり、毎日が楽しかった。


でもあるとき、大切で本当に会いたい人たちのために時間を作れていないなぁと思った。会食ばかりを入れて、大好きな友達にご飯に行こうと誘われても、行けない日々が続いた。今のままじゃダメだということに気づいた。

友達が多いことや人脈が広いことは、実はあまり自分にとって重要でないのかも、と思った。本当に大切にしたい人たちと、本当に大切な自分のためだけに、大切な時間を費やすことが最も重要であると、ベトナムが教えてくれた。



24歳、多分もうちょっとは色々なことに挑戦するべきだと思う。自分の好きなことを追求するために。でもこれからどんどん自分の「好き」とか「大切」を自分の意思で選択して、自分の大切な時間をそれだけに費やせる大人になりたいと思う。人も、仕事も。

好きな仕事をしてそれで仕事が忙しくなれば、自分の時間も限られる。空いた時間はもちろん自分の意思で選んだ「大切なこと」や「大切な人」のために使いたい。


行動や経験の中で少しずつ、自分のやりたいことや「好き」を発掘して、理想に近づけたらいいなぁ。


教えてくれた大切な友達、ナムとダンに愛を込めてこの記事を送ります。(教えてない。)


※ラオス・ビエンチャンの、たまたま入ったよきフランス料理屋さんで書いています。店員さんがグット。

Tango Pub Bar Restaurant
Open:10AM-11PM


いつも見てくださっている方、どうもありがとうございます!こうして繋がれる今の時代ってすごい